第22話 商談 〜リコピンはすごい〜
さすがに場所を変えようということで一同は王座の間にいた。
そこの両サイドには大臣に騎士、幾人かの貴族らしき姿も見られた。王の隣には王妃にジャック、それと2人ほど、おそらくジャックの兄弟がいた。
そんな王の前にはタローとポチが膝まつくこともなく座っていた。
「では始めようか。お主が売りたいものを見せてみよ。」
「えーとこちらの商品です。」
そう言ってタローはトマトを袋から取り出す。トマトを出した瞬間周りがざわつく。「パイアではないか?」「いやパイアとはまた違うような」「うまそうではないか」など反応は様々だがこの感じは良好そうだ。
タローが取り出したトマトを兵が受け取りに来る。受け取られたものをナイフで4当分に切る。そのひとかけらを毒味役の兵が食す。その兵士は口に入れた瞬間目を見開きその味に驚いている。
毒がないことはわかったため残りを王のもとへと運ぶ。王は今までは別に興味もなさそうであったが毒見役の男の反応を見て態度を変えた。毒見役の男は今までも様々なものを毒見してきたのだ。その中には今まで食べたことのないような美味なるものも多くあった。言ってみれば舌が肥えているのである。そんな男があれだけの良い反応をするとなれば興味を持つものだ。
残りの3かけらを王に王妃、ジャックが食す。横にいた2人の兄弟は羨ましそうにその様子を見ている。3人は口に入れた瞬間その味に驚いている。
「な!なんという旨さだ。このようなパイアが存在したとは思いもせんかった。」
「まあまあこんなに美味しいパイアは初めて食べました。スゴイ腕前ですね。」
「父上、母上。これはパイアではなくてトマトと呼びます。ですがこの味は…」
王と王妃はこの旨さに感動しているがジャックはなんだか納得していなさそうな表情であった。だが少し考えた後タローの様子を見て納得していた。周囲の大臣たちは皆その味に興味津々である。
「大変好評のようで良かったです。ちなみに周りの皆さんのためにこのトマトにいくら払っても良いという金額を教えてもらえませんか?それで周りの皆さんもなんとなく判断できるでしょう。」
「ふむ…この味ならば…パイア銀貨10枚は固いな。」
国王のこの判断に周囲の大臣らはざわつく。
「陛下!その金額は高級パイアの5倍はしますぞ!それほどの価値がありますか!」
「うむ。このトマトなるものはそれだけの価値が有る。」
国王のこの反応に皆が一斉に騒がしくなる。ここまでこの国王に言わせるのだ。どんなものなのかますます気になってくる。
「皆、静まれ。まさかここまでの品を持ってくるとは思わなかった。先ほどのことは許してほしい。今回の商談に色をつけさせてもらおう。それでこのトマトなるものをいくつ売ってくれるのだ?」
「あ、その前にこちらを食べてください。今度はご兄弟の分も含めて二つどうぞ。」
タローは袋から今度はトマトを二つ取り出す。どういうことかと国王を含めた全員が騒ぎ出す。そんな中理由をわかっているジャックが笑い出す。
「父上。先ほどのトマトはタローの仕返し…とでも言えばいいでしょうか。私が彼の元で食べたトマトには遠く及びませんでした。今出しているのが私の食べた彼の売りたい本命のトマトです。」
ジャックの発言にまたも騒がしくなる。まさか先ほど国王にあれほど言わせたトマトよりも上のものがあるとは誰も思いもしなかった。急いで兵が取りに来る。そのトマトを4当分にしたのだが今度は2つある。毒味役も二人必要なのだが誰が毒味役をやるかでかなりもめている。
おそらく話し合いの上で決まったであろう2人の毒味役。なんとも幸せそうな表情で一切れ口に入れる。幸せの絶好調。この世の春のようなその表情。その食べた時のこの反応を見てその様子を見ていたものは思わず唾を飲んだ。
国王たちも早く食べたいと急いで運ばせる。まるでひったくるようにトマトを取るとすぐに口に入れる。するとこの味のあまりの衝撃に思わずジャック以外の全員がにやけ出す。
「まさか…ここまでとは思わなかった…凄まじい旨さだ」
「うふふふふ。こんなに美味しいものを食べられるなんて王妃になって本当に良かったと思ったわ。」
「うん。やはりこの味だな。この美味さだ。」
「あ、兄上はこれを既に食べていたんですね!羨ましい!」
「我々より先に食べていたとはずるいです!」
あまりの旨さに諍いが起きているようである。そして2人が毒見し5人が食べたということは一切れ残る。
その一切れを是非食べたいという大臣たちが自分の元へ持って来いと残りを持っている兵士を脅している。
