閑話 とある少女の話 〜生産量トップは中国〜

私の名前はフィー。トマト農場に来てからひと月が経ちました。この農場に来てからは毎日が楽しくてたまりません。


私はタローさんが初めて教会に来た時恐怖を感じました。私たちはきっと売られてしまうのだろうと。しかし違いました。タローさんは私たちを雇いたいと言ってきました。初めは人間なんかに雇われるかとガナッシュ様は突っ返しました。


けど私は雇いたいと言った瞬間嬉しかったんです。私たちのような孤児を雇ってくれるような人は誰もいません。どんなに頑張ってもせいぜい靴磨きのような小さな仕事です。


私は可能性があるのならその可能性にかけてみたかったんです。今までの生活を変えるのには今しかないと。これはきっと神様が与えてくれたものだと私は思いました。


私以外にも2人やりたそうな子がいたので私はその子たちを連れて部屋に入りました。初めてタローさんを間近で見た時はなんとも頼りなさそうで部屋に入った時に後悔しました。


しかしタローさんは普通ではありえないようなお給料の額を提示してくれました。まあその後立地などの問題が出てきてまた不安になりましたが…


タローさんが帰った後ガナッシュ様は教会の中にいる孤児の子をみんな集めて話し合いをしました。


「みんなに聞きたい。このタローという男の元で働きたいという子はいるか?」


「「「いませーん!」」」


誰も働きたいという子はいませんでした。その結果にガナッシュ様はどこか満足そうでした。ガナッシュ様は人間が嫌いだからです。理由は聞いたことがないのでわかりませんが。


「待ってください!私は働いてみたいと思います!」


私は立ち上がりました。私の言葉を聞いた瞬間周りの私を見る目が突き刺さるようになりました。けれどここで引き下がるわけにはいきません。


「私はもしも可能性があるのならかけてみたいのです!今ここでこのまま大きくなっても将来まともな職業につける保証なんてどこにもありません。むしろつけないのが当たり前です。けど彼のところで働けばお給料もよくて私たちはまともな生活を送れるようになるのです。」


私はみんなに訴えかけるように言いました。みんなは私の言葉をちゃんと聞いてくれたようで話し合っています。そんな中ガナッシュ様が大きなため息を吐いたのです。


「人間の元で媚びへつらうというのか?あの男がどこまで正直に話しているかなどわからんというのに?」


確かにもっともな意見です。しかし私はそれでも負けません。


「ガナッシュ様。聞いてください。あの男に媚びへつらうのではなく利用すればいいのです。あの男はお金を持っています。そのお金を取れるだけ取ればいいのです。もしあの男が嘘をついてお給料をもらえなくなったら攻める口実にもなります。もしかしたら王子殿下も何か弱みを握らせるために私たちの元へよこしたのではないですか?もしそうなら国へも恩が売れます。そうすれば私たちの将来もさらに明るいものになります!」


私は半ば無理やり気味に押し通しました。しかし自分でも言ってみた後もしかしたらそうなのでは?と思ってきました。ガナッシュ様も何やら頷いています。


「ふむ…確かにフィーのいうとおりかもしれんな。私も感情的にならずにもっとしっかりと考えるべきだった。フィーよ。お主の言うとおりかもしれんな。皆のことを考えれば奴に雇われるのが一番かもしれんな。よし皆!ここは思惑に乗ってやろうじゃないか!」


「「「おーー!」」」


どうやらうまくいったようです。後は一週間後まで待つだけです。




一週間後再び彼が現れました。しかし今度は王子殿下はご一緒ではありません。代わりに大きな狼を連れています。どこか恐ろしくもありますがとても可愛いです。そう思っていたのは私だけではなかったようでみんなも飛びついていきます。私はお姉ちゃんなので我慢していました。そんな時ふとガナッシュ様の方を振り向きました。するとガナッシュ様は倒れていました。何かあったのでしょうか。


ガナッシュ様が起きられてからタローさんと外でみんなに聞こえるように話し始めました。するとこの大きな狼さんはポチさんと言って獣神とも言われるとっても偉い方のようなのです。

過去には同じ獣神を怒らせて国が滅んだとまで聞きました。私たちは大丈夫なのでしょうか?


