第20話 ヴァンパイアの国 〜グルタミン酸で料理を美味しく〜
「なにこれ超快適。」
今はどこかの森の中。いや平原…やっぱり森の中。そんな具合にタローの視界は巡り巡っている。
なぜそんなことになっているのか。それはタローが今ポチの上に乗っているからであろう。
およそ1時間前。
『吸血鬼の国まで距離がある。朝にはトマトの世話があるからな、我の背に乗せてやろう。』
ジャックに言われヴァンパイアの国に向かうことになったタローは荷物をまとめている。そんな時にポチが連れて行ってくれると言ってくれたのだ。
「え、本当?けど俺乗馬とかの経験もないしちゃんと乗れる自信ないんだけど」
乗馬を経験するなど牧場の人間か騎士や貴族など金持ちか育てている人間しかない。農家で乗馬を経験することはまずないだろう。馬車ならいくらでも経験しているだろうが。
『安心せい。我の魔法でなんとかしてやる。ちゃんと乗っておれば問題ない。』
ふーんとタローは軽い気持ちで返事する。そんなことより今は荷物の準備のほうが忙しい。とはいえ普段からポチの持つ収納袋に入れているので特にないのだがおそらく貴族に会うということで失礼のない格好をしなくてはいけない。
数少ない中から一番いいものを選び、問題ないことを確認する。
「よし!これでオッケーだ。じゃあポチ頼むよ。」
タローが選んだのは黒色の…つなぎである。上下一体型の作業着は多少泥汚れが付いている。頭には麦わら帽子、手には軍手、首にはタオルである。はっきり言ってひどい。
『お前…それはないだろう』
「う、うむ。それはダメだな」
二人からのダメ出しである。こんな格好で一体どこに行くというのだろうか。二人は大きなため息をつく。
『夜間城に行くのに麦わら帽子はないだろう。それはいくら何でもやりすぎだ。』
「軍手もやめたほうが良いな。手を隠すことは手の内を隠すという意味がある。それにそのタオルも今の時期は不要だ。つなぎだけで良い。」
タローはつい張り切りすぎたと顔を赤くする。慌てて着替えてつなぎと長靴というシンプルなものになった。
「こんな格好だけどいい?」
二人は満足そうに頷く。やはり貴族に会うというのならつなぎに長靴だろう。ヴァンパイアの国ということで色を黒くしたところにタローのセンスを感じる。
そんなことでこんなでポチの背にタローとジャックは跨り移動を開始した。初めはあまりの速度に怯えて必死にポチにしがみついていたタローであったが次第に慣れていきこうして今ではその快適ぶりに大満足である。
風はなぜかそよ風程度しか感じず、揺れもほとんど無い。おまけにポチの背中は柔らかい上暖かい。そこらの高級ソファーなど目では無い。
おまけにこの景色である。一瞬にして景色が移り変わる。こんな経験今までしたことがなかった。
後ろに乗っているジャックもこの速度には驚いたようで終始感心している。
「もう着くのか!タロー見てみろあれがヴァンパイアの城だ。」
「あれが……すごいな」
漆黒の城が月明かりに照らされて幻想的である。どこか恐ろしい気もするがそれ以上に美しく目が離せなくなる。
『どこまで行くつもりだ?このまま城まで行くのか?』
「ああ、それで頼む」
城まで行く、それを聞いたタローは思わず「え!?」と驚く。まさか城に行くとは思いもしなかった。せいぜいどこか貴族の豪邸だと思っていた。タローの驚く声がまるで聞こえなかったというような反応のジャックは鼻歌交じりで楽しそうである。
ポチは速度を緩めることなく城壁を飛び越える。一瞬の無重力状態に死を覚悟したタローだがあっという間にポチは駆けていき城へと到着する。
「な!何者だ!」
ポチの登場に混乱し呆然と立っていた兵士であったがすぐに我に帰り手に持つ槍を構える。しかしその手は震えており自分たちでは何もできないことを確信しているようだ。
「慌てるな。武器を下せ。」
「お、王子殿下!」
「…王子殿下!?」
兵士たちの言葉に何のことかと考えたがすぐに事態を理解した。ポチは今更かというような表情だ。だがタローはあまりの衝撃に混乱している。
「父上は執務室か?」
「は!客人はいらしておりませんのでおそらくそうかと思われます!」
「そうか。ではタローついてこい。ポチ殿はすまないが外でお待ちいただけるか?」
『うむそこらで寝ていよう。ではタローこれを持っていけ。』
ポチはそう言うと首にかかっていた収納袋をタローに渡す。だがタローは未だに衝撃でなかなか我に返らない。そんなタローを見かねたポチがタローの顔を舐める。
「うわ!ちょっ!!…お前走りながらトマト食ったな?」
『そんなことよりもいいからこれを持っていけ、しばらくなら離れていても平気だろう。我はここで待つ。』
タローはポチから収納袋を受け取る。何か言いたそうにするタローの腕をジャックが引っ張る。
「ね、ねぇそこの兵士さん。こいつが王子って本当なの?だってこいつトマト見ていたらついら、むぐぅ!」
「黙れ!いいからついてこい!」
タローがバラさないうちにジャックはタローの口を塞ぎ引きずるように運ぶ。だがそれもタローの作戦の内。ジャックはタローの口を手で塞いだことによってポチの唾液が間接的について嫌そうな顔をする。
そんなジャックを見たタローはしてやったりと満足そうな表情である。
ジャックはタローを引き連れて城に入る。きらびやかなタローが夢に見たような豪華な造りだった。そこにいたメイドが急に入ってきたジャックに気がつき慌てて頭をさげる。
タローは本物のメイドだと興奮している。まるで夢の中にいるようなそんな気分である。
そんなタローにジャックがこっちだと案内していく。タローはキョロキョロとそこら中を見回している。そしてジャックが進むと周りのメイドや執事が皆頭をさげる。ここまで来てやっとジャックが王子っていうのは本当なんだと自覚した。
そんなジャックに連れられて城の中を一体どれだけ歩いただろうか。気がつくとそこは一際豪華な扉があり横には先ほどの兵士とは鎧も持つ武器も豪華な造りの兵士…いや騎士が立っていた。
「父上に用がある。客人とともに入っても大丈夫か確認を取ってくれ」
「は!少々お待ちください。」
騎士の一人が返事をすると扉をノックする。
「陛下!ジャック王子がお客人とともに参られました!」
「入れ。」
扉の向こうから返事が聞こえる。すると扉が開き扉の向こうにいたこの国の現国王の顔が見えた。タローはそこまで来てようやく夢ではなく商談に来たのだとはっきりと自覚し気合いを入れ直す。
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