第18話 悩める友達関係
イサベラはエミリアと手をつないで歩いていた。
そう、ついに念願かなって、手つなぎ友達になれたのだ。
「(やっぱり手をつなぐって最高!このぬくもりが、つまり生きてるって実感で・・・、あれ?これはどこかで同じ事を考えたような・・・。)」
「イサベラの手、冷たい。」
突然エミリアがイサベラに不満をいった。
「え?ななな、なんでそんなこと言うの?」
「なんでって、ほらこれ見て、これじゃあ冷たいのも当たり前だわ。」
エミリアとつないでいたイサベラの手は、石になっていた。
痛みも触覚もなく、ただ冷たいという感覚だけが、芯にあるような感覚・・・。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」
いつの間にか、エミリアはゴニアに変わっていた。目に涙を溜めながら、必死に謝っている。
メディキュラス先生が、イサベラの手を取ってしげしげとみている。
「これはもう元には戻りませんね。」
「くぁwせdrftgyふじこ!!」
聞き取り不能の寝言を言いながら、イサベラは目を覚ました。
見慣れた天井、見慣れた部屋。
魔法学校から、カローナとイサベラに与えられた部屋であり、イサベラ達が生活する部屋でもある。
イサベラは自分のベッドの上に寝かされていた。
どうやら気絶した後に、ここまで運ばれてきたのだろう。しかしどのぐらい気絶していたのだろうか。
部屋の様子を見ようと、顔を横に向けると、エミリアがテーブルの上に数冊の本を広げ、ペンで何かを書いている。
イサベラは、まだ半分夢に片足を突っ込んでいて、ぼーっとしていたため、状況がよく呑み込めなかった。
「(ああ、エミリアがいる・・・。ぐすん、ごめんなさいエミリア。あなたと手をつなぐ前に、私の手は永遠に冷たくなってしまったの。はっ!そういえば私の手!あれ?いやっ、その前にエミリア?!エミリア!!!)」
「はわっ!はわぁぁぁぁぁっ!?」
「あら、イサベラやっと起きたの?カローナ先生ぇー!イサベラが起きたみたいです。ぷぷっ、それにしても変な寝言ね。」
「エミリア!なんでここに?!」
うれしいような、恥ずかしいような、いや、はっきり言って恥ずかしい。
メディキュラスの部屋ほど汚くはないが、なんというか・・・、この部屋でカローナとイサベラは暮らしているため、生活感が所々にあふれ出ている!
部屋の隅には、かごに溜められた洗濯物があり、最悪なことに、イサベラの靴下が片方だけ、床にこぼれ落ちている。さらにエミリアが座っているテーブルの反対側には、今朝食べたお粥の椀がそのままになっている。
「(先生!片づけてってあれほどっ!)」
羞恥と怒りで血の気が引いて、また気絶しかけたところに、カローナが部屋の奥から様子を見に来た。
「やっと起きたのね~。あなたをここまで運ぶの大変だったんだから。まったく手ぐらいで大げさなのよ。」
「(はっ!そういえば!私の手!)」
イサベラが慌てて自分の右手を見ると、その右手は元通りに戻っていた。
「はあぁぁ、よかったぁぁ。」
イサベラは、あんな夢を見た後だっただけに、本当に安堵した。よく考えてみれば、メデュキュラス先生は石化と石化解除も自由自在だと聞いていたことを思い出した。おそらく直後に元通りに直してくれたのだろう。
「良くないわよ。私たちも迂闊だったけれど、あなたが勢い良く握手の手なんか差し出すから、ゴニアも思わず握っちゃって・・・、あの後、大泣きしちゃって大変だったんだから。」
「や、でもっ、でもっ、うぐぅ・・・。」
こっちが被害者なのに、とにかく泣かした方が悪いという、この理不尽な女の子世界の鉄則!
納得できないが、納得できてしまうところがまた悔しい。相手が泣いたら、「可哀そう!」という自責の感情がやはり先に来てしまう。
エミリアが割って入ってくれた。
「まあでもカローナ先生、イサベラも仲良くなろうと、良かれと思ってですよね。怒らないで上げてください。」
「エミリア♡!うんうん♪ありがとう!あ、でもどうしてここに来てくれたの?(もしかして私のお見舞いに?)」
「カローナ先生に、提出課題見てもらっていたの♡」
ルンルンのエミリアとは対照的に、イサベラの目が切れ味鋭く細くなり、カローナをじっとりと見つめる。この嫉妬力で石化能力が開花しそうだ。
「な、なによ。とにかく、私からメディに『もう大丈夫』って伝えておくけど、ゴニアには、イサベラはまだ直接話さない方がいいかもしれないわね。」
「どうしてですか?」
接近禁止とは?!カローナは、羞恥心と嫉妬心という
「すごく自分を責めちゃっているから、情緒不安定になると、能力が暴走することがあるのよ。まずはメディが新しい『瞳力封じの眼鏡』を完成させてからね。」
そういうことでした。
「ゴニアって、確かに怖がられてましたけど、誰かを石化しちゃったっていう話は聞いたことなかったですよね。今日のイサベラの話を聞いて、私もびっくりしちゃいました。」
「いや、そもそも、メディの作る
カローナがそう言うと、イサベラの方をじっと見た。エミリアも見ている。
「え?な、なんですか?私のせいだっていうんですか?エミリアまで、ひどい!」
口ではそう言いながら、「意識されている」という事実に、イサベラはまんざらでもなさそうだ。この調子の乗り方は、なかなかイラっと来る。
「・・・ゴニアが落ち着いたら、イサベラはまた会いに行くの?まあ、頑張ってね!」
何故だろうか、「頑張ってね!」のところだけ、何だか突き放すような、棘のあるような、しょっぱい切なさを感じる。
イサベラは意を決して聞いてみた。
「エ、エミリアも一緒に来てよ・・・、その・・・と、友達じゃない。」
「嫌、無理よ。わかるでしょ?」
即答だった。
イサベラは「なして?」という青ざめた顔で、あわあわと口をパクパクさせることしかできない。
「それじゃあ、カローナ先生、ありがとうございました。イサベラ、また明日ね~。」
エミリアが帰った後も、まだ少しあわあわしていたイサベラを見て、カローナはため息をついた。
「いやね、イサベラ。無理に決まってるじゃない。」
何が「決まっている」のか?イサベラには全然わからなかった。
そうイサベラは大事なことを忘れていた。とても基本的で大事なことだ。
「あら!靴下をこんなところに散らかして!恥ずかしいわねぇ。」
大事というか、大惨事というか、大変なことだが、これのことではないことは確かだった。
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