第6話 農地へpart3

「…さあ…着きましたよ…」


「…はい。」


今まで寝言で何を言っていたのかそれをほんの数分聞いただけで恥ずかしさのあまり悶絶した。まだまだあるらしいがはっきり言ってもう知りたくもない。

ジェイクもそれを察したのか到着する少し前には話をやめた。


「荷物は…彼らに運んでもらうので…私たちは…農地に行きましょう…」


ジェイクは荷物を運んでいる従者に指示を出すと農地に向かう。タローも先ほどまでのことは忘れて農地に集中する。待ちに待った自分だけの農地である。今から顔のにやけが止まらない。


ジェイクに連れてこられた場所は森から少し離れたところにある雑草一本ない土地である。地面は固く石ころが混ざってゴツゴツしているが多少は舗装されているのであろう。家のまわりはそんな地面に覆い尽くされている。


かなり安い上に家のまわりの土地は固く均されているここはかなりのあたり物件だと内心笑いが止まらない。これならもう勝ち組確定だと優越感に浸る。


そんな土地を歩いているとジェイクがこちらを向いて何か書類を確認しだした。あたりをキョロキョロしながら土地の確認をしているあたりを見るとおそらく農地までの道がわからないのだろう。サチさんのことをおっちょこちょいと言えないなとつい笑ってしまう。


「…タローさん…よろしいですか?…」


「あ!はい大丈夫です。」


自分の農地に案内してくれようとしているのに笑ってはいけないとタローは自分を引き締める。今まで寝ていたんだからその分ここでは真面目にしなくてはいけない。


「そうですか…では説明に入ります…ここが一番南側の…土地の端になります…」


そう言うとジェイクはその場所に紐の付いた杭を打ち込み紐を伸ばしながら移動する。


そんなジェイクにタローは困惑する。それもそうだろう。ジェイクの杭を刺した場所はカッチカチの舗装された地面である。

タローは訳も分からずついていく。途中途中でジェイクが杭を刺しながら何かを言っているが頭に全く入ってこない。


しばらくすると最初に杭を刺したところに戻ってきた。


「…ということで…この紐に囲われた土地が…タローさんの…農地となりますが…よろしいですか?」


「え?よろしくないです。」


「「………」」


二人の間に何とも言えない沈黙が続く。タローは混乱している頭を何とか落ち着かせてジェイクにする質問を考える。


「えっと…まずは農地って言っていますけどここ舗装された道路ですよね?」


「いえ…ここは農地です…」


「「………」」


再び沈黙する二人。ジェイクが杭を刺し紐で囲った土地はタローが道路だと思っていたこれからタローが住むであろう家の周囲1ha(1ha=100m×100mの四角形)ほどの土地である。はっきり言ってこれを農地だと言っているジェイクの方がおかしい。


「事前に説明が…あったと思いますが…」


確かにタローはサチから説明を受けていたが緊張と農地を持てることで浮かれていたせいで話をあまり聞いていなかった。必死に思い出すが「家のまわりは土地が固くてしっかりしていますよ〜」とサチが言っていたのを思い出せた。家のまわりというよりか農地までしっかりしちゃっていますよと心の中でツッコミを入れる。


「み、水はどこにあるんでしょうか…」


タローは現実に打ちひしがれて瀕死の状態であるがなんとかいいところを探そうと必死である。

ジェイクはそんなタローの質問に答えるべく資料を見ている。少しするとジェイクが「こちらです」と道案内を始める。


タローはそんなジェイクについていくがほぼ生気がない。ただひたすらについて行っているだけである。


すると次第にさっきまで煌々と照らしてきた日光が遮られている。不思議に思ったタローは周りを見る。するとそこは家の北側にあった森の中だった。

森の中をズンズン進んで行くジェイク。タローは再び混乱し言葉も出てこない。


森の中を10数分歩いていると水の音が聞こえ始めた。さらに少し歩くと目の前に小川が現れた。


「ここが…水場です…」


タローは驚きのあまり目が点になる。普通農場には水道が通っている。リカルドのところがそうであった。そこから水やりを行っていたのであるがジェイクは「水は?」と言ったらここに連れてきたのである。


