第23話 売買 〜10月10日は記念日〜
東の空から朝日が昇る頃タローとポチは家に戻っていた。
結局ギリギリまでトマトの紹介をしたため実際の販売は今夜仕切り直しということになった。
タローはトマトの様子を見ながら水やりをし、収穫をする。脇芽を取るのも忘れない。そんなのが1haあるのだ。なかなか終わらない。
昼を少しばかり過ぎた頃やっと今日の作業を終えた。かなり急いでやったのだがそれでもこれだけかかってしまった。タローはやっと寝むれると思いベットに倒れこむ。久しぶりにまる1日以上起きていたため眠さが半端ではない。タローはあっという間に眠りにつく。
「……お…ろ…」
寝ているのに何かが起こそうとする。しかしここは家だ。起こそうとするのはポチしかいない。もう少し寝かせてくれ。そう思うのだがなかなか諦めない。
「…き…ろ」
うるさい。丸一日起きていたのだ寝たいと思う気持ちわからないというわけではないだろう。揺すられると面倒なので手足でがっちりホールドしてやる。
これが案外いい感じなのだ。柔らかく暖かい。それになんだかいい香りがする。サイズもちょうどいい。最高の状態だ。
もう一寝入り、そう思った時何かに頭を蹴られる。さすがに目をさますタロー。蹴ったのは誰かと見るとそれはヴァンパイアの国王であった。タローはなぜか国王の執務室にいた。タローは思う。今いったい何を抱きしめているのかと。これはお約束というやつなのではと思い抱きしめていたものを見る
「…やっと起きたか。この馬鹿者め」
ジャックだった。タローはまるで乙女のような悲鳴をあげて後ずさる。未だに何があったのか混乱しているが開け放たれた扉の向こうからメイド数人が生唾を飲み込んでいた。それを見てタローは恐怖する。
だがさらにそこから離れた遥か彼方。目のいいタローは見えてしまった。こちらを見て頬を染める執事の姿を。
「ヴァンパイア…恐ろしい。」
タローは今初めてヴァンパイアの恐ろしさを知った。まさかここまでの種族だったとは思いもしなかった。きっと来てはいけない土地に来たのだと今理解した。
「何を言っておる?いい加減商談を始めたいのだが?他の者たちも待っている。」
国王からの冷めた声。ジャックはすでに立ち上がり身なりを整えている。タローはどういうことなのか説明を求めたがそれは移動しながらということで連れて行かれる。
移動中の説明によるとなかなか起きないタローをポチが無理やり背に乗せて運んできたのだという。そして執務室において行き後は頼むと託されジャックが起こそうと思い揺すっていたところタローが抱きつきメイドが歓喜するあの状況になったということだ。
「さあついた。ここで今から取引する。」
タローが連れて行かれたのは普段極秘の会議などをする際に利用する特別な会議室だった。そこには20人ほどの重役と思えるヴァンパイアがいた。
そこにジャックに国王、タローが加わりやっと会議が始まる。
「え、えーではこれよりトマトの商業取引を始めさせてもらいます。司会は私サターです。細かいことは省略させてもらいます。今すぐに売り出してくれという貴族が多いものでしてね。それでは早速トマト農家のタローさん。月にいくつのトマトを売りに出せますか?」
もっとお堅いものだと思っていたタローはあまりにもあっけなくて調子が狂った。普段はそんなことはないのだが早くトマトを食べたいのだろう。それだけ期待されているということはなんとも嬉しい。
「月にですか…新しく植え換えるとその月の収量は安定しませんからね。しかし今回の稼ぎで農地を増やせたらさらに増やせるでしょう。
幸い今は備蓄がありますのでそれほど考えなくてもまだ大丈夫だと思います。皆さんの必要な量をできるだけ揃えさせてもらうのでまずは必要な量をおっしゃってもらえるたらいいと思います。」
タローには今まで貯めたトマトの備蓄がある。そうそうなくなることもない。
「わかりました。ではすでにどれだけの量必要なのかまとめたものがありますのでそれをごらんください。」
サターは一枚の紙をタローに手渡す。その紙に書かれているトマトの出荷してほしい量はかなり多いがなんとか今ある分でまかなえる。だがこれには致命的な欠点がある。
「この量ならなんとかまかなえます。ですがこれだけの量を消費するのは時間もかかりそうです。このトマトはそこまで日持ちするものではありません。それを解消する方法はありますか?」
そうこの紙を見る限り誰もかれもがただ欲しいと思い買えるだけ書いたようなものなのだ。日持ちしないことを伝えなかったタローも悪いのだが正直こんないきなりやるとは思いもしなかったので今日話せばいいだろうと軽い気持ちで考えていた。
「なるほど…どのような保管が好ましいのですかな?」
「そうですね。まず私は完熟したものを売っているため傷がつきやすいです。ですので、緩衝材を入れた箱に重ならないように入れてください。それと涼しく湿度もそれなりにあるといいです。」
「うちの商会は冷暗保管できる場所がありますのでそれなりの長期保管が可能だと思います。うちのものを参考にしてもらえればいいですかね。一応どんなものか書きまとめたものがここにあるので見てもらえますか?」
タローはどんなものか紙を見て確認する。はっきり言ってこれなら完璧である。ここまでの設備はそこらの商会では持てないだろう。魔石を用いた冷房、建物には障壁が貼られ冷気が漏れないようにされた上に外敵の侵入を防ぐための装置まである。
「これほどのものなら文句もないですね。」
「じゃあうちは傷のつきやすいものをよく扱うんでトマトを入れる箱も大丈夫だと思うんですがこれを見てください」
「待て待てうちにもあるんだ」「うちにだってあります是非」「うちも」
みんなみてくれとタローに書類が渡される。タローも難しいことはわからないのだがそれでもタローに見せることで安心して出荷してほしいのだ。
「え、えーと皆さんのを確認させてもらいましたがみなさん出荷しても問題ないという結論に至りました。ただそれでも最初の出荷量では多いので少し数を減らしましょう。足りなくなったらすぐに出荷しますので。」
みんな出荷してもらえるということで大満足である。貴族層だけへの出荷かと思いきや意外にも庶民向けの出荷も依頼されている。Sランクなどはさすがに手が出せないかもしれないがCランクならばなんとかなるらしい。
ただ最近はCランクが採れなくなっていたためこの先数が用意できない。そこの問題も出てきた。
話し合いの結果数が決定した。タローもこれならば問題ないと思い取引額の決定も行った。
そして新たに問題が出てきたことに気がつく。それは…
「122、123、124、125…」
タローは今出荷をしている。その出荷方法はコンベアーの上に収納袋から一つ一つ手作業で取り出すという単調な作業である。タローは日中トマトを収穫する作業をし夜にはこうして出荷作業がある。
「あー…これでここの分は終了です。大丈夫ですね?」
「ええ!いやぁ待ちに待ちましたよ。出荷はまだかと催促まで来ていまして…おっとすいません。ではこれが予定通りの金額です。」
なかなかの重みである。この袋いっぱいに金貨が入っているのだが今はこれに喜べる状況ではない。何せ…
「やっと終わりましたか!では次はうちにお願いします!」
残り17件。出荷を終えるのが早いか倒れるのが早いかの勝負である。
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