第25話 結局はワンパターン

「じゃ、次はこっちの番だな」


 やっと俺のターンだな。さあ、反撃開始といこうか。


「っ……! え!」

「素早く判断し行動に移す。流石は五本の指にも入る冒険者。あんだけおろおろしてたのにその対応は素晴らしい。だが、一瞬遅かったな」


 脅威から素早く回避行動へと移ろうとするのは良かったが、残念。俺の方がちょっと早かった。あともう一瞬早く行動できてりゃこんな動けない状態になることもなかったかもな。


「こ、これは……。一体何を……?」

「指一本動かせなくて驚いたか? これはな、『影踏み』っていう影魔法だよ。これを使えば、俺が踏んだ影はその形へ固定される。ようは動けなくなるわけだ」


 今俺はトモエの影を踏んでいる。太陽はトモエの背中側にあるからトモエの影は今は踏み放題だ。逆だったら残念なことになるが。


「…………何故何もしないのです」

「え? もしかして、何かされるのを期待してたのか?」


 影踏みでトモエは固定され色々抵抗してるみたいだけど動けないでいる。そして、俺も動かないでいた。見つめ合い、佇む二人。ああ、そんなに見つめられると照れちゃう……!


「そんな訳ではっ……!」

「俺だってこんな状況でやりたいことはたくさんあるが、残念ながら出来ねえんだよ。何もしないではなく、何も出来ないってのが正解」


 こんな状況なら時間停止物みたいに色々やってみてえが、残念ながらそれは出来ない。影踏みのせいでな。


「影踏みは踏んだ影全てに効果を与える。今踏んでいる影は、トモエの影。そして、俺の影だ」


 影踏みは発動した時に踏んでいる影全てに効果を与える。踏まれている影はトモエの影と俺の影。俺の影なんて常時踏んでいる訳だしな、影踏みを使えば自動的に俺も固定される。残念すぎるよな、色々と。


「俺も固定されるから色々出来ねえんだよ。固定されてなきゃ、お望み通り何かしてやったのによ」

「では、このままずっとこうしているのですかぁ?」

「いやいや? ほら、あれだよ。ガンマンが早撃ち対決するのあるだろ? あれをこれからやるんだよ。三、二、一、で解除してバーン! 楽しいだろ?」


 西部劇でよくあるあれだ。十歩歩いてとか数数えてバーンとかよ早撃ち対決だ。今回は背を向けないで向かい合ったままの状態だが。向かい合ったまま三つ数えてから影踏み解除。どちらが解除後に先手を打てるか勝負。


「それじゃ行くぞ。三、二、一、……で解除な」

「……ふざけて」

「はい、解除」

「なっ」


 俺が有利な状況なのにわざわざ平等な状況に持っていくわけねえだろ。西部劇のお遊びとは違うんだぜ? とりあえず、距離を取るか。これも取るのを忘れずに。


「ぐえっ。あー、気持ち悪いな。心臓を貫かれるのは慣れねえもんだ。止まれ止まれ血止まれ。……よし、止まったな」


 影踏み解除からのトモエの隙をついて串刺しの状態から抜け出す。串刺し状態から無事開放されたし、血も止まったし、これで振り出しに戻ったな。まあ、今度はハンデを貰ったが。因みに服も元通りだ。汚れても破れてもすぐ直る魔法の服ということにしておこう。


「さてさて、振り出しに戻った訳だが、今度はちょっとばかしハンデを貰った。まあ、そう悪く思うなよ。ハンデと言ってもこれでようやく同じぐらいになるだけだ」


 今の状態じゃ圧倒的に俺不利だからな。不利と言うか完敗。トモエの身体能力に俺全くついていけてねえし。ついて行けなくても不死だから死なねえけど。


「ハンデ? ハンデとはそれのことですか?」

「そう。この黒いペラペラしたやつ。なんだと思う? 答えは十三話辺りにあるぞ」


 このペラペラした黒いやつを今回は前と違う使い方をしよう。同じことすればワンパターンだと思われるからな。まあ、基本的に不死を利用して突っ込んで無理矢理影取ってっていうのがお決まりな訳だが。


「正解は影だ。そして、この影を俺の影へ」


 俺の影へとトモエの影を入れる。トモエと俺が合体……っ! 今二人(の影)は一つに……っ!


「薙刀の影もついてきたし薙刀も準備オッケー。ではぁ、参ります」


 俺の影は俺の影からトモエの形の影へと姿を変えていた。そして、トモエから取った影についていた薙刀の影から薙刀を作成し、準備は完了。ではぁ、推して参る!


「っ! くっ、うぐっ……!」

「ははは! こりゃいい! 素晴らしい身体能力だ! 俺の何倍だよ!」


 さっき俺がやられたように一瞬で間合いを詰め、トモエへ斬りかかる。素早い踏み込みに流れるような攻撃。速く、強く、美しい攻撃にトモエは防ぐのに精一杯だ。


「ふう。どうだ? 自分と戦うのは?」

「自分と戦う……。……さっきの黒い、影のお陰ですか?」

「ああそうだ。さっき取ったお前の影のお陰だ。見ただろ? 俺の影へとお前の影が吸い込まれていくの。そして、今俺の影がお前の形をしているのを。相手の影を纏い、自分の力へとする。これが『影纏い』だ」


 影纏い。相手の影を纏い、その影の力を得る影魔法。トモエの影を纏うことで俺の身体能力はトモエと同じものになり、普段ナイフぐらいしか使わない俺に身の丈以上にある薙刀の扱いを可能にさせる。


「ほら、ほら! 自分のクセが、自分の技が、自分自身が襲いかかって来るのはどんな気分だ!?」

「ぐっ……。し、しかし、この程度……」

「影踏み」

「あっ!」

「解除」

「きゃあああ!」


 影纏いは相手の能力を得るだけで俺の能力を打ち消すものではない。この今の状態でも俺の能力は使える。不死も影魔法も。俺+影。足し算がこの影纏いだ。ただの上書きなら拮抗するだけだが、足し算ならこの様に相手を圧倒できる。跪いているトモエがいい証拠だ。


「さて、そろそろに終わりにするか」


 十分俺の力を見せつけられただろうし、そろそろ閉幕とするか。このまま一方的に遊んでてもいいが、流石はトモエ。大きなダメージを受けることなく俺の攻撃をいなしている。影纏いの効果が切れて反撃される前に終わらせよう。まあ、効果が切れても影ま、ぐもっ!


「……まさか私の力をマネするなんて思いませんでしたぁ」

「がっ、げほっ。おいおい、一体どうなってんだ」


 そろそろ終わらせようとトモエへの攻撃を仕掛けに行った瞬間、俺は吹き飛ばされ人の壁へと衝突させられていた。トモエの影を纏った俺では全く反応出来ない速さと強さ。そんな力で俺は薙刀の柄の部分で殴られ、吹き飛んだ。


「今度は私の番ですねぇ〜」


 穏やかな笑みをたたえたトモエには、歴戦の強者の余裕があった。

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影使いの不死者 ~不死+影魔法+ご都合主義=最強~ @gggg

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