さらにタローさんの話しでは国王様がポチさんに喧嘩を売ったらしいです。その話を聞いたガナッシュ様は老け込んでいました。


結局ガナッシュ様も働くことになりました。その後誰が農場に働きに行くか決めることになりましたがその前にガナッシュ様は子供達を全員集めました。


「い、いいか。よく聞くのだ。彼のところで働く際に決して失礼があってはならぬ。もし何かあればこの国が滅ぶかもしれんのだ。前に話した利用するなどといった話は一切なしだ。良いな。決して忘れないように。」


ガナッシュ様のあまりの必死の形相に私たちはおもわず頷いてしまいました。おそらくよっぽどのことなのでしょう。


その後話し合いが進み私とはじめに働きたいと言ったリリー、ミリー。さらにラン、リン、ジルが行きたいと言いました。女の子だらけの中で唯一ジルだけが男の子でやりたいと言いました。ジルはあんなに細い体で大丈夫でしょうか?


その後も話し合いは進みガイ、リキル、ハドの3人の男の子。それに女の子のミィが加わりました。これで10人になったので人選も終わりました。タローさんはなんだか複雑な顔をしていましたがなんだったのでしょうか?


ちなみに私たちの名前が短いのはガナッシュ様が私たちを拾ってきた際に名付けが大変だと言って短く簡単にすませるようになったのです。そのおかげで名前に関して文句が出たことはありません。


私たちは少ない荷物をまとめ上げた後ポチさんに乗って農場へと移動しました。そのポチさんの速さと言ったらもう言葉では表せませんでした。しかし後でこの時はかなり加減していたと聞いた時には驚きを隠せませんでした。


農場についてからも驚くことだらけでした。私たち一人一人に部屋を与えた上にこの世のものとは思えない料理をふんだんに振舞っていただきました。挙げ句の果てにはお風呂です。お風呂の水は最高級と言えそうな魔力水をふんだんに使っていました。魔力水自体まともに見たことがなかったのにまさかこんなことになるなんて…


翌日から仕事が開始されましたがやることはどれも単純で私たちにもできることだらけでした。難しいことはこれから覚えてもらうと言っていましたが一月経った今でもそこまで難しいことはありません。確かに水やりは難しいですがこれは慣れらしいのでできるのはまだ先でいいそうです。


タローさんについてもよく知ることができました。この農場で働いているとよく発生するのが収穫したトマトをその場で食べてしまうことです。私は見つけるたびに注意しているのですが一向に減りません。何度かタローさんに見つかった子がいましたが後で聞くと一緒になってトマトを食べたという話をよく聞きます。


タローさんはちょっとしたことでは怒らずに許してくれます。ただ食べ物を無駄にすることに関してはちゃんと叱っています。なんでも昔食べ物がなくて死にそうな思いをしたからだと言います。その話をするときのタローさんはどこか遠くを見つめるような悲しそうでいて嬉しそうな表情をします。


そうそう忘れていましたがトマトを収穫した際にトマトを入れるこの袋なんですが未だにどういう原理かよくわかりません。入れれば収納できると言われただけなのですがどういうことなのでしょうか?


「おーい収穫終わったかぁ?終わったら急いで移動するぞぉ。」


「「「はーい!」」」


おっといけません。今日は大事な日でした。今日はようやく私たちの国にトマトの出荷工場ができて運転を始める日でした。残りのトマトを急いで収穫しないと。


「こっちに帰るのは夜遅くだからな?忘れ物のないように。」


「はい。みんなもう準備できました。」


みんなの準備は万端です。一月ぶりの里帰りです。その上今日は工場の運転祝いということでトマトパーティの予定です。今から楽しみでしょうがありません。


「よーし。じゃあポチにみんな乗ったことだし出発だ!」


そして私を含め皆知りました。ポチさんの加減なしのダッシュを…


「「「キャーーーー!!!」」」




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