第23話 運も実力のうち

「俺の金が……」

「シオンさん立ってください! 崩れ落ちてないで立ってください! 


 そんなこと言ったって。俺の金が……。俺の金が無惨に散らばっているんだぞ。リザードマンよ、俺の金になるためにもう一度立ち上がれよ。それなら、俺も立ち上がるから。


「もしかして、このリザードマンはあなたのペットか何かでしたかぁ?」

「違う……。ソイツオレカル。オレカネモラウ」

「ちゃんと話して下さい! ほら、まず立って!」


 ミイナ、ムリヤリヨクナイ。オレタテナイ。


「……クエストを受けていたということですかぁ? でしたら、まだ大丈夫ですよぉ。規定部位切り取ってませんので、どうぞ切り取って持って行ってください〜」

「マジか!? よし、ミイナやるぞ!」

「立ち直り早っ!」


 リザードマンの規定部位は耳。切り取り切り取り。これから切り取り作業を行う。その間クエストの補足説明でも読んでてくれ。因みに俺は情緒不安定ではありません。オーバーリアクションと言うやつです。


 クエスト補足説明その一。クエストを受け、そのクエストを達成するには規定部位を持ち帰るか、死体まるごと持ち帰る必要がある。よくあるやつだ。


 クエスト補足説明その二。クエストを受けていなくても魔物を狩り、規定部位を持ち帰れば対象のクエストがクリア扱いになる。先にクエスト受けなくても狩ってからその成果に合うクエスト見つけて申請すれば報酬は貰える。クエストがなくても部位換金は出来る。


 クエスト報酬説明その三。他の者が先にクエストをクリアしてもその権利を譲渡してもらうことが可能。これは雑魚の貴族の坊っちゃん達が見えを張るために勝手に作った制度だ。だから、実力ねえくせに高ランクの奴もいる。しょうもねえ制度だが、今回は助かったな。


 以上で補足説明は終わりだ。補足もメインもよくあるやつだから、わざわざ読む必要皆無だが、時間稼ぎにはぴったりだったな。耳の切り取りも終わり、ギルドに帰って来れた。時間の経過は早いもんだ。では、本編再開だ。


「はい。確認致しました。クエストクリアおめでとうございます。こちら報酬です。それとランクアップおめでとうございます。お二人はEランクからBランクへとランクアップです」

「やったじゃないですか! シオンさん念願のBランクですよ! ランク、シオンさん? なんでそんなにしょぼんとしているんですか?」


 ……遅いんだよ。もう前話で土下座しちゃっただろうが。あの土下座は何だったんだ。遅すぎ、いや、お前らが来るの早過ぎだな。ほら、今来ててくればあんな言い訳聞かなくて良かった訳だ。見苦しい言い訳聞くの嫌だろ? それなのにあんな早く来やがって。そんなにイライラしたいのか?


「ランクアップおめでとうございますぅ」

「まあ、おこぼれを頂戴だけだけどな」

「いいじゃないですか〜。運も実力のうちですよぉ?」

「運ねえ。良いんだか、悪いんだか」


 おこぼれ頂戴で運良し? 自分で討伐出来なくて運悪し? まあ、どっちでといいか。どっちでも結果は同じだ。俺達はランクアップした。ランクも上がって、金も中々手に入れた。終わりよければ全て良し。過程より結果。


「でもぉ、気をつけて下さいねぇ。Bランクからは今まで以上に強い魔物が多いですから〜」

「あん?」


 なんだ? ちょっと舐められてる? いやいや。きっと先輩として親切心からくる警告だろう。ヒト、ウタガウヨクナイ。そうそう。相手からの善意は面倒でも笑って受け取るもんだ。ははは、警告サンクス。でも、大丈夫。俺は強い。


「こちらの方は中々お強いみたいですが、あなたは、少し危ないかな〜なんて思いまして〜」


 前言撤回だ。ヒト、マズウタガエ。よく知らない人間は信用すんな。いいな。みんなも心掛けろよ。人間=敵って認識でいいぞ。心は魔物になるんだ。体もなれるならなった方がいい。人体実験に参加してみるのもオススメだ。


「おいおい、随分言ってくれるな。ミイナは良くて俺が駄目? はっ! 見る目がねえな。トモエ様?」

「あらぁ。私をご存知でしたかぁ」

「そりゃな。こんだけ周りが騒いでたらな」


 ここに来てからもううるせえことなんの。「おい、トモエ様だ」だの、「あの男は誰だ? トモエ様と美少女と一緒にいるクソ野郎は? 殺してやりてえ」だの。まったくうるせぇったらありゃしない。出来るもんならお願いしたいね。殺してみてほしいもんだ。


 ってわけで、周りが騒ぎまくってるから嫌でも耳に入る。この女の名はトモエ。Sランク冒険者で全冒険者の中でも五本の指に入る実力者だとか。因みに彼氏は居ないらしい。これが一番重要だな。メモしとけよ。テストに出るぞ。


「随分とお強いようで」

「そんなぁ。私なんてまだまだですよぉ〜」

「ああ。だろうな」

「え?」


 おいおい、何きょとんとしてんだよ。もしかして、「そんなことないですよ! トモエ様すごくお強いです!」なんて言ってもらえると思ってたのか? 


「そうだ。良いことを思いついた。なあ、トモエ様。俺と勝負をしよう」

「勝負、ですかぁ?」

「ああ。俺とあんたで真剣勝負。殺し合いだ」


 俺とトモエで真剣勝負。単純な殺し合いだ。これで勝負しよう。俺を弱えなんて言ったこと後悔させてやる。ってのはついでだが。


 これはチャンスだ。俺の力、俺を認めさせる絶好の機会だ。五本の指の実力者が俺に負けたってことは他の冒険者に多大な影響力があるはず。冒険者を俺に従わせる絶好の機会だ。利用しない手はない。俺のこと弱えなんて言ってもくれたしな。


「どうだ? 受けるか? そりゃ受けるよな。だって、雑魚なんだろ? 俺。そんな雑魚からの挑戦に、全冒険者の中で五本の指に入る最強と名高いトモエ様ともあろうお方が受けねえはずはない。……だろ?」

「……いいですよぉ。お受け致しますぅ」

「はは! いいね! さあ、外へ行こう。ここでおっ始めてもいいが、俺にも常識はある。さあさ、外でみんなに見られる中公開プレイといこうじゃねえか」


 張った張った! 世紀の対決だ! 俺とトモエ。どちらに張るかはあんたの自由だが、負けて文句は言うなよ。さあ、開演だ。

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