第3話 え?実戦?

「じゃあ先生。そろそろ名案とやらをお願いします!」


 イサベラは期待で机をきしませながら、カローナに催促する。


 チャッキー人形の暴走をのりこえ、その後はアンデットの召還から操作への流れを繰り返しながら、ノーミスで課題をクリア。コツは完全に掴んでいた。チャッキー人形の首を回転させつつ、カローナに催促する余裕まである。


「まあ、待ちなさい。話はまだ終わっていないわ。まずはチャッキーの首を止めなさい。だめ、睨んでもだめ。いいから止めなさい。」


 不満そうなイサベラが術を解くのを見てうなずきながら、カローナは続けた。


「いい?わかっていると思うけど、今日のアンデットを召還して操作するというのは、ほとんど全ての死霊術の基本になるわ。これができないと、戦闘ではほとんど役に立たない。鬼火ウィルオウィプスは威力が弱いし、かといって連発すれば、今のあなたならすぐに魔力がすっからかんになる。パペット・アンデットも、いつも手ごろなアンデットが戦闘時にそばにいるとは限らない。滅多にないけど、死霊術師同士の戦いでは、さっきみたいに暴走させられることもあるから、実践では揺るがない支配力が必要よ。」


「・・・ん?んん?先生!今、実戦と仰いましたか?」


「言ったわ、それが何か?」


「もう戦争とかないじゃないですか。モンスター討伐とかも重労働の割りに報酬は少ないし、戦いに明け暮れた、先生みたいな殺伐とした、灰色の青春は嫌です。将来は街で降霊術占いとかやって、楽して儲けて暮らしたいですぅ。」


「ふふん、いつまでその減らず口が叩けるかしら?さて、説明は終わり!これからいよいよ、友達作り大作戦の名案を発表します。」


「え?」


「題して『ダンジョンでお友達を探すのは間違っていない』大作戦よ!」


「何ですかそれ、期待はずれすぎて涙が出そうです。人間のお友達は諦めろって言うことですか?」


「これこれ、話しは最後まで聞きなさい。さっき実戦って言ったでしょ?イサベラには、パーティーを組んで、ダンジョンに入ってもらおうと思っているの。」


「ダ、ダンジョンでお友達って、まさか冒険者の人たちと?いやぁぁー!!ムキムキはいやぁぁー!女の子の友達がほしいんです!知ってるじゃないですか!」


「いやいやまさか。さすがに冒険者とパーティーを組ませるのは、どんな人間がいるかわからないし、危なっかしいわ。あなたが死霊術師とばれたら、下手したら討伐対象よ?」


「お、脅かさないでください。」


「くくっ、人の青春を灰色とかいった罰よ。まあ、討伐対象というのは冗談にしても、死霊術師に対する警戒心は強いでしょうね。だから今回は、死霊術師に理解のある、ここ王立魔法学校の生徒といってもらうわ。」


「『理解ある』って、ここでもめちゃくちゃ避けられてますよ。うっ、思い出したらまた涙が。」


「ほらほら元気出して、ようはきっかけヨ!きっかけ!私だって一緒に戦場をかけ抜けて、信頼関係を作れたんだから、イサベラだって近場のダンジョンでちゃちゃっと実戦やって、パーティーのハートを鷲づかみよ!ふふっ」


「ダンジョンかぁ、あまり気乗りはしないですけど、そんなにうまくいきますかね。」


「逆にきくけど、ここで座っててもうまく行くと思う?」


 無理だ。この教室は明らかに避けられている。イサベラはうつむきながら首を振った。


「でしょ?じゃあ善は急げね。早速ディアードの所にいくわよ。実はもう約束してあるのよ。多分もう待っているはずよ。」


「い、今からですか?」


 樹魔法師ディアード、慌てもしたが、イサベラはその名を聞いて少し安心した。何度かあったことはある、おっとりとした微笑を絶やさない優しい女性だ。


(あれ?もしかして、この作戦いけそう?)


 イサベラはそう思った。このときは。

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