第24話 従業員 〜水が少ないと皮が硬い〜

出荷を始めてから1週間後。ようやく出荷を終えた。なんとかタローは倒れる前にやりきったのである。だが今後もこのようなことが続くと考えたら何か対策を打つ必要がある。


「というわけで何かいい方法ない?」


タローは久しぶりに眠った翌日の昼。呼び出しておいたジャックにいい案がないか一緒に考えてもらう。ただしタローは収穫があるのでジャックにほとんどまかせているのだが。


「いい方法と言ってもその収納袋を持っているのはお前だしお前以外にランクごとに取り出せるわけでもないからな。どうしようもないだろ。働け。」


「えーんジャックがいじめるよー。助けてポチえもん。」


『なんだそのポチえもんとは。他の者がきちんと取り出せれば良いのだな?そうなると…うーむ…できないこともないか。』


「マジで!?」


『うむ。その袋を複製しそれに制限をかけるのだ。だたしその袋の複製を作る場合同質のものが必要なのだ。その袋と同質のものとなると難しいがな。』


こんな国宝以上のものと同質のものなどそうそう集められるわけがない。獣の皮で作られているのだろうがまず何の獣かもわからない。確かにできないこともないのだろうがどんなものか調べるだけで何年かかるか分かったものではない。

分かってもおそらくそんな生物はおそらく獣神クラスであろう。分かっても手に入るか怪しい。


「ん?獣神クラス?」


『…貴様何を見ている。』


「……ポチ…その尻尾ちょうだーい!」


獣神クラスならここにいるではないか。それに同じ生物ではなく同質のものである。同じ獣神ならばいける可能性があるのだ。その可能性かけるためタローはポチの尻尾に飛びつく。


「あ〜もふもふだあ。」


『我の尻尾で作るつもりだったのか。可能性はあるがその可能性にかけるのも嫌だしできたとしても我の尻尾はやらん!』


タローは可能性があるのならその可能性に賭けたい。というかこのままだとまともに作物を育てることができなくなる。タローはポチの尻尾をがっちりと掴みその手を離そうとしない。

ポチはトマトは食べたいが楽をさせるために自らの尻尾を切り取るつもりは毛頭ない。

二人はぎゃあぎゃあ騒ぎあっている。その様子を見ながらジャックは何かを考えひらめいた。


「だったら毛はどうだ?抜け毛でもできんじゃないのか?」


「『あ…』」






結果から言うと成功した。ジャックに櫛を買ってきてもらいそれを使ってポチのブラッシングをする。その毛を用いてポチに複製をお願いしたらなんてことはない簡単にできた。

一度に3個はできたのでこれからブラッシングを日課にすれば十分な量ができるだろう。


『この複製品は入れることはできるが取り出すことができないようにしておいた。収穫専用の袋だ。』


「ほうほう。今はそんなものよりも取り出す方が必要なんだけど。」


今収納専用の袋を作られても従業員もいないので何の役にも立たない。今必要なのは取り出す専用の袋だ。


『まあ待て、我も初めてやることなのだ。取り出すのは規格ごとに分けるのであろう?そうなると鑑定鏡の魔法情報を読み取りその魔法情報を必要な分この袋を作る際に付与しなくてはいかんからな。しばらく時間はかかる。』


「えー…できるまで俺まともに寝られないのかよ。できるだけ早く頼むよ。」


「…お前、今ポチ殿がやろうとしていることがどれだけ凄いことかわかっていないのか。そこらの賢者が一生をかけて研究してもできるかどうかわからないようなことだぞ。」


タローは農業一筋なので魔法道具などの知識は初歩程度しか学んでいない。無知なタローはこんな反応だがその凄さを知るジャックは唖然としている。二人の温度差は天と地ほどの差がある。


『とりあえず鑑定鏡を貸せ。それと作ったところで誰に取り出してもらうつもりだ?従業員を雇わないと何もできんだろう。』


「あ…そっか。」


今はタローとポチだけ。いつまでもこの状態だと畑も大きくできない上、販売もままならない。従業員の雇い入れは急務なのである。






「というわけでこの国で従業員の求人させてください。」


「何がというわけなのかはわからんがそれなら同じ人間同士の方がよかろう。わざわざヴァンパイアを雇う意味は何だ?」


タローはヴァンヴァイアの城で国王に謁見していた。今では二人の間のいがみ合いもなくなり親しい会話をしている。普通国王との謁見というのはもっと仰々しくやるものなのだがタローはトマトの出荷で度々城に出向いたため感覚が麻痺している。


「意味なんて大したものないんですけど、下手に人間雇うとギルドへの違反行為がバレるかもしれないので、ヴァンパイアならバレたらトマトの出荷ができなくなるとわかっているのでその辺は黙っていてくれると思いまして。」


「ふむ…そういうことなら構わん。なんなら手伝ってやろうか?」


国王は別段考えることなく許可を出した。タローが何か画策しているとも思わないというよりタローならば何とかなるからだろう。それに何かあればポチが止めると判断したからだろう。


「いえいえ。自分でスカウトしてみます。今後もこういうことが増えると思うので今のうちから経験しようと思いまして。」


今後トマトの売れ行きが増えることを考えたら下手に恩を作るのは得策ではない。それにタローの言った通り今後も従業員を雇うことが増えると考えたら今のうちから経験することは今後絶対に役にたつ。

国王もそれを察してそれ以上は何も言わなかった。




ヴァンパイアの国に来てからまともに街を散策するのは初めてであろう。今までは城か商会に行くだけだったためまともに観光ができなかったのだ。


「従業員を探すのならギルドに行くのが一番手っ取り早いぞ。とりあえず向かうか?」


ジャックがタローのお守りということでついてきた。ヴァンパイアの国で人間を一人歩かせるなど狼の群れに子羊を入れるようなものだ。もしも何かが起きたらトマトの出荷ができなくなる。それを危惧した国王がおそらくジャックに命じたのであろう。


「んー…多分ギルドじゃあだめだろうな。」


タローは辺りを見回しながらジャックに返答する。今のタローは従業員を探しに来たというより観光しに来た観光客だろう。周囲のヴァンパイアはタローを見て絡みにきた後、ジャックに気がつき頭を下げる。

モーゼの海を割るがごとくヴァンパイア達は二人に道を開けている。


「なぜだ?ギルドに集まるのはどれも経験者で知識も豊富だ。教育も簡単に済むぞ。」


「それが問題なんだよ。経験豊富ってことは知識が凝り固まっていることが多い。トマトの栽培方法は特殊なんだ。今までの栽培方法はほとんど使わない。全く違う方法を俺みたいな小僧が指導してそれ通りにやってくれるやつはまずいないだろう。下手したら乗っ取られる可能性もある。」


タローでさえ今のトマト栽培の方法は未知の連続。それをいざやるという時の踏ん切りをつけるのにも時間がかかった。タローの場合は田中一郎から教えられたからやることができた。

それをタローより経験豊富な者たちにタロー自身が教えるとなったら反発があるのは確実だ。下手をすると種を持ち去られる、最悪まで行けばタローを殺し乗っ取る可能性もある。それらを考えると人選はしっかりと見定めた方が良い。


「ふむ。ではどうするというのだ?」


「まずはこの国を知る。国を知らないのにその国の人間は雇えない。だから今日は遊ぶぞ。」


ジャックはただ遊びたいだけだろと思いながらも普段街で遊ぶことができないのでタローの護衛とかこつけて遊ぶことにした。

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