すると急に何者かが現れ食べてしまった。食べられたことに対して落胆する大臣達。食べたのは一人の少女であった。
「……おいし…」
「キュラ!お前がこんなところに来るとは珍しいな。」
「その子は?」
「あ、ああ。キュラと言ってな。俺の妹だ。」
ジャックの妹つまりこの国の姫である。しかしその格好は普通の庶民的なものである。姫だと言われなければ誰もわからないかもしれない。だがその顔立ちは整っておりかなり美人だと言えるだろう。ただまだ小学生程度の子供である。
キュラはトマトを食べるとタローの前まで歩いてきた。
「……もっとちょうだい…」
「…ちょっと待ってね」
まさか催促されると思われなくて少し動揺した。しかし今は商談の最中である。気は抜けない。
「これには一体いくらの価値がつきますか?」
「これが目的であったか。うまくやるものよ。この味ならば…パイア銀貨30枚でどうだ。」
再びざわつく大臣。この男は何度驚かせてくれるのだろうか。国王は先ほどこの男に興味がないと思った自分を貼りたいしてやりたいとさえ思えてくる。
タローはキュラに服を引っ張られる。何かと思うと彼女の手には金貨が握られていた。
「……1個…ちょうだい…」
どうやら彼女はもうこのトマトに夢中である。そんなキュラにもうちょっと待ってねと言うとふてくされる。何とも可愛い。
「では国王陛下。私の最高傑作にはおいくらつけてくれますか?」
タローはそう言うと袋からトマトを2つ取り出す。先ほどまでのトマトと違い大きさが小さい。だがその色つやは段違いである。近くで見ているキュラの目は輝いている。
兵は急いで取りに来る。今度は誰も騒がない。皆が見入っているのだ。
先ほどまでと同じように切り分け毒味をする。すると毒味をした二人はその場で倒れこんだ。毒ではないかとざわつくが周りの兵士がたおれた二人の兵士を抱き起こしてやるとなんともだらしのない顔をしていた。
まさかトマト一つでここまでなるとは思いもしなかったのだろう。周囲から驚愕の声が上がる。
国王は急いで運ばせる。その表情は王とは思えぬほどだらしのないものであった。運ばれてきた瞬間。ひったくるように奪う。そして今度はすぐには食べずに色や香りを楽しんでいる。キュラも一つもらいそれをじっと眺めていた。そして意を決して口へと運ぶ。
「この味…まるで夢のようだ。これほどのものがこの世にあったのか。」
「そこらのフルーツなんて目じゃないわね。宝石なんかよりも価値があるわ」
「タロー。これほどのものを隠していたとは思いもしなかったぞ。この甘みは野菜のものとは思えぬ」
「兄上…これは野菜なのですか?これはまさに神々の至宝と言えるものでしょう。」
「もしかしたら僕は今…伝説の食材を食しているのかもしれない。」
「………」
皆思い思いの感想を述べているのだがキュラだけは何も言わずにこちらに文字通り飛んできた。そしてタローの元までくると服を引っ張り「もう1っこ…もう1っこ」と催促してくる。
タローはしょうがないと袋から一つ取り出しキュラに渡す。それを満面の笑みで受け取るとそのままタローの足の上に座り食べ始める。
タローはどうしようと困るがまるで妹ができたみたいでちょっと嬉しくて無下にはできなかった。
「それで国王陛下はこれにいくらならお支払いできますか?」
国王はキュラのことで何か言おうとしたがタローの質問に悩み始める。安くすることもできず下手に高くすることもできない。妥当な金額を考えるがこれはなかなか悩ましい。
「パイア金貨…1枚でどうだ。」
パイア金貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚と同等の価値が有る。つまり先ほどのものの約3倍以上である。この金額にはさすがのタローも驚いた。しかしあの味である。確かにそれだけの価値が有ると言えるだろう。
「ありがとうございます。まさかここまでの金額にしてもらえるとはありがたい限りです。」
「いや…正直この値段でもここにいる者たちはいくらでも買漁るだろう。需要と供給で考えるとまだこれから値段は上がるだろうな。しかしいいものを食べさせてもらった。」
「そうですかでは…」
「うむ早速細かい商談に」
「いえ?次の品種に移ります。」
タローは5種類のトマトを育てている。まだ残り4種類あるのだ。タローの商品紹介はまだまだ続く。
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