第28話 友好関係 〜日本一は熊本県〜

工場稼働から一ヶ月後。子供達に農場を任せてタローとポチは再びヴァンパイアの国へきていた。

理由はというとジャックが用があると言って呼びに来たからだ。


「忙しいだろうにすまんな。どうしても話しておきたいことがあってな。」


「子供達がいるから問題はないけどそんな大事な用事なのか?」


工場も順調に稼動していることも聞いているし今の所トマトに関しては何も問題はなかったはずだ。それにジャック個人の話というのならば農場でもできたはずだ。しかしわざわざヴァンパイアの国のしかも城の中にまで通すというのは一体どうゆう要件なのだろうか?


「実はな…用事があるのは父上なのだ。」


ジャックの父親といえばこの国の国王である。タローはあまり好きではないのであまり話そうとは思わない。タローは明る様に嫌そうな顔をする。

なんせ初対面であんな反応をされたのだ。その後はそれなりにうまくやっていたがやはり出会った当初の印象がいまだに消えない。必要最低限の会話以外はしていないのが現状だ。


『ふん!あの小童か。あの男は好かん!帰るぞタロー』


どうやらポチも同意見らしい。ポチは獣神としてそれなりの地位にいたというのに獣風情と言われた覚えがある。あの時はトマトでなんとかなだめたが恐らく次はないだろう。

…いや、案外またトマトを食べさせればなんとかなるかもしれない。


「ポチ殿。そう言わないでくれ。あれからガナッシュ殿が来られて父上はきつく叱られておるのだ。もうあんな態度はとらぬからどうか会ってほしい。」


ジャックはポチにお願いをしている。なるほど、先に用件を伝えずにこの国に来させたのはこれが理由だったのかとタローは頷いている。先に用件だけを伝えられていたら恐らくこなかっただろう。

しかしここまで来たのに帰るというのも面倒だ。どういう用件かは知らないがジャックの思惑に乗ることにする。


「ポチ。もうここまで来たらしょうがないし会うだけあってから帰ろう。どうせならタダ飯を食い漁ってこの国の食糧庫を空にしてやろうぜ。」


『ううむ…仕方あるまい。お主がそういうのだったらそうしよう。ただし!まずい飯は許さんぞ。腕によりによりをかけさせよ。』


「わかった。料理長に伝えてこよう。では先にこちらに来てくれ。」


ジャックに案内されてきたのは国王の謁見の間である。ここでトマトをアピールしたのはもうだいぶ前のことだ。なんだか懐かしく思える。

扉横の衛兵が扉を開ける。そこには国王を含め重鎮たちが勢ぞろいしていた。


タローとポチはゆっくりと中に入っていく。あちらこちらから息を飲む音が聞こえてくる。なぜかはわからないが皆一様に緊張しているようだ。


「忙しい中良く来てくれた。礼を言う。」


この国王は会うたびに軟化していく。あれか?あれなのだろうか?ツンデレってやつなのだろうか?タローは国王の様子をみながら何やら納得していた。


『一体用件とは何なのだ?我らも暇ではない。とっととすませよう。』


「うむ…そうか…では早速本題に入ろう。ああ今までのことをどうか許してほしい。」


「今までのこと?」


どういうことかとタローは尋ねる。すると国王は語り出した。長いので要約すると、ガナッシュからポチという獣神がどれほど恐ろしく、力を持っているか。怒らせたままだともしかしたら何かの拍子にこの国に攻め込んできて滅びる可能性まであるかもしれないから今のうちに協定を結びたいということだ。


そういえばガナッシュは以前どれほどの地位にいたのだろうか。タローは一度も聞いたことがなかったが国王にここまで発言した際に信用されるということはそれなりのポストであったのだろう。


「うーん…なるほどなるほど。けど別にポチはわざわざ攻め込まないとは思うんだけどな…城を壊すくらいならしそうだけど」


タローの発言に周囲から小さな悲鳴が聞こえた。ちょっと面白半分でいってみたけどどうやらあちらにとっては深刻なようだ。やっちまったかとも思ったが予想以上に良い反応だったのでこれはこれでよしとした。


「城を壊されたらたまったものではないのでやめてくれ。協定の証と今までの侘びとしてしてわが宝物庫から幾つかの物品を持ってきた。それを収めてほしい。」


国王はそういうと奥から何人もの兵士が様々な宝石やら貴金属を運んでくる。その量はポチの体よりも大きい。タローもここまでのお宝を見るのは初めてである。あいた口がふさがらずなんとも間抜けな顔である。


『ほお…これだけを差し出すとはなかなかやるではないか。今までのことは水に流してやろう。』


ポチはなんとも得意げな表情である。このお宝の山がポチに対するこの国の評価なのだと考えたら確かに得意げにもなるだろう。しかしタローにとっては違う。この評価はポチに対してのものでタローに対してのものではない。国王としてはそんなこと考えてもいないのだろうがタローには重圧がすごい。


そんな中一つの宝石箱が妙に気になった。この感覚は以前にもあったような気がするがなぜか思い出せない。タローはその宝石箱の前まで行き触れてみる。


『どうしたタローよ。それが欲しいのか?安心しろ少しくらいならばくれてやる。』


ポチが得意げに話しているがタローの耳には入ってこない。タローはその宝石箱を手に取る。金で縁取られたその箱にはエメラルドを散りばめて作られた何やら長細い模様がある。それがいったい何なのかわからないがタローはその箱をおもむろに開けてみる。


『む!タローその匂いは!』


「そうか…この感覚だったのか」


タローが以前感じた感覚。それはポチと出会う前に森の中で運命の出会いを果たした時と同じだった。


「これは田中一郎の遺産だ。」


宝石箱の中にはトマトの時と同じようにあの汚い袋が入っていた。






「タナカ・イチローの遺産だと?どういうことだ?」


国王もどういうことかと聞いてきた。なんせあのタナカ・イチローである。国王であろうと知らないはずがない。その遺産ということならば興味を持つのは当たり前だ。


「詳しい説明は後ほどします。ですが私達はこの袋を探していたのです。」


ここで詳しい説明をするほどタローは馬鹿ではない。タローとポチは顔を見合わせる。そしてお互いに頷きあう。


「国王陛下。私たちにとってこれ以上の宝はございません。協定を結びたいというお話ですが是非ともお願いいたします。」


タローの言葉に皆一様にホッとした声を出した。これでとりあえずの問題は解決したのである。これ以上嬉しいことはないだろう。そんな中タローは言葉を続ける。


「協定の証として我々からも証の品を送りたいと思います。つきましてはどこか開けて、人目につきそうな土地はありませんか?」


まさかのタローからの提案に少々驚く国王。しかも開けた土地がないかと聞いてきた。一体何をくれるのか興味が出てきた。なんせ今までトマトで驚かされてばかりである。また今度もそれなりの驚きを与えてくれるのではないかとワクワクしてきた。


「ほう。どのような贈り物なのかね?」


タローはニヤリと何か悪そうな顔をしている。横にいるポチもどこか誇らしげというか何か企んでいるような顔つきである。


「協定の…ヴァンパイアの国との友好の証として神樹を送りたいと思います。」




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