第27話 子供達 〜加工用の方が生産量が多い〜

タロー一行はようやく農場へとたどりついた。子供達が暴れるものだからいつもより慎重に走ってきたせいですでに夕方である。今から仕事を教えるわけにもいかないので部屋の案内と食事に取り掛かることにしよう。


「まずは家を案内するよ。君たちの家はこの建物ね。部屋が分かれているから好きなところ使っていいから。今日は仕事教える時間もないから1時間後に横の食堂で夕食にしよう。」


「す、好きな部屋でいいんですか?それに何かお手伝いしないと…」


「いいのいいの気にしなくて。とりあえずは馴染んでもらう必要もあるし移動してきて疲れているだろうからゆっくりしてて。」


タローが子供達を案内したのはそれなりに大きな家だった。前にタローがこの農場で住んでいた家の10倍近くはある。一体いつの間に立てたかといえば1週間前にである。仕事の合間にポチと話し合って作図しポチの土魔法によって作成された。石のみで作成されているため丈夫ではあるが固くて冷たい。部屋の床くらいは木の板を貼りたかったが時間とポチが面倒だとやってくれなかった。


「ベットとタンスなんかも最低限は用意しておいたけど何か足りないものがあったら言ってね。ある程度はこっちで用意するから。」


「え…あ…でも…」


「おっしゃ!いこーぜー!どこの部屋取れるか早い者勝ちだぜ!」


「私日当たりのいい部屋がいい!」


「あ、ずるい!私も!」


子供達は皆一斉に部屋選びを開始した。年長者であるタローにはじめに働きたいと言ってきた女の子はおろおろしていたがしばらくすると部屋の方へと向かっていった。年長者として何か働かないといけないと思っていたのだろうが、タローとしては早く慣れてもらうために好きにさせておきたかった。


「さてとじゃあ夕飯作るか。」


子供達には自分たちがこれから何を育てるか知っていてほしい。そしてそれを一番理解しやすい方法は食べることである。タローは歓迎の意味も込めて腕をよりによせて調理に取り組んだ。





「みんな集まれー!飯だぞー!」


凝りに凝ったせいで2時間近く時間がかかってしまった。子供達には1時間後に夕食と言っていたのだが誰一人として集まっていなかった。そこでタローは時計がなかったことにようやく気がついた。今度ヴァンパイアの国に行ったら買わなければならないと忘れないようにメモをしておいた。


遠くからドタドタと足音が聞こえる。元気がいいのはいいことだ。


『やっと飯か!待ちくたびれたぞ』


お前じゃない!そう心の中で叫ぶタロー。この家の中はポチが動き回れるように扉などは大きく作られている。扉は木製なのだがポチが勢いよく入るせいで毎回軋む音がする。月一で作り直さないともたないかもしれない。


ぶんぶんと勢いよくしっぽを振るポチの後ろに子供達の姿があった。ポチのしっぽの風圧によって髪の毛がぐちゃぐちゃになっている。しかし面白いのか皆笑っている。タローはとりあえずポチを落ち着かせて席に着かせる。


次に子供達だがどこに座って良いのかわからないようだ。タローが声をかけようとするがどこか落ち着かない様子である。少し観察してみるとどうやら机の上の食事に目を奪われているようだ。ゴクリという音があちこちから聞こえる。どうやら気に入ってもらえたようである。タローが満足していると何人かの子供達の口が決壊したようで服の襟元のあたりがびちょびちょである。タローは慌てて子供達を席に着かせた。


「さてみんな席に着いたところで食事を始めたいのだけど、うちでは食事をする前に必ず手を合わせていただきますと言ってもらうようになっているからみんなもやるように。では手を合わせて…いただきます」


『いただきます』


子供達は少しの間ぽかんとしていたがポチがいただきますをやったところで食事に手をつけようとしていた手を止めて手を合わせだした。みんなが手を合わせたところで最年長の女の子がタイミングを合わせる。そして


「「「「いただきます!」」」」


これでようやく楽しい食事の始まりである。



皆我先にと食事に手を出していく。さながらここは戦場である。皆一様にサラダ、スープ、煮込み料理などに手をつけていく。そして聞こえる歓声、雄叫び、驚愕、泣き声。阿鼻叫喚である。ここまでなると思ってもおらずタローは呆然としている。ポチはと言うと一瞬驚いたが今は食べるほうが重要だと言わんばかりに食べ続けた。


この状況をどうしようかと思っていたがこのペースだと足りなくなると思い急遽サラダとスープと作り始めた。トマト煮は明日の朝の分までまとめて作っておいたのだが今夜のうちに消えそうだ。子供の食欲というのを考慮していなかった。


タローがようやく食事を始められそうになったのは子供達の食欲が満たされた頃である。タローが食べるのはあまりものである、がしかしここまで喜んで食べてくれたことをタロー喜んでいた。ここまで喜んでくれたのなら何も文句はない。





