第26話 従業員雇用 〜実は食虫植物?〜
1週間後。タローは朝から孤児たちのいる教会にいた。
今日が返事を聞く約束の期日である。今日、ジャックは父親出会う国王に仕事を任されたためタロー1人である。ただ心細かったのかポチに乗ったまま教会にいた。
ポチに気がついたのか教会の中から子供達があふれかえるように飛び出してこちらに駆け寄ってくる。その後ろにガナッシュの姿が見えるが何やら頭を抱えている。
子供達によって教会の門が開かれるとポチめがけて子供達が飛びかかってきた。みんな嬉しそうにはしゃいでいる。これだけ大きな獣だというのに恐怖心というのはないのだろうか。ガナッシュはなぜか顔が真っ青になり今にも倒れそうである。
正直タローはポチが怒らないかと内心ヒヤヒヤしていたのだがポチは鬱陶しそうにはするが別に怒ってはいないようだ。むしろ軽くではあるがかまってやっている。何の問題もないようだ。
「が、ガナッシュさん!もう面倒なので外でお話ししませんか!子供達にも聞いて欲しいですし!」
タローは声をはりあげる。そうでもしないと興奮した子供達の声で声が届きそうにもないからだ。ガナッシュの方を見ると口をパクパクさせてはいるが見た感じ反応していないようだ。
タローは仕方ないのでポチから降りてガナッシュの元へと向かう。目の前に立ったというのに何の反応も示さない。仕方ないので体を揺すってみるが何の反応も示さない。しょうがないので少し待つことにした。
ポチを観察しているとテンションが上がってきたのか何なのかわからないが子供達を一人一人咥えては空に向かって放り投げている。風魔法を使いながら制御しているようで20人以上の子供達を放り投げている。まるでジャグリングのようになっていて見ているこちらも小さく歓声をあげていた。
空を舞う子供達が米粒のごとく小さくなっていった頃、何かの倒れる音が聞こえた。タローが驚き振り返るとそこには泡を吹き倒れたガナッシュがいた。
「は!……はぁはぁ…夢か?」
「あ、おはようございます。大丈夫ですか?」
木陰に休ませていたガナッシュが勢いよく起き上がった。それを見たタローはホッとひと安心した。なんせすでに時刻は昼を回っている。早く話を済ませないとトマトの収穫や手入れをする時間がなくなる。
「あ、ああ…すまないな。夢を見ていたようだ。」
「大丈夫ですか?もし体調が悪いんだったら後日伺いますが」
『そんなことをしていてはいつまでたっても事が進まないぞ。とっとと話を済ませろ。』
ガナッシュが再び口をパクパクさせだした。顔色も青ざめだしている。タローはここで気がつきポチをガナッシュの視界に入らないように移動させた。
「すみません…まさかガナッシュさんが犬嫌いとはおもわなかったんです。」
「い、犬?…君はあれが犬だというのかね?」
ガナッシュの顔色が戻ったと思ったら次は驚愕の表情でこちらを見つめている。タローはここで思い出す。ポチの大きさのことを。
「あ…確かにそうですね…。大型犬の部類にも入りそうにないのでどちらかというと狼でしょうか…」
「待て待て。大きくなると狼になるわけじゃないんだぞ?それにあんなに大きな狼聞いたことがないぞ?あれは魔物の類であろう?例えば…」
ポチを狼というタローに何を考えているんだとばかりにガナッシュは淡々と言葉を出していく。ガナッシュの言うことはもっともでタローも何の反論の余地もない。だがしかし一つだけ訂正しないといけないことがある。タローはガナッシュの言葉を遮る。
「いやいや待ってください。狼と犬の区別については確かに語弊がありましたが魔物ということだけは訂正させてください。ポチは魔物と言われるのは嫌いなんです。強いて言うなら魔獣でしょうね。まあそこらへんの魔獣と一緒くたにされたくもないらしいですよ。ポチ曰く獣神らしいです。」
「な!……や、やはり…」
どうやらガナッシュは知っていたようだ。歯をガタガタ言わせている。それにしてもこの国の国王も気がつかなかったというのにガナッシュはよく気がついたものである。
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫かだと!?いいかよく聞け!獣神というのはたった一頭で国を滅ぼすとさえ言われる化け物だぞ!SSランクファーマーが100人集まっても勝てるかどうかと言われるような化け物がこんなにすぐ近くにいるというのに何を呑気に!」
