川越 その5
どんよりした気分で俺はニュースを見続けた。
頭の中では、あの顔がリピートし続けていた。あの、高級風俗店に行くぞ!という覚悟を決めた気持ち悪い俺の笑顔だ。
俺が乗ったバスがホテルメトロポリタンに着いたときに、その後ろにいたタクシーのフロントガラスにひびが入った。
そのことで、タクシーのドライバーが訴訟するしないと問題提議して、ニュースに話題として上がっている。
が、それよりも、俺はそのタクシーから証拠として提出されたドライブレコーダーのレコードに、俺のあの下心満載の顔が出ていることにショックを受けていた。
穴が有ったら入りたい。この顔が会社の同僚にバレた日には会社を辞める羽目になりそうだ。
まじでどうしよう。
救いなのは、このレコードは今見ているチャネルの独占放送になっている点だ。
ゼロではないのは残念だが、全国放送よりも六分の一の確率でバレにくくなったかも。
そう考えて、俺は少し気持ちが楽になり、もう少し、ニュースを見ることにした。
ニュースでは、アナウンサーが、羽田インターから西池袋インター間で、サイドミラーが割れた十二台の車のドライバーのうち、ほぼ毎日同じ時間にこのルートを通っている三人のトラックドライバーに詳細なインタビューをしていた。
「何時もと変わった点は無いですか?」
そう聞くのは、半袖で胸元がパックリ開いている若いアナウンサーだった。
その服装に四十代ぐらいのおっさんドライバー三人は、俺から見ても鼻の下を伸ばしながら、今回の件との関係が有る無しに関わらず、機関銃のごとくしゃべっていた。
くくく、これ、生放送か。
話をまとめるのが大変じゃないのか?そう思っていたら、この三人に共通のキーワードがあった。
『池袋行きの高速バス』だった。
どうやら、三人のうち、二人がサイドミラーが割れたタイミングはその高速バスの後ろを走っている時と主張した。
もう一人は、横のレーンを走っていたが、そのバスの車体の後ろに近づいたときに割れたと推測していた。
推測というのは、そのドライバーは高速を降りてから割れていることに気付いたからとのこと。
いいのか、ニュース番組にこういった確実性がないものを入れたりして。
そこは気にしないのか、女性アナウンサーは話をまとめようと、「その高速バスが気になりますね」と言った。
それに合わせて、三人のドライバーはこの高速バス会社にはクレームを入れることをその場で宣言した。
「この高速バスは、この後、池袋にあるホテルメトロポリタンに向かいます。ただ、停まる時に、後ろを走っていたタクシーのフロントガラスを割ったという疑惑がもたれております」アナウンサーはそう締めくくった。
おいおい、ということは俺が乗ったバスってことになるじゃん。
うーん、なんなんだろう。
あのバス、整備が失敗しているんじゃないのかな。
念のため何かヒントはないかと、俺は、バスの中での行動を思い出してみることにした。
羽田空港を出発してすぐに、俺はメッセアプリで佐野達との会話履歴を開き、池袋の高級風俗店に関する会話を拾おうとした。
それが見つかったのは高速に入ってすぐだったかな。
車内アナウンスで、バスが高速に入ったからシートベルトを締めるように言われたので、その後だったんだ。
店の名前が見つかったのは。
「見つけたぜ」と俺の独り言を聞いて、前の席に座っていた、六十代ぐらいのサラリーマンが振り返って俺をちら見したのを覚えているよ。
後は、ひたすらネットでその店に関する情報を収集しただけだな。
あれ、途中、何か音が聞こえた気がしたが、それかな?
ただ、走っている高速バスの中なのに、外の音がきれいに聞こえるわけがないと思っていたので、それよりもお店の方が重要だとばかりに、俺はそれらをすべて無視していた。
うーん、そう考えると、今回のサイドミラーが割れた事件に全く関わりがあるかどうかは分からない。
でも、何か引っかかるぞ。
身体が思わず熱くなる。
第六感がこれは俺に関係すると言っているっぽい気がして、俺は考え直す。
羽田空港から羽田インターは、俺が普通の行動をしているときなので、何も無かった。
高速に入ってから、何かが起きた。
その時、俺は?
俺はエッチなことを調べていた・・・・・・?
逆に考えると、俺がエッチなことを考えているときには何かが起きる?
どういうこっちゃ。
どんだけ不思議な力を持っているんだ?
あほな俺にこんな難しいことを考えるのは無理だ。
とばかりに、俺は頭を振った。
まぁ、この高速バスの周りで変なことが起きたという事実は、次回の飲み会のネタとして使わせてもらうことにした。
そう思っていると、ぶるぶるとスマホが鳴った。
斉藤さんからのメッセだった。
「今日の秋葉原行きだけど、車で行った方が良いと思っている。だから、待ち合わせを十四時半にしないか?」
斉藤さんはそう提案してきた。
電話して詳しい話を聞くと、今日のパソコンセットは、モニター二つとケース、それにVRセット、かなりの重さと容積になるらしく、電車で持って帰るのはきついとのこと。
車は斉藤さんが出すので、俺は乗っていればいいだけのようだ。
それには異議はないが、川越から秋葉原まで往復で百キロメートル以上はある。
それをパソコンを手配してくれた斉藤さん一人に負担を掛けるのは避けたい。
が、俺は免許も無いのでレンタカーを借りて行くことも出来ない。
かといって、今日逃すと、パソコンセットを入手するのが一週間遅れることになる。
いや、駄目だ。
俺は早くVR十八禁彼女プレイしたいんだ。
しょうがない。
甘えることした。
「高速費用、ガソリン代含め、諸費用は払うので、よろしくお願いします」
と伝えた後、電話を切って、俺は一度風呂に入ることにした。
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