第17話 半年後 〜イタリアでは愛のリンゴ〜
トマト栽培に成功してから約半年後、3度目のトマト栽培に取り掛かっていた。
畑も今では借りた1ha(100m×100m)全てを耕し耕作している。本来一人ではこの畑全て耕すのに4〜5年はかかると思っていたのだが耕し畝を作るのに3日もかからなかった。
なぜかといえば…
『おい。今日の分の水を汲んできてやったぞ。そろそろ飯の時間ではないか?』
「ん〜…もうちょっと待ってくれ。ここが終わったらキリがいいからな。」
そう、なぜかといえばポチのおかげが大きいだろう。
半年前。ポチと初めて出会って以来ここのトマトが気に入ったため今では従業員という扱いになっている。本来は従魔契約をするところなのだがお互いにその話は出さなかった。
そしてポチなのだがただ強いだけかと思いきや何とも言えぬハイスペックぶりだった。
この畑も『耕してやろう』と言ってわずか10分足らずで耕し終えた。まあ耕したというよりかはその前足で砕いたと言った方が近いだろう。畑に何度か前足を振る衝撃波だけで土が宙を舞うほどえぐれたのだ。
おまけにこうして水やりの時にはどこからか魔力を多く含む水を運んできてくれる。おかげでトマトの出来が段違いだ。
収穫してもトマトはどうしようもないって?そこも大丈夫。半年前にポチが持ってきてくれた袋があるからだ。なんとこの袋異次元収納の魔道具で帝国でも持っていないようなハイスペックぶりである。
この袋は田中一郎がポチのために作物を大量に保管してくれたものということでポチの100年分の食料を入れられる上に時間経過による劣化も全てないのだ。ただ問題は持つだけで魔力をそれなりに使うということなのでポチしか持つことができない。
まだ売りに出すことはできないがもしもギルドに内緒で買い取ってくれる人がいた時はその人に売り、ギルドにはランクを上げてから報告するつもりだ。
いい人が見つかるまではこうして思う存分育てることができる。ポチには感謝だな。
我がこの小僧と出会ってからしばらく経ったがこの小僧思いの他やりおる。この半年の間にトマトは2回新しいものに変えておる。そして変えるたびに品質が向上している。今では平均的な質がAランクまで上がっておる。SSランクも幾つかできるほどになっておる。
まあ我の運ぶ森の加護を受けた泉より湧き上がる水を水やりに使っておるからな。品質は嫌でも上がるというものだ。しかしそれを除いてもこの質の上昇ぶりには目を見張るものがある。
それにこのトマトに内包される魔力の量。これは品質には影響がないようだが高純度の魔力の塊になっておる。まあこの小僧は気づいていないようだがな。
本来ここまでの魔力を持つと小僧のような魔力のない人間には毒でしかないのだがこのトマトはそれを調和させることができておる。それにより今ではこの小僧もそれなりの魔力を持ち始めておる。
魔力を持ったおかげで怪我も治りやすく、力も強くなったのだが本人は気がついていないようだな。まあ知らない方が面白いので言わぬが。
「何考えているかわかんないけど量はこんなもんでいいか?後ジュース飲むだろ?」
『うむ。とりあえずはその程度で良い。だがジュースはもう少し多めにな。』
「はいはい。こんなもんでいいだろ?たんなかったら後で追加するから。じゃあいただきます。」
「うむ。では頂こう。いただきます。」
いただきます。この食事の前の挨拶は一郎から教えてもらったものだと小僧に教えたら毎食言うようになった。我は一郎から教えてもらったことは必ず守るようにしている。ゆえにこの挨拶は欠かさず行っておる。
今日の飯はコカトリスのトマト煮に冷やして塩をかけたトマト。それにトマトジュースだ。このコカトリスは我が狩ってきたものだがはじめのうちは食す気も起きなかった。だがこの小僧の調理によって味が良くなり今では我の好物になっておる。
トマトに塩をかけるという発想は一郎の残した結晶の映像から入手したものだ。正直我は未だに一郎の言葉の全てを理解できておらぬ。だがこの小僧はその全てを理解しそれを形にしておる。他言語翻訳と言ったか。なんとも羨ましいスキルだ。
このトマトジュースはトマトの種を取る目的と形の悪い規格外のトマトを活用するためだという。別に形が悪くとも味は変わらぬのでそのままで良いと思うのだが一郎の想いだからと小僧に言われたら我は何も言わぬ。それにこのトマトジュースはうまい。毎食飲んでも飽きぬわ。
トマトの味に飽きたらここを去ろうかともはじめは想いもしたがこの小僧は一郎の言葉がわかる。もしかしたら一郎の残した他の遺産も育てることができるかもしれない。そう思えばここを離れられなくなっていた。
…そのうちこの小僧と契約しても良いかもしれんな。
「さてと飯も食ったし作業再開するぞ!小さいのからやっていくか。手伝ってくれよポチ。」
『飯の分はしっかり働こうではないか。それにあれは小さいくせになかなかうまい。』
二人?は畑の一角に移動する。そこは今まで育ててきたトマトとは大きさがまるで違う。そのトマトは半年前に田中一郎からもらった4種類の種の一つ千果というミニトマトである。