「わ、わかりましたから落ち着いて…」
「いいや!これが落ち着いてなどいられるものか!いいかよく聞け!もう伝承としてもわずかなものしか知らんだろうがかつてとある王国が一頭の獣神の住処を荒らした。それに怒った獣神が王国中で暴れまわりその国は滅んだとされている。その獣神は白い虎の姿だったと言われている。王国は知らなかったのだろうがその白き虎は獣神の中でも格の高い12獣神と呼ばれる化け物だったのだ。」
「へ、へぇ〜…」
「何がへぇ〜だ!お主はどういうことかよくわかって…」
『面白い話をしておるな。我にも聞かせよ。』
ポチがガナッシュの後ろから気配もなく現れた。ポチの声が聞こえた途端先程まで顔を真っ赤にしていたガナッシュの顔色が青に変わる。タローは器用なものだと言わんばかりに感嘆する。
「ガナッシュさんが白い虎とか言っていたけど知っている?12獣神とか言われているみたいだけど確かポチもなんかの一角なんだろ?」
『何かではないわ。まあお主には話していなかっただろうが我も12獣神の一角だ。白い虎というとあの子煩悩の猫のことであろうな。よく子供の相手をしたものだ。その度にやきもちを焼いて後で我に突っかかってくるのが面倒であったわ。』
ガナッシュはこの話を聞いて何やらかすれた声を出しているがはっきり言って何を言っているかわからない。しかしタローはポチの強さをこうしてはっきりと聞いたというのに何も動じない。
タローにとっては別にそんなに強かろうがそこまで強くなかろうがどうせ勝てないのだし全く関係がない。
「けどその12獣神って知名度低いんだな。国王にも喧嘩売られたし、ビビらなかったし。」
「……ま、待て…どういうことだ?」
ガナッシュはどういうことかとカタカタ震えている。そこでタローは初めて国王にあったときのことを話していく。それを聞いているうちに徐々にガナッシュが老け込んできた。
「…とまあこんな具合です。それよりも雇えるか雇えないかの話をしたいのですが。」
「……子供達は全員働きたいと言っておる。儂も監督として働かせてもらおう。」
全員働いてくれると聞いた瞬間タローは思わずガッツポーズをとった。これでかなり楽ができる。それにしてもガナッシュは最初にあった頃と比べると同一人物かと思えるほど老け込んでいる。声も絶え絶えだ。
「ありがとうございます!早速子供達を交えて話し合いをしたいのですがその前にガナッシュさんに話しておきますね。まず農園に行く子が10名欲しいですね。男女比は半々か男多めでお願いします。残りはこちらに出荷場を建ててそこで働いてもらいたいんですがさすがに出荷場を建てるお金なんてないのでしばらくはこの教会に簡易的なものを作ろうと思っています。そこに関してはこれから決めるということでお願いします。」
「わかった…それで構わん。それと出荷場のことは任せてほしい。すぐになんとかしよう。」
何やらガナッシュに考えがあるようだ。これはタローにとって何ともありがたい。後は子供達が農場に行ってくれるかどうかだがそこは何とかしよう。タローはガナッシュとともに子供達を集め話し合いを始めた。
話し合いの結果やはり給料が安くてもこの国に残れる出荷場で働きたい人数の方が多い。農場に来てくれるのは今の所6名である。その6名の中には最初に働きたいと言ってきた女の子3名がいる。残りは女の子2名と男の子1名である。女の子の方が度胸はあるようだ。
たった一人だけの男の子というのは貧弱そうなもやしっ子みたいである。本来は男に魔物の対策や荷物運びなど重労働をしてもらおうと思っていたのだがこれでは無理そうだ。
そこからさらに話し合いを進めて何とか力のありそうな男3名を確保した。ただその際に女の子もさらに1名増えて計10名となった。本来男多めと思っていたのだがまあこれでいいかとタローはその10名に決めた。
出荷場のことはガナッシュが任せてくれと言ってくれたので後のことは任せてポチの背に10名を無理やり乗せて農場へと戻った。
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