第3話 農地購入
ファームギルド。農業ギルドとも呼ばれるこのギルドは世界最大のギルドである。主な仕事は土地の管理、新品種や肥料の開発、販売経路の開拓、ギルド組合員の管理、仕事の斡旋など他にも様々ある。
ギルド職員には現在農業を従事している人間もいる。そういった人物のほとんどはギルド職員として助成金を貰い日夜新品種の開発をしている。
そんなファームギルドには毎日情報や仕事を求めて多くの人間が来る。そこに一人の少年がやってきた。
「あ、あのすいません。農地を借りたいんですが。」
ギルドに入ってから最短距離で受付の元に行く。何人かにぶつかりギロッと睨まれているが気持ちが先走り周りが全く見えなくなっている。
「えっと…それなら二つ隣の受付よ。」
本当に周りが見えていなかった。タローが並んだ受付はモンスター管理窓口。そのことに気がついたタローは顔を真っ赤にさせた後「す、すいません!」と言い残し農地登録窓口に移動する。
タローを睨んでいた男たちも新人がやってきたと笑っている。ぶつかったことも気にしていないようだ。
先に数人並んでいたので待っている間に徐々に気持ちが落ち着いてきた。もう大丈夫だと安心したその頃にちょうど順番が回ってきた。
「ようこそファームギルドへ。今日はどのようなご用件ですか?」
「え、えっと…の、農地を借りに来ました。」
落ち着いていたはずなのだが受付嬢のニッコリ微笑む表情についやられてしまった。営業スマイルとはわかっているものの毎日男だらけの中で農地の畑を耕していたタローには刺激が強かった。
「わかりました。ではご予算の方と条件はありますか?」
「え、えっと予算はこれくらいでなるべくモンスターのこないところでお願いします。」
タローは今払えるギリギリの予算を提示する。農地を借りるだけで全財産使ってしまっては何も育てられない上、生活もできなくなってしまう。
「……この予算だとかなり限られてしまいますね。今一覧表をお作りするのであちらでお待ちください。それとギルドカードの提示をお願いします。」
ギルドカード。それは農業従事者ならば誰もが持っている。ランクがG〜SSSまでの10段階まで存在する。タローは現在Eランクである。最低のGランクは農業学校に入学した時点で取得でき卒業でFランクになれる。その後農地で一年以上働いた際にリカルドからの推薦ということでEランクになった。
ちなみに農業学校に入っていないものでも登録することは可能だ。だが農業学校に入ったものと比べ初期ランクの上昇は厳しくなっている。
タローはギルドカードを渡した後奥の席にて待つことにする。だいぶ緊張もほぐれたかギルド内の売店でパイアジュースを買う。
パイアジュースとはパイアと呼ばれる赤い果実の野菜を搾ったものである。栄養素も多く含まれており若い女性にも人気のあるジュースである。若干の青臭さがあるがタローは全く気にしない。
リカルドの農場でもぎたてのパイアを何度も食べたものだ。疲れた時にこれを食べると水分補給もでき力がみなぎるのだ。
そんなことで想いふけっていると受付から呼ばれる声がしたので受付に向かう。
「お待たせしました。予算の方がかなりギリギリだったので予算の範囲内の農地を全て一覧にしました。この4件の中から選んでください。」
タローの今まで貯めた予算ではたったの4件しか選べなかった。そんなことにショックを受けていると他の待っていた客の邪魔になったらしく肩をぶつけられた。
そんなことを気にすることもできないほどのショックを受けたタローは席に戻りパイアジュースを飲み干した。
パイアジュースのおかげで多少生気を取り戻したタローはいざ限られた4件の中から一番良い農地を探す。
「まずはこいつからだな。農地の等級はEか悪くないな。場所は…げ!ビート山脈の近くかよ。ここから1ヶ月以上かかるしモンスターも危険だから無理だな。」
まずは一件消えたとペンでバツをつける。
「次は…ジャガ墓地か。無理だな、モンスターがえげつない。その次はアワジ高原とか遠すぎだろ!ここから半年はかかるぞ!そんな旅費はない!」
これで3件消えたもう残る一件にかけるしかない。緊張の面持ちで最後の一軒を見る。
「……ナミナの森の近く?ここから2日でいけるし危険なモンスターもほぼいない。土地のランクは最低のGランクだけど悪くないんじゃないか?」
ナミナの森はパーライト王国の西に位置する森で危険なモンスターも少なく初心者の農家にはもってこいの場所だった。
むしろなんでこんないいところが空いているのか不思議なくらいだった。
「これも運命ってやつなのかな…もうここしかないな!」
早速受付嬢にそのことを話し商談を始めた。その結果農地代と案内費、運賃を込めての値段をだいぶ下げてもらうことに成功した。おかげで道具を新調できる。
「では出発は明後日の朝9時となりますので遅刻なさらないようにお願いいたします。」
明後日になるまで待ちきれないタローはとりあえず親への報告と足りないものの買い出しに行った。
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