糖度も高く1房に30〜40の花をつける。15〜20gほどでミニトマトの中でも小さいほうだがタローは気に入っており暇さえあればつまんでいる。おやつ感覚に近い。
ポチの場合は1粒などでは足りないため房ごと口に入れて楽しんでいる。
タローたちの場合、房ごと収穫することが多いのだが熟し方にばらつきが出ることがあるため1粒ごとに収穫している。
このミニトマトは以前のものとは少し違う育て方をしている。それは寝かせ植えと呼ばれるトマトの苗を真横に植える方法である。
この方法を聞いた時もかなり驚いた。あまりの驚きにタローはめまいがしたほどだ。なぜこのような方法をとったかというとトマトの苗は幹からも根を生やすことができる。寝かせ植えをして葉の4枚目ほどまで土に植えてやれば根の数は普通に植えたものより数倍になる。
限られた栄養素を余すことなく吸収するのには向いていると言えるだろう。
さらにミニトマトは収量を上げるために脇芽を一つ残す2本仕立てで育てている。1本仕立てのものと比べれば単純に倍になる。まあそこまで上手くいかないが1.8倍にはなるだろう。その代わり枝が混み合うので細かな注意が必要にはなる。
そして千果の次は黄色いトマト、イエローアイコである。楕円形のミニトマトで千果よりも大きい。こちらも育て方、仕立て方は同じである。
はじめは黄色いトマトができたと恐る恐る口にしていたがこれが以外とうまかった。タローは赤いほうが良いと言い、ポチは黄色いのが良いと意見が分かれている。
そしてお次はグリーンゼブラ。これは収穫していいのかよくわからなくなるトマトである。未だにいつ収穫するのかよくわからなくなる。なぜならこのグリーンゼブラというトマトは緑色のままのトマトなのである。
かなり時間が経つと若干黄色くなるがこのトマトは緑色のまま収穫する。植え方はそのまままっすぐ植え1本仕立てにした。このトマトはミニトマトと大玉のトマトの中間の大きさでミディトマトの分類に入る。大きさは50gほどでピンポン球に近い大きさである。
このトマトを始めて食べた感想はタロー、ポチともにイマイチというものだった。だがソテーのように加熱してやるとこれが意外にも美味いと時々無性に食べたくなる。
また色合いが面白い。このグリーンゼブラ、タローたちはわからなかったがゼブラということで縞模様が入っているのだ。初めて見たときは病気だと焦りを見せたがそういうものだとわかると面白い縞模様を探しそれだけで1日潰したことがある。
そして最後は毎食のように食べているシシリアンルージュ。これの美味さがわかったとき二人は大喜びした。なんせこのトマトはそのまま食べる品種ではない。加熱専用のトマトなのだ。はじめにそのまま生で食べた二人の顔はなんとも印象的だった。
このトマトで作ったトマト煮を食べたとき二人はどハマりして毎食食べるようになったのだ。他のトマトならどうなるのだろうかと一度試してみたが結果はイマイチ。やはりこのトマトが一番であった。
だがこのトマトは育てるのが面倒。なぜなら他のトマトの倍の面積を使うからだ。仕立てなども特に気にする必要はないのだがあまりにも自由気ままに育てすぎて収穫などが面倒なのである。
このトマトの育成方法はあまり手を加えないで自然に育ててやる。なかなか大きな巨木になるのだがそれを支える支柱を立てるのが大変である。
このトマトは先ほどと同じミディトマトで形はラグビーボールのような形をしている。イエローアイコに形は似ているが大きさも2回り近く大きい上に色も赤い。トマトの奥深さというか多種多様さに二人は感嘆の声を上げた。
ちなみに最初に育てていた桃太郎侍は育て方を少し変えている。それは一つの畝に2本ずつ植えているのだ。二つの畝を一つにまとめたと考えれば良いのだがなぜそんなことをしたかというとトマトの着果習性が関わる。
トマトは必ず同じ方向に身をつけるという習性があるのだ。2本仕立てになると話は変わるがそこは置いておく。このトマトの習性を用いて必ず通路側に実ができるように植え付けをした。
その結果土地の無駄をなくすために畝をまとめ1つの畝の間の両側にトマトの実ができるようにしたのである。これにより仕事も楽になり収量も増えた。
土地の残りの支払い期限まで残り2年と少し。それまでにどれだけ収穫し売り手を見つけるか。少し心配ではあるが今はこのトマトの育成を楽しもう、そう心に決めているタローである。
『何か臭うな…』
「え!俺の屁そんなに臭いの!!」
『そうではない…何かがこちらに来ている。そういう意味だ。む!』
「その何かが来たのか!」
『臭い!お主何を食った!!ええい!離れろ!』
「ちょ!お前と同じものを食っているって!逃げんな!収穫したやつ入れらんないだろ!」
二人がそんなくだらない争いをしている時森の向こうから何かがやってこようとしていた。
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