第4話 農地へ part1

農地へと行く約束の日。タローは待ちきれずに約束の2時間前から待っていた。母からは無理をしすぎると体が持たないと散々言われていたのだが眠れないのだからしょうがない。


あまりにも楽しみで2日前から寝ていないのだ。今日という日を楽しみに待っていたタローは今、興奮の真っ只中である。


「あらタローさんお早いですね。」


タローは声のした方をばっと振り向く。その目は睡眠不足のため血走っておりクマもできている。声をかけた方もあまりの形相に思わず小さな悲鳴をあげた。


「えっと…確か受付をしてくれた人ですよね?」


タローは記憶を呼び起こし声をかけてきた人物が自分を担当してくれた受付嬢だと判断した。


「え、えっと…そうですよ?…そんなことよりもその顔どうしたんですか?とんでもなく怖い顔ですよ」


「す、すみません。あまりにも楽しみで眠れなくて。」


受付嬢のあまりの怯え方に自分がどれだけひどい様子なのか察する。そしてこんな風になるなら無理やり寝ておけばよかったと後悔する。


「あ、ああ。そうだったんですね。あまりにも怖い顔しているので何事かと思いました。けどそんな調子じゃあ農地についても仕事できませんよ?」


受付嬢は何かを閃きポケットから何かを探す。どこにしまったのかわからなくなったのか時間がかかっている。しばらくすると何か小さな小瓶をとりだした。


「睡眠薬です。このままだと心配なのでこれを飲んで行ってください。あまり強い薬ではないので体に問題はないと思いますよ。」


ニッコリと微笑む受付嬢にドキっとしたタローは受け取ると後で飲む約束をした。

すると馬車がやってきた。


「あの馬車が農地まで連れて行ってくれます。もう案内人の方は乗っているのでそのまま乗ってもらって大丈夫ですよ。」


馬車が止まるとタローの持ってきていた荷物を業者がどんどん積み込んでいく。積み込んでいると一人の男がタローに近づいてきた。


「案内人のジェイクです…あなたがタローさんですね?それでは少し早いですが…いきましょうか。サチさん…よろしいですか?」


案内人のジェイクの言葉に受付嬢…サチが反応し返事をする。タローはなかなか名前を聞けなかったので心の中でジェイクに感謝する。


「それではえっと…サチさん。行ってきます。」


「はい。いってらっしゃいませ。」


サチに見送られながらタローは馬車に乗り込む。荷物のせいで座るスペースが狭いがそこはなんとか我慢をする。


サチが見えなくなるまでサチに向けて手を振っていたタローはサチからもらった睡眠薬を一粒飲んだ。





「……さ……く…さ…い」


何か声がする。だがはっきりと聞き取れない。返事をするのも面倒なのでそのまま無視をして寝ようとする。


「…ロー…ん…お……く…さい。」


だが無視をしても声の主はやめてくれない。そこで何とか起き上がろうとするが体がだるく起き上がる気が起きない。


「タローさん…起きてください!」


急に声量が上がったのでびっくりして起き上がる。声の主はジェイクだった。


「やっと起きましたね…もう夜ですよ…近くの町に着いたので…今日はここで泊まります…」


起き上がり周辺を見回すと辺りは真っ暗だった。サチからもらった睡眠薬がかなり効いたのだ。


「す、すいません。すっかり眠っていたみたいで…サチさんからもらった睡眠薬が効いたみたいです。」


ジェイクが睡眠薬?と聞いてきたのでタローはこれですと小瓶を見せる。ジェイクはその小瓶を受け取りじっと見つめる。


「これは…眠草から造られたものですね…かなりの効き目がある薬なので…普通は持っていないのですが…」


「え?サチさんはかなり弱いって…」


「「………」」


二人とも沈黙してしまう。しばらくしてジェイクが告げる。


「サチさんは…仕事はできるのですが…そういった細かいところで…失敗するのですよ……」


いわゆるおっちょこちょいというやつである。これまで目立った被害もないのでお咎めはなかったらしい。


「サチさんの件は…私が戻った時に…注意しておきます…この小瓶はあなたに…差し上げましょう…」


ジェイクはため息をつきながらタローに睡眠薬の入った小瓶を手渡す。


「えっと…よかったんですか?なんだか持っているとまずそうですが。」


「本来は…医師からの適切な許可を…もらわなければいけません…。ですが持っているだけで…罰則などはありません…ですので問題はないでしょう…」


問題はないということなのでそのまま貰うことにする。ジェイクはそれよりも早く宿に行きましょうと言い。今日泊まる宿に行く。


小さな村のようだが夜でも人が多少いることからそれなりに栄えているのだと予想する。タローはジェイクについていき今夜泊まる宿へと入る。


「宿代などは…すでにいただいているので…こちらですべて用意してあります…それと…あなたの今回借りられる…農地から最も近い…街はここになりますので…覚えておいてください。」


「一番近いのがここって…確か農地は明日の昼ごろ着くんでしたっけ?」


「いえ…到着は明後日の昼ごろを予定しています…明日の朝はかなり早く出る予定です…ですので今日は…早めに寝ておいてください。」


予定では明日着くと聞かされていたのだが予定が狂っているようだ。どういうことかと悩んでいるとジェイクが説明してくれる。


「昼間に…モンスターに襲われたのですが…その時も寝ていましたね…」


「………」


理由も何も単に寝ていてモンスターに襲われて時間がかかったのにも気がつかなかったようだ。


「夕食をとったら休んでください…まああなたは十分休んだようですが…」


何も言えないタローは夕食をとりまたすぐに寝た。昼間あれだけ寝ていたのにまだ寝られることに驚いたくらいだ。


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