「す、水道は通っていないんですか?」


「そんなもの…ありません…」


タローの血の気が引く。まさかとは思うが次の質問がしづらい。


「ひ、火は?」


「…起こしてください」


「み…み、み店は?」


「…この前泊まった…村にあります…」


「ほ、ほかの人…」


「…この森の抜けたところか…ここから1日…歩いたところに…確か居ます…」


畑も立地も最悪。これがタローが必死に貯めたお金で買った土地である。こんな現実に本気で涙が出てくる。浮かれていた自分があまりにも愚かで悔しくなる。


「…このまま…街に帰りますか?…」


タローを見かねたジェイクからの一言。タローは俯いていた顔をバッと上げて何かを言おうとする。しかしそれをぐっとこらえた。ここに来るための今までの努力、苦労を思い出す。


きっとジェイクの言葉にすがった方が正しいのかもしれない。けどこんなところで諦めて帰れるわけがない。ここに来たのは夢を叶えるために来たのだ。このくらいの試練こなせないで夢など叶えられるものか。


「大丈夫です!俺は絶対にこの土地で成功してみせます!!」


ジェイクの目を見てハッキリという。そんなタローを見てジェイクはニコリと笑う。


「頑張って…ください…」


水場の確認もしたところで戻り始めるジェイク。その後ろをぶつぶつ喋りながらついていく。今この時も時間がもったいないと今後について必死に考える。どうやったらこの土地を再生し作物を育てられるのかを。






「私たちの…仕事はこれで…おしまいです…それでは私たちは帰ります…」


荷物を全部下ろし終えたのを確認したところでジェイクが報告に来た。タローは考え事をやめジェイクからの報告を聞く。


「そうですか。今日までありがとうございました。ほとんど寝たままでしたが楽しかったです。」


「こちらも…楽しかったですよ…これで当分は笑えそうです…」


思い出し笑いをしそうになるジェイク。こちらとしては恥ずかしくてたまらないので忘れてほしい。


「このことも…聞いていなかったら困るので…一応確認しますが…農地の貸出期間は5年間…5年後までに…今回この農地を買う値段と同額の金額…もしくは半額の支払い…半額の場合は…さらに5年後までに残りの支払いを…」


「ただし5年後払えなくてもその後払える見込みがある場合は延長出来るでしたよね?」


「そうです…払えない…もしくは待っても払える見込みがない場合は…退去することになりますので…」


このタローとジェイクが話している制度は『新規農業者参入制度』と呼び本来の半分の額で農地を借りることができる制度である。

残りの支払いを5年間延長出来る代わりに5年後残りを払える見込みなしという判断を下されたら強制退去させられる。


新規農業者のほぼ全てが農地を借りる際に使っている。新規農業者の半分以上が途中で払えなくなるか諦める場合、農地を手放すのでこの制度によってギルドは農地を買い戻すことをしなくて良くなったので無駄な仕事が減った。


「大丈夫です。そこは学校でも教わったのでしっかり覚えていますよ。」


「そうですか…それでは私たちはこれで………頑張ってください…」


「はい!」


ジェイクたち一行は来た道を帰っていく。タローは彼らが見えなくなるまで手を振り続けた。




「…さてと。ここからは一人で頑張らなくちゃな!」


今日の残り1日は住居の整頓に充てるつもりである。ここで足りないものなどをピックアップしていき今度買い物に行くのである。


「あれ?…買い物って前に止まったあの村まで行くのか?馬車で1日半かかるあそこまで?」


今更その事実を思い出して顔が青ざめる。


「それに俺寝ていたから村の場所わかんない…」


さらに嫌な事実を思い出して顔色が青ではなく血の気が引いた真っ白な色になっている。


「ジェイクさーーーーん!!!カムバーーック!!!!」


なんとも前途多難な道のりである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る