成田空港 その2
「え?聞きましたってのは?」
「ゲームの話ですよ、うまく攻略できたんですって」
「攻略?」
「はい、今日、晃さんから電話が有って、ナベさんから恋愛ゲームで変な相談受けたが、自分じゃ分からないから何かアドバイス欲しいと言ってたんです。私は私なりに考えてみたのですが、実はそんなに自信がなくて。でも、さっき、晃さんが、上手くいったと聞きました。良かったですね」
「あ、はい、そうですね。助かりました」
微妙な声でお礼を言い、俺はどう伝えれば良いのか困った。
正直、恋愛ゲームのことでもいいやって気がしている。
でも、この雨宮の微笑みはもっと違うことを指しているように見える。
「ふふ、冗談ですよ。私知っているのですよ。ナベさんは誰か好きな人がいて、その人の気を惹こうとしているのですよね?」
「あ、いや、えっと」
「大丈夫ですよ。この人」
そう斉藤さんを指さして雨宮は続けた。
「嘘が下手なので、すぐに分るんです。だって、どこの世界に四歳も年下の女子大生に恋愛ゲームの相談をする男の人がいるもんですか」
そうずばり言われ、俺はその通りと、斉藤さんに視線を向けた。
周りがまっ暗だが、わずかにある高速道路のライトから、斉藤さんは恥ずかしがるように俺の視線から顔を避けるように外を向いているのが見えた。
くすくす。
軽く笑いながら雨宮は右手で斉藤さんの左腕をさすると、俺の方を向いて話を続けた。
「でも、きっと、その人はナベさんに取って大事な人だから、晃さんは嘘をついてでも、私からアドバイスを仕入れたいのかなって思ったので、正直に分る範囲で言ってみました」
この雨宮、斉藤さんの彼女だったので、俺とは直接的な接点はほとんど無かったが、なんか良い子かも。
俺の左側の空気もほんわか暖かくなってきた気がする。
リンエイがいるのかな。
「それで、ある程度は上手くいったのですよね?でないと、急に台湾に行くことにならないですものね」
雨宮の質問は実は斉藤さんに向いていた。
「さっき、いきなり電話が掛ってきたかと思ったら、急に台湾に行こうなんて言うんですよ。私、明日の午後、川越で友達と買い物の予定があったのに、キャンセルになってしまったわ」
光の照らし具合のせいかもだが、雨宮は少し頬をふっくらしながら、斉藤さんの腕をつねったようだ。
「痛い」。
小さくクレームを出す斉藤さんに俺までクスッと笑った。
「まぁ、良いわ。台湾に行くのなら、そこの友達、イーファンがいい人を見つけたって言ってたので、ついでに会えないか連絡してみますね」
そう雨宮は独り言のように言って、スマホを出したいじり始めた。
最初の方は俺に聞いて、途中から斉藤さんへ、最後は独り言で締める、なんか面白い子だ。
なんか、斉藤さんがまだ黙ったまま車を運転しているので、俺も黙っていた。
車の中には雨宮が小さい声で話している音しかなかった。
ふと、俺はさっきの暖かさが気になり、左を向く。俺はフィットの後部座席の右、つまり運転手の後ろに座っている。
その暖かさは俺の左の方、つまり助手席の後ろから来ていた。
そこには俺のショルダーバッグしかない。
あ、そういえば、そのバッグに、赤い小包を入れたんだった。
ごそごそと音を立てながら、俺はその赤い小包を出した。
とくに気になるような温度は感じられなかった。
「違ったのか」そう独り言を言い、俺はその小包を戻した。
俺が席に座り直すと、同じタイミングで雨宮が声を出した。
「晃さん、なんかイーファンが明日朝二時の飛行機でこっちに向うんですって。せっかく台湾で会えると思ったのに残念。そうすると、私、明日何をすればいいの?二人とも仕事でしょう?」
「大丈夫だよ。僕は明日、一日空けているよ。ナベは一人で別のところに行くけどね」
「あれ、それは嬉しいけど、仕事は大丈夫なの?晃さん」
「僕は前回来た時にすでにマーケット調査を終えているからね。僕の出番は明後日の商談だよ。それに、さすがに彼女一人を外国で放置するのは怖いよ」
苦笑しながら斉藤さんは左手を伸ばし、雨宮の右腕をぽんぽんと叩いた。
「それは良かったけど、でも、ナベさんもその子?に会いに来たんでしょう。仕事している場合じゃなくて?」
雨宮は俺の方をちらっと見て、斉藤さんに視線を戻した。
「うん、ナベは出張で台湾に行くことになっているからね、ある程度仕事してもらわなきゃいけないよ。まぁ、それは多少は僕も手伝うけどねあ、そうそう。ナベ、後でどこにその僧侶を探しに行かなきゃいけないのかを教えてね」
「あ、はい。了解です」
「あれ、女の人じゃないのですか?晃さん、僧侶って何?」
「あ、うん、それはね」
雨宮が斉藤さんの方に近寄ったのを見て、斉藤さんは簡単ながら、俺の状況を説明した。
「……。だからね、ナベはその女性を助けるためには、台北のどこかにいる僧侶を探し当てないといけないんだ」
「何それー、すごく素敵じゃないですか?」
斉藤さんが話し終えると同時に、両手を胸の前に合わせて、雨宮は俺の方を向いて言った。
気のせいか、瞳の下らへんが光を反射しているように見える。
その後、じろりと斉藤さんを向いて言った。
「私もそういうロマンティックな出会いがしたかったわ」
「うっ、ご、ごめん」
思わずなのか分からないが、速攻で左手を拝むジェスチャーにして、斉藤さんは謝った。
そういえば、斉藤さんと雨宮の出会いは、斉藤さんが勝手に盗撮したことからだったんだ。
「ふふふ」
雨宮はそう笑うと、席に座りなおした。
「それじゃ、今日乗れなかったというのはまずいですね。間に合うようにお願いしますね、晃さん」
「もちろんだよ。まぁ、もうちょっとだよ」
そう、斉藤さんは両手をしっかりとハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ。
時計は二十時半を指していた。
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