第24話 「手を上げろ。撃つぞ」は反撃のチャンス

「さあ、開演だ。青コーナー挑戦者この俺シオンだあ! 対する赤コーナーチャンピオン、トモエ!」


 さあ沸け、観客共よ。楽しいショーの始まりだ。お前らが盛り上がれば盛り上がるほど俺の勝利は輝く。


「……見世物みたいであまり良い気分ではないですねぇ」

「みたいじゃねえ。これは見世物だ。俺の為のな」


 そう、これは見世物だ。周りの冒険者共に俺を認めさせるためのな。トモエ、お前は俺の踏み台になってもらうんだよ。最強とも名高いSランク冒険者を俺が圧倒する。これで俺は明日の新聞の一面を飾れるようになる。結果、俺の信者が増える。楽な仕事だ。


「さあ、始めようじゃねえか。開演のゴングが鳴り響くぜ」

「……ではぁ、参ります」


 おっ。空気が変わった。さっきまでのほんわかしてるのからピリッとした緊張感あるものへ。流石は五本の指に入るとも言われる冒険者様。いい空気だ。歴戦の


「勝負ありですね」


 強者……、おい、早えよ。早すぎて俺の話し途切れちゃっただろ。もう少し余裕あるはずって高をくくってたらこれかよ。


 俺の喉へ突きつけられた鋭利な刃。トモエは一瞬で間合いを詰め、長い薙刀の刃を俺の喉へ。それにしても、全く見えなかった。こいつ、瞬間移動でもしたのか? 結構距離あったろ。いくら得物が長いとはいえこんなに早く俺の喉へ刃が来るとは思わなかったな。お陰で途切れたし。


「流石はトモエ様だ!」

「早ええ!! トモエ様も勝敗が決まるのも!」

「イキってた癖に弱えなあいつ!」


 ワアアアアと沸く観客共。おい、誰だ。俺を馬鹿にしてる奴。俺は男に罵られる趣味はねえんだよ。え、そこのお嬢さんも言ってた? ……悪くない。


「私の勝ちで……」

「おいおい、何終わったみたいにしてんだ? まだ始まってねえだろ?」


 自分の勝ちを確信し、トモエは俺の喉へと突きつけていた薙刀を下げようとする。しかし、そうはさせねえ。俺は下げようとされていた刃を掴み、再び俺の喉へと突きつける。まだ始まってもいねえんだ。勝手にリングから降りられては困るな。


「勝手に勝ったみたいにしてるけど、まだだろ? 始まってすらいない」

「……大人しく負けを認めるのも大切ですよぉ?」

「負け? これか? この刃が俺の喉に突きつけられてることがか?」


 喉に刃を突きつければ勝ち? おいおい、漫画の読みすぎじゃねえか? そんなのが通じるのは漫画の中だけ。ここは残念ながら漫画の中じゃねえ。小説の中だ。それは通じねえ。それは、おい野次うるせぇな。「往生際悪いんだよ!」とか、「さっさと消えろよ! このクソ野郎!」とかうるせえんだよ。あっ、お嬢さんは続けて。


「……喉が気に入らないのなら、こちらでも」


 トモエは目にも止まらぬ速さで喉から胸、心臓へと刃を突きつける場所を変える。相変わらず早え。ちょっとこちらとか言うから俺の大事な場所に突きつけられるかと思ったぜ。ちょっと縮こまったわ。


「はっ。分かってねえな。こんなことしても何の意味もねえんだよ」

「そこまでして負けを認めたくないのですか? 見苦しいですよ」

「ふう。だから、こんなことに意味はねえんだよ。こんな突きつけてるだけなのも、こんな風に、貫くのも」

「……え?」


 ずぶり。ずぶりって言うと何か全然大したことねえみたいに聞こえるな。実際は大惨事だが。突きつけられていた刃は俺の体を貫通していた。していたと言うよりさせた。俺が刃を掴んでそのまま俺の胸の部分、心臓へずぶり。


 俺の心臓トモエの薙刀で串刺し状態。心臓どころか背中まで貫通状態。俺の背中から翼生えてきたぜ。赤く濡れた刃の翼がな。


「な、何をっ!」

「残念だが、これでもお前の勝ちじゃない。ようやく始まったところだ。聞こえただろ。ずぶりっていう間抜けなゴング鳴ったの。ほら、ここからが開演だ。存分に暴れろよ」


 おいおい、どうした? トモエも観客も。何静まってんだよ。さっきの盛り上がりはどうした? ほら、早く盛り上がれよ。トモエも次の攻撃仕掛けてこいよ。ミイナは容赦なく連撃食らわしてきたぞ。バラバラにしてきっちりトドメさしてから、魔法で塵にしようとしてきたぞ。その道のプロかよ、あいつ。


「あなっ、あなた、自分っでっ、何して、」

「おいおい、落ち着けよ。魔物だって一撃で死なない奴居るだろ。そいつに会うたびそんなにおろおろしてんのか? トモエ様?」


 異常に高い生命力持った魔物いるだろ。いい加減死ねよと思うぐらい攻撃しても死なねえ奴。あいつら面倒臭えのなんの。あ、俺は不死だからあいつらとは違います。そこは間違えないように。俺は面倒臭くない。分かったか? トモエ様?


「と言う訳だ。分かったか? 俺は不死だからこの程度全く無意味だ。さっきまでやっていたことが如何に恥ずかしいことかは追求しないようにしよう。トモエ様に恥かかせるわけには行かねえからな。不死の奴に得物突きつけるだけで勝利宣言なんてトモエ様はやっちゃいねえ」


 そんな思い出しただけで恥ずかしい間抜けことをトモエ様がするはずねえ。だろ? 


「不死……。祝福……?」

「祝福ではねえけど、似たようなもんだ。まあ、理解してくれたなら良かった。……じゃ、次はこっちの番だな」


 今まで何もやられてねえけどやられてるみたいなもんだからな、そろそろ俺も反撃するとしようか。やっと、俺のターン!

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