第16話 話し合い 〜語源は膨らむ果実〜
「…驚きすぎて忘れていたけど俺のいない間に勝手にうちのトマト食ったわけか。」
『む、むぅ…だからこうして詫びの品を』
「いやいやなんで誇り高いお前が損なことしちゃったの?というか詫びの品が水ってお前…」
先ほどまで威圧されていたタローが嘘のようにポチに説教をしている。ポチの尻尾は垂れてしょんぼりしている。タローは説教したもののどうしたものかと頭を悩ましている。また怒らせて漏らすようなことになるのは避けたい。
「なんか訳があったんだろ?言ってみろよ。もう怒んないからさ。」
『むぅ…実はな、我は一郎の元で育ったゆえに舌が肥えておる。そのためその辺の魔物ごときで腹を満たすことができなくてな。それに我は獣神である!下賤なものは食わね。』
「野菜泥棒はするのに?」
『む、むぅ…そ、それにも理由がある。』
「どんな?」
『……うまそうだったのでつい…』
「それ昔働いていたところに来た泥棒と同じこと言っているぞ。」
ポチは横を向きながらなんとか言い訳を考えているようだ。時々聞こえるうめき声がちょっと可愛らしく聞こえてきた。タローはため息をつきポチに話しかける。
「まあいいよ。どうせこのトマトを食ってくれるやつは他にいないしな。それに聞きたいこともあるし。」
『何!許すというのか人の子よ。それはありがたい。しかしここまでうまいものを食うものがおらぬというのはどういうことだ?それに聞きたいこととは?』
「ま、まあ一度に聞かれても答えられないしとりあえずこっちに来てくれ。」
タローはポチの持ってきた魔力の含まれた水の入ったバケツを運びながら家へと案内する。ポチは足音があまりにも静かだが毛が風でたなびく音が後ろから聞こえてきたためついてきていると判断する。
「ここで待っていてくれ見せたいものがあるんだ。」
ポチを家の前で待たせてタローはうちの中からあるものを運びポチに見せる。
『な!なんだそれは!一郎の匂いがするぞ!』
タローが持ってきたのは映像が入っていた結晶とその結晶と種が入っていた袋である。
「ちょっと待っていてくれよ…最初からとかできるのかな?ものは試しだな。結晶よ最初から再生。」
結晶はタローの声に反応して光り出す。そして投影された映像はタローの望み通り一番最初からの映像であった。
『あ、あー…ゴホン。それでは始めるぞ記録はちゃんとできておるな?それでは第3回農業講座を始めるかのぉ。』
『おお!一郎だ!一郎が現れた!一郎…一郎…会いたかったぞ……』
ポチはその瞳から大粒の涙をこれでもかと流している。タローはその姿を見てポチと田中一郎の間が本当に家族のようであったのだろうと確信する。別に疑っていたわけではないのだがもし本当ならこの映像を見せたかったのである。
タローはポチに映像を一人で見させてやろうと思い収穫していなかったトマトを今のうちに収穫する。脇芽も生えていたためいい感じに時間がかかりそうだ。
タローが収穫を終えた頃。家の前から遠吠えが聞こえた。その遠吠えは悲しさが混じっているように思えたがそれ以上に嬉しさを感じさせた。
収穫したトマトを家の前に運ぶとそこにはびしょびしょに濡れた土の上に今なお泣いている狼がいた。
『感謝する人の子よ。まさかこうして一郎を見ることが…しゃべる姿を見ることができるとは思いもしなかった。ありがとう。』
「気にするな。それよりもいろいろ聞きたいことがあるんだが…まあいいやとりあえずこれ一緒に食べよう。」
タローは今収穫してきたトマトをポチに勧める。ポチは泣くのをやめタローと共に食事をする。そのトマトはいつもよりも美味しく感じた。
「あ〜!やっぱり美味いなぁこのトマトは。それにしてもお前はタナカ・イチロウのところにいたのにこれ知らなかったのか。」
『うむ。我が一郎と出会ったのは一郎が死ぬ数年前であった。そのため我は小さかったから畑には連れて行ってもらえんかった。』
タローとポチは食事をしながら雑談している。その雑談の中で聞きたいことをお互いに聞き合っている。
「小さかったって…じゃあ今まで何食ってきたんだ?下手なものは食べないんだろ?」
『それはな一郎が死ぬ前に我に食物をこれでもかとくれたんだ。まあそれ以外にも多少は自分で探したものを食っておったが1年ほど前にその食料も尽きてな。難儀しておった。』
「死ぬ前にって…もう100年以上前だぞ?そんなに大量の食料だったのか?」
『うむ。それほど大量の食料だ。それに最初の10年ほどは奴に育てられた。』
それほど大量の食料をどこに保管していたのか。どうして腐らなかったのか。そんなことを聞きたくなったがその前にもっと気になることができた。
「奴?奴って誰だ?」
『奴は奴だ。名は聞かなかったな。それにお主も知っておるだろう?あの映像を撮影していたのがおそらく奴だ。一郎と共に行動していたのは奴くらいだ。』
映像の撮影者。タローが気になっていた人物である。一郎と共にいた人物などこの歴史に確実に名を残しているはずなのに誰も聞いたことがない。歴史に隠れた謎の人物。その正体がわかるかもしれないと思ったがどうやらダメなようだ。
『我も聞きたい。なぜこのトマトは売りに出せないのだ?これほどのものだ皆がこぞって買いに来るぞ。』
確かにそうだがそういうわけにもいかない。タローは訳を全て話した。街まで届ける間に潰れてしまうこと、仮に街に届けられてもギルドの規約違反になるため販売どころかばれることすらまずいこと。
タローは話しながら自分の不甲斐なさに涙が出てくる。そんなタローを見て一考するポチ。するとポチは夜には戻るとどこかに出かけてしまった。
タローは訳がわからなかったがとりあえずトマトの管理状態を見ることにした。
夜。辺りも暗くなってきたがポチが戻るといったため火を起こし起きたまま待っていた。かなり疲労困憊でとっとと寝たいのだがなんとか待つことにした。
今夜は月明かりも少なく真っ暗である。星を眺めながら待つことにしたがそんなことをしたらと余計に眠くなってきた。あくびをして森の方を確認する。
そこには火の明かりによって照らされた狼の姿があった。
翌朝、寒さで目が覚める。外の焚き火の前で目が覚めたが何があったか記憶がない。確かポチを待っていたら目の前に狼が現れて…というところから記憶がない。何とか思い出そうとするが無理なようだ。
『起きたか…貴様我を見て気絶するとはどういうことだ。』
記憶がない。というより意識がなかった。タローは顔を真っ赤にさせながらポチに謝り続けている。ひとしきり謝ったところでポチは許してくれた。
とりあえず朝の収穫をする。いい出来なのだが前にたまたまできた高品質トマトは一個もない。以前田中一郎から頂いた作物のランクを見極める道具…名を鑑定鏡と名付けたがその評価は平均Cである。最も良いものでやっとA。おそらくギリギリであろうが。
そのうち全部片付けて作り直ししないといけないと考えていた時ポチが袋を手渡す。どことなく汚れていて一度洗いたくなるような袋だがタローがこれは何かとポチに聞く。するとポチはドヤ顔をしながら答える。
『これはお主の現状を打破できる特別なアイテムだ。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます