第13話 防御魔法
あの日以来、エミリアは頻繁にイサベラたちの教室に来るようになった。
とりあえず、昼休みはよく来る。授業が終わった後も来る。おかげでイサベラは、普通の女の子になれない悪夢にうなされながら、机でよだれをたらすこともなくなったが、エミリアの話題はカローナの事ばかりなことと、カローナに会うと満足したように帰ってしまうことが甚だ不満だった。
放課後こそがキャッキャウフフの本番なのに!
一緒にお出かけしたり、手だってつないで歩きたい!
そう、地下宮では嬉しさで抱きつかれたりもしたけれど、手は結局つなげなかったのだ。ローブの袖につかまりっこしただけだ。
何事もなく地下宮から出ていれば、
イサベラはエミリアのローブの感触を思い出しながら、にぎにぎと自分の手のひらを見つめた。
「・・・って言うことなの。わかる?イサベラ?」
完全に上の空で、カローナの説明は右の耳から左の耳に抜けていた。
「え?あっ、はい。わかります。カローナ先生。」
上の空だったのはもちろんばれている。カローナの目がすぅーと細くなる。
「何がわかったのかしら。言ってみて?」
「えーっと、シルクのローブはすごくさわり心地がいいということがわかりました。」
「ぜんぜん違うわよ。すかぽんたんちゃん。死霊術における防御魔法のお話ね。」
「・・・(くっ、すかぽんたん。・・・うわの空は先生のせいでもあるのに!)」
「こらこら、何で私をにらむの。余計に印象悪くなるわよ。それに地下宮でクエストやってから、ボーっとしていること多いわよ。もっとシャキッとしなさい。シャキッと。」
「・・・すいません。やっとできた友達が、月仮面さんという謎のお方に心を奪われてしまい、私につれないんです。それで授業に手がつきません。」
「んま!人間とは欲深いものね・・・。エミリアとはお友達になれたんでしょう?おまけにしょっちゅう来てくれているじゃない。作戦大成功ね!その上、独り占めまでしたいの?」
「はい、でも月仮面さんが目当てらしく・・・、独り占めどころか・・・、えぐっ、満足したら友達を置いて、帰ってしまいます。ふぐぅ、わだしだって・・・、わだしだって・・・。」
「わかった、わかったから!おそらく月仮面さんも正直少しやりすぎたと思っています!いくら人助けとはいえ、久しぶりの人間相手の魔法に、はしゃぎ過ぎてしまったのだと思います。」
白々しい、そして恨めしいカローナの言い訳に、イサベラは下唇を噛みながら非難めいた視線を送る。
カローナはかまわず続けた。
「そこでですよ、イサベラさん。もう二度と月仮面さんのお世話にならないためには、どうしたらいいと思う?」
「?・・・月仮面さんにかっこ悪いひと芝居をうってもらって、エミリアに幻滅してもらうとかですか?」
「(根に持ってるわね。)違います。いいから月仮面さんから離れなさい。そうじゃなくて、ピンチにならないためにはどうしたらいい?ってことよ。」
「・・・防御魔法って事ですか?」
「そのとおり!」
なんだか強引に今日の授業の主題に戻されたが、すぐさまイサベラはあからさまな難色を示した。
「えぇ~。」
「なによ。すごく不満そうね。」
「だって、死霊術の防御魔法って、基本的に『死霊を召還して盾にする』えげつないやつじゃないですか。もっと女の子らしい可愛い防御魔法がいいです。例えば
「死霊術にそんなのあるわけないでしょ。それにあれは幻惑を使って姿を消すだけの魔法だから、広範囲の魔法攻撃とかには弱いわよ。それよりも『
「・・・可愛くありません。それに姿を消す時の、あの闇に引きずり込まれるような感じが特に可愛くないです。」
「ああもう!無い物ねだりしないの!じゃあ、ずっと月仮面さんに助けてもらうのかしら?」
「ぐぅ、・・・せ、せめて、エミリアがディアード先生に貸してもらっていた
「瑞々しいかはともかく、楽ちんなのはあるわよ。ほらこれ。」
カローナは首からかけた髑髏の首飾りをこつんとはじいた。
ヒィィァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!
聞くに堪えない悲鳴が髑髏から発せられ、脳や神経、肺腑を鷲掴みにされたような衝撃が全身を包みこみ、イサベラは眼を見開いたまま行動不能の硬直状態になった。
『
魔力消費なし、発動時間なしに、範囲内の対象を一時的に行動不能にする、魔法品『
「見ての通り、周囲のモンスターや人間を動けなくする魔法品だけど、これで何度命を救われたことか・・・。死霊術士しか使えない品だから、ゆくゆくはあなたの物よ。ふふっ。」
周りを巻き込む防御魔法なら、一人ぼっちでしか使えないと言う、イサベラにとってはほとんど呪いのアイテムだ。
「それによく見ればほら、これ可愛くないかしら?」
うすうす感じていたが、やっぱりカローナは趣味が悪い。自分も死霊術士として大成していくとこうなってしまうのかもしれないと言う薄ら寒さが、
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