ホテル その2
赤いベレー帽の女は、今日初めて陽明山近くの交差点で見かけた時の姿と、まったく一緒だった。
白いTシャツと青く長いスカートが凹凸のあるボディーラインを強調し、セクシーな雰囲気を醸し出していた。
顔を見ると、肩よりちょっと長い茶髪がさらさらと風に舞って踊っている中、真っ赤になっている目は俺を直視している。
そのちょっと下にある小さい唇からは何かを言葉として出しているのはわかったが、何をしゃべっているのか分からなかった。
ただ、なにやら一生懸命に説明している姿が可愛く、思わずにっこりとなる。
多分、二十歳前後なんだろうな。
同じ部署にいる新卒が何か説明するときの動作にすごく似ており、顔も幼いため、そう思った。
俺があんまりにも女を凝視をしてしまったためか、真っ白な頬に赤みが射したように見える。
まだ言っている意味が分からないが、女のしゃべる速度が速くなった気がした。
それにしても、ここはどこだ?
女の向こう側に目をやると、森が見え、それを抜けたところに都会の象徴である高いビルが何本か立っているのがみえた。
さらに奥の方に、ひときわ高い建物がある。
あの八つの宝塔と竹の節の組み合わせは台北一〇一っぽい。
この台湾で一番高いビルだ。
台湾に到着した翌日の朝一に行った覚えがある。
ということは、ここは台北市街か?
そう思い、今度は俺の右を見た。
森が見える。
左も森だった。
少し上に太陽が見える。
それじゃ、後ろは?
と振り向くと、ガラス張りの扉があり、レンガ色の建物に繋がっていた。
その後ろ側には森、いや山だなあれ、があった。
周りを見ているときに気づいたのだが、ここはバルコニーのようだ。
後ろのガラス扉を除き、周りを手すりで囲まれていた。
と、俺の頭が叩かれた。
痛みはなかったが、叩いたのは女だった。
目を向けると、ほほをぷっくりと膨らませて怒っているようだった。
鼻の穴も気持ち膨らんでいるようだった。
どうやら自分が話しているのを俺が無視して、周りを観察していたからのようだ。
俺を叩いた手を、俺の顔の前に振りかざして、その後に自分に向けて指した。
えっと。これは私を見ろ!と言っているのかな。
そう思っていると、女が頷いた。
おいおい、心の声が通じるのか?
という驚きにも女は頷いた。
なんと!
女は今度は両手をいろいろと動かしながら、空間に何かを書こうとしているが、俺には通じてない。
うーん、たぶん、手話なんだろうけど、俺はそれも分かっていないからな。
どんどん女の動きが激しくなる。
そのうち、後ろ髪が体の上下運動に合わせて跳ねるほどになった。
それでも、俺は理解できないので、気まずい顔をしながら首を振るしかなかった。
どーんと音が聞こえてくるぐらい女が肩を落とした。
まぁ、ゆっくり行こうよ。
そう心で呟くと女は下を向いていた顔を俺に向けると、キリっとした視線を飛ばした。
ひょっとして怒ってる?
そんなこと言っても、俺中国語分からないし。
なんか怒りはじめたよ、この女。
でも、それよりも、これは夢であることだけは分かった。
さっき叩かれたときに痛みがないというのと、女が浮いていたからだ。
さっきは俺が座ってまっすぐを見たときには女の胸から腰の部分が見えていたが、今は女が体をこちらに乗り出しているためか、見えているのは腰から太ももの部分だった。
で、今、俺の斜め上には女の胸が来ていた。
でも、その間、俺の体には触れていはいない、それは女が宙に浮かんでいるからだ。
そうか、これは夢か。
珍しく異性が出てくる夢だな。
どうしたんだろうか。
やはり呉達がナンパしているのがうらやましいのかな。
それとも溜まっているためか?
どちらにしても、夢なら夢で幸いだったかも。
現在見えている女は正直俺の好みであった。
やはり夢は自分の夢想を形にしてくれるんだなと思いながら、今見えている女の胸の小さな膨らみに手を伸ばした。
せっかくの夢なんだから、ちょっとエッチでも、と思ったからだ。
だが、俺の手が届く前に意識が飛んだ。
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