第28話 図書館探索

 イサベラたち三人は、図書館に来ていた。


 ゴニアの話では、以前に図書館で探しものをしていた時に、見つけた記憶があるという。


 それは、先輩たちの残していった、授業筆記張だ。


 王立魔法学校の図書館には、千年王国の魔法の英知が結集する、非常に由緒正しき歴史のある図書館だが、歴史がある分、蔵書は増えるばかりで、増築に増築を繰り返し、中央正門から外側に行くほど、迷路のようになっている。


 そんな無秩序に広がっていくうちに、ふとした拍子にできた部屋で、しばらく空き棚だった所に、生徒たちが勝手に要らなくなった魔法書やノートなどの私物を置いていくようになった。数人が置き始めると、あとは止まらない。今ではほとんどの棚もいっぱいになり、床に無秩序に積み上げられた書物も目立ち、イサベラたちのように、よほど変わった理由がない限り、立ち入るものも少ない、埃っぽい部屋になっている。


 しかし、個々の書物は管理されない代わりに、持ち出しも自由で、返却の必要もないので、置いて行く生徒はいまだに絶えないが、部屋ががいっぱいになったらなったで、持っていく生徒も意外と多いらしく、書物が部屋からあふれ出ることはない。


 時々、学校関係者の会議では、この部屋の書物の一掃が議題になるが、これまた不思議なことに、長い歴史の中で実行されたことはない。


「ここかぁ。確かにありそうね。」


 エミリアがつぶやくと、ゴニアも力強く頷いた。


「はい、前に確かにここで、卒業生たちが残していった、筆記張の束を見たことがあります。七属性概論のノートも、きっとあると思います。」


「二人ともありがとう、ありがとう・・・。探すだけなら私だけでもできるから・・・。」


「何言ってんの!ここまで来たら付き合うわよ。はぁ・・・。」


「私もです!ここを言い出したのは私ですから。」


 嬉しさで涙ぐむイサベラ。


「さっ、ちゃちゃっと三人で見つけちゃいましょう。」


 エミリアの軽い掛け声と共に部屋に入った3人だったが、嬉しさで滲んでいたイサベラの涙は、すぐに引っ込んだ。


 暗い、意外と暗い。


 そして広い、意外と広い。


 初実践で、エミリアと初めて地下宮に入った時の圧迫感とは比べ物にならないが、もし見つからなかったら・・・と、イサベラを不安にさせるには十分だった。もしこれで「見つかりませんでした」では、さらに先ほどの傷を再びえぐる、大惨事になるので、書物すべてひっくり返してでも、何としてでも見つけなければならない・・・。そんな悲壮感を持たせるほどの、暗さと広さだ。


 幸いなことに、ゴニアが大体の場所を覚えていたおかげで、筆記張の書物群はすぐに見つかった。


 ・・・が、そこからが目当ての筆記張探しは難航した。


 さすがに長い年数をかけて置き去りにされてきた書物郡だけあって、量が多い。そして、書きとられている授業内容は複数あり、いちいち中身を確認しなければならない。


「あった!・・・ああでもこれは・・・。」


 まさかの一発発見かと思われたが、エミリアは本をめくりながら残念そうにつぶやいた。


「初めの方はいっぱい書いてありますけど、後半はスカスカですね・・・。」


 横からのぞき込んでいたゴニアも残念そうに首を振る。途中途中が完全にすっぽ抜けているイサベラのためには、ゴニアほどみっちり書き込まれていなくても、ある程度、偏りなく書きとられている必要がある。


 その後も、七属性概論の筆記張は見つかったが、後半がスカスカなものが多く、または古すぎてボロボロだったり、ゴニアの筆記張のように、後半部分も書き込まれていても、文字の判別が難しいものなどがあった。どうやら七属性概論の授業の傾向として、初めは一生懸命書きこんでいても、要領が分かってくると、だんだんと適当になっていき、後半はほとんど書き込まなくなるらしい。


 それでも、何とかましなものを一冊だけ見つけたが、イサベラは甚だ不満だった。


「怠け者ばっかり!」


「(あんたが言うな・・・)」


「(イ、イサベラさん・・・)」


 自分のことを棚に上げて、口を尖らすイサベラに、心の中で突っ込みを入れたエミリアだったが、ふとあることに気が付いた。


 3人とも調べ終わった書物群は、それぞれのわきに積み上げていたが、ぼんやりとした変な違和感があった。特に自分の積み上げた書物から・・・。


「(あれ?これってひょっとして・・・。)」


 意識を凝らしてみると、間違いなかった。書物が魔力を帯びている。


 魔力を帯びた魔法書というのは、ざらにある。中には図書館ではなく、国の宝物庫に保管されるような伝説級の魔導書もある。


 しかし、いまここにある、ごみ同然の書物は、おそらく使っていた学生たちの魔力が微量にこびり付いたもので、一つ一つの書物が帯びている魔力は、ほとんどないも同然だが、それでもエミリアは無意識に、自分と同じ樹魔法の魔力を帯びた筆記張を選び取っていたらしい。それらが積み重ねられることによって、強まり、それでもまだ微量ではあるが、魔術師は、同じ属性の魔力を特に強く感知できるため、エミリアが気付けるほどにまでなったのだろう。


「ははっ、おろしろーい。気が付いた?この書物、魔力を帯びているわよ。」


「え?・・・そういえば、言われてみると・・・。エミリアさんよく気が付きましたね。」


「・・・私は全く気が付かなかったよ(汗)。」


 イサベラとゴニアのような特殊属性は、月魔法と金魔法の属性の枠には入るが、同じ枠のはずのそれらの魔力の感知が他の属性と同程度に鈍る。その代わり、まったく同じ特殊属性ならば、イサベラはカローナの魔力を、ゴニアはメデュキュラスの魔力をよく感知できた。エミリアが二人よりも早く気が付いたのは無理もない。


「ああでも、ちゃんと書きとられた筆記張見つけるのには役に立たないわね。ごめんなさい、続けましょ!」


 エミリアがそう言って、ふとイサベラを見ると、イサベラは呆けたように天井近くの本棚を凝視していた。


「・・・?、どうしたの?イサベラ。」


 今までまったく気が付かなかったが、エミリアに言われて、書物が魔力を帯びていると意識したとたん、部屋のあちこちからもやもやとした魔力の違和感を感じる様になった。


 そのもやもやの中から、非常にわずかだが、針の穴を突き抜けてくるように、イサベラをピリピリとさせるものがあった。


 それは天井近くの本棚の一番上から発せられていた。


「まさかとは思うけど・・・、あそこに・・・、あるみたい。」


「へ?何が?筆記張?あんな高いところよく見えるわね。」


「違うの。感じるの・・・、あるみたい・・・。」


「!!」


 ゴニアは先に、イサベラの言っている意味に気が付いたようで、息をのんだ。


「エミリアに言われて気が付いたんだけど、あそこに、死霊術士さんの書物があるみたい。」

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