食事は30分もかからずに終わった。それだけ皆がっついていたのである。食事が終わり片付けようとする子供達をタローは止めた。戸惑う子供達をタローは席に着かせた。


「片付けをする前に食事が終わったら必ずするように覚えておいて欲しいことがあるんだ。それはいただきますと同じように手を合わせてからごちそうさまと言うんだ。食事はいただきますから始まりごちそうさまで終わる。うちで働く間は必ずやるようにして欲しいんだ。」


いただきますとごちそうさま。日本人にとっては当たり前のようなことであるがこの世界においては異端と言える。タローもポチから教わるまではこんな作法は知りもしなかった。だが一度これをし始めるとなんとも言えぬ感情が出てくるのだ。それが気持ち良かったタローは必ずやるようにしている。


子供達は「はい」とタローの言ったことに対して返事をし、手を合わせた。


「「「「ごちそうさまでした!」」」」


大人数でやるとなかなか気持ちが良い。タローは子供達と一緒に片付けを始めた。





「さてと、片付けが終わったところでみんな集まって〜。」


タローの声に反応した子供達が部屋に戻ろうとするのをやめタローのもとへ集まってくる。タローは全員集合したのを確認したところで再び話し始める。


「まずこの後のことを説明するよ。まずはさっきポチに風呂を沸かしてもらったから入って体をきれいにして欲しいんだ。男女で分けてあるからみんな間違えないように。」


タローはポチにみんなで片付けている間に風呂を沸かしてもらっていた。風呂そのものはあまり普及してはいないがそこまで物珍しいものでもない。タローも実家にいる頃は専用の風呂の施設があったので両親に連れて行ってもらったことがある。


昔は風呂と言えば貴族しか入れないものだったが皇帝アルドリスが大衆向けの銭湯というものを造り一般市民でも入れるようにしたのが風呂を広めるきっかけだったという。

実はこの銭湯ができるきっかけを作ったのも田中一郎によるものだったらしいがポチも詳しいことは知らなかったため真偽のほどは確かではない。


「風呂に入った後は自由にしていいけど明日の仕事の開始は6時からだから5時には起床して着替えと朝食をすませるからちゃんと明日起きられる時間に寝るように。作業着は後でこの部屋に用意しておくから自分のサイズにあったものをちゃんと持っていくように。まあとりあえずはこんなもんかな?じゃあみんなお風呂入りに行こうか。」


一度部屋に着替えを取りに行かせた後で風呂場へと案内する。風呂場は実は2階を丸々使っている。これには実は理由がある。それは


『ようやく風呂か!全く我を待たせおって、とっとと行くぞ!』


ポチが大の風呂好きだからである。子供の頃は水浴びも嫌いだったらしいが一郎とともに風呂に入ってから風呂の良さを知って大の風呂好きになったらしい。ポチ曰く『本来なら温泉に入りたいが今は我慢するほかあるまい。』と温泉に入りたいらしい。


温泉は火山帯のごく一部の町にあるとタローも聞いたことがあるが入ったことはない。しかしポチがここまでいいものというのだから間違いないだろう。

とまあ本来温泉に入りたいが我慢することになったためその分風呂を大きくしているのだ。


さらにポチが入るためにはより風呂を深くしなくてはならないので色々やった結果2階を丸々使うことになった。逆に1階を丸々風呂にするという案が出たのだがそれは却下になった。その理由は


「すげー!ここの風呂家の中だけじゃなくて外にもある!」


そう内風呂だけでなく露天風呂もつくるためである。下手な場所に作ると覗けてしまうため女子から反発される恐れがあったからだ。2階に作ればそう簡単に覗かれることもないので問題も起きない。


「おいタローよ。早く我を洗え。」


「わかったよ。他の子供達にも手伝わせよう。その方が早く終わるからな。」


タローは子供達を集めポチを洗い始める。今まではかなり時間がかかっていたが子供達がいる分早く洗い終わる。その後子供達も体を洗いやっと浴槽に疲れる。


「あ゛あ゛〜〜…気持ちいい〜〜…」


『うむ…やはり風呂は最高だ…』


「…ねえにいちゃん。この風呂気持ちいいんだけどなんかおかしくない?力が湧いてくるっていうかなんか…」


他の子供達も頷いている。タローはこの風呂に慣れているため特にそんなことは思わなかった。


「多分ポチのせいだな…この風呂の水はポチの魔力によって作られているから魔力の含有率が高いんだと思う…まあ気持ちいいし細かいことはいいじゃんか…」


『うむ…細かいことを気にしては大きな男になれんぞ…まあ強いて言うなら我としては硫黄の香りがすれば完璧なのだが…』


「ポチ…それは気にしちゃいかんぞ…まあそんなにいいものなら俺もいずれ入りたいな…」


子供達は皆ぽかんとしている。女風呂からもこのことに気がついたのは騒ぎ越えが聞こえる。本来魔力水とは高級品でこの風呂に使われている水の魔力の含有率ならばかなりの高値で取引される。

だがポチとタローはそんなことはどうでもいいのだ。気持ちがよければそれで良い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る