第22話 嘘つきは出会いのはじまり

「よし! 今日こそBランクになるぞ!」

「……それずっと言ってますけど無理ですよ。諦めてのんびり行きましょうよ」

「馬鹿! そんなこと言うな! 諦めたらそこで試合終了だぞ! 試合終了で俺は嘘つきの烙印を押されることになる!」


 早くBランクにならねえと俺は、あ? なんだよ! もう来たのかよ! 早えんだよ! おい、今でも遅くはねえ。今すぐにこのページを閉じて何も読まなかったことにするんだ。この物語はまだ二十一話しかない。二十二話なんて無かった。いいな?


「はあ。シオンさん、何一人でブツブツ言ってるんですか。そっちに誰かがいるんですか」


 ミイナ呆れてねえでお前も何とか言え。誰かさんが前話の最後に要らねえこと言っちまって言い訳にしないといけねえんだよ。チッ。何がBランクだ。滅べ。要らねえこと言った前話の俺滅べ。滅べねえけど。


「BランクよりDランクになれるように頑張りましょうよ。コツコツやることは大事ですよ?」


 そうだな。コツコツやることは大事だな。でも、今はそんなこと言ってられねえんだよ。コツコツなんて……、よし。コツコツ言い訳していくか。


 ここから言い訳が始まる。どうでもいいと思えば次の大きな空白部分まで読み飛ばしてくれ。そんな人の為に結論を言うとBランクなれませんでした。



 前話の最後、次会うときはBランクの俺と会おうなんて言ったがあれは嘘だ。いや、嘘じゃねえな。あれはそっちの聞き間違いだ。びーじゃない。俺はどぅぅぶぅうぃーと言ったんだ。つまり、Dランクになった俺と会おうと言ったんだ。そして、今はEランク。今日中にはきっとランクアップするからこれも嘘ではない。


 ……いやね、俺だって頑張った訳よ。ランク上げるためにも第二十話から冒険者の町に来てね、魔物も多くクエストが多くあるこの町でランク上げてやろうと思ってた訳よ。でもね、魔物もクエストも多いってことは冒険者も多くてね。競争が激しいわけよ。


 ゴブリン大発生!なんて聞いて現場行ったら、冒険者が大発生してたりね。ドラゴンが居る!なんて聞いて行ったら、もう倒されてたりね。色々頑張ったけど、いかんせん競争相手が多い訳よ。


 それで、まあ、その、ね? ね? 分かるだろ? あれだよ。あの、その、つまり、……嘘ついてすいませんでしたー! ご都合主義なんてありませんでした! 現実は厳しかったです!


「シオンさん!? なんで突然土下座してるんですか!? 恥ずかしいから止めて下さい!」


 うるせえ! 冒険者ギルドのど真ん中だろうが、今土下座しなくていつやるんだ! 読者の皆様嘘ついてすいませんでしたー! 俺の土下座で許して下さい! 今まだBどころかEなったばかりとかですいまっせんでしたー!


「おい、なんか土下座してる奴いるぜ」

「マジだ。しかもすげえ綺麗な土下座」

「だな。あれは慣れてやがるな」

「シオンさん! 早く立ってください! 恥ずかしいし、すごく馬鹿にされてますよ!」


 恥をかこうが、馬鹿にされようが、男にはやらなきゃいけねえ時があるんだ! なんなら、ミイナお前もやれ。


「ほ、ほら! 早く立ってクエストに行きましょうよ! 頑張ればすぐにBランクになれますよ! ね! 頑張れば嘘つき?なんて言われませんよ!」


 ……そうだな。頑張って嘘を真にしようか。それにこれ以上ミイナに恥をかかせる訳にはいかねえしな。え? 恥は俺だけ?


「……よし! ミイナ何かいいクエストはあるか!?」

「はい! 『リザードマン大量発生!』っていうクエストがありました! これなら場所も近いし、クエストが貼られたのもついさっきなんでいいと思います! あと、報酬もいいです」

「何!? よし! じゃあ、行くぞ! 金稼ぎへ!」


 いざ行かん! 一攫千金、名誉挽回へ!





「……いや、うん。知ってた。こうなることは大体知ってた」


 言い訳を終え、クエストを受け、現場に向かった俺達。そして、到着した俺達が見た光景はまあ、予想通りだった。


 桜色の長い髪を細く一つに纏め、美しく綺麗に整った美人のお姉さんと形容するべき顔立ちに肢体。そして、それ以上に目を引く身の丈以上ある長い得物。


「あらぁ? 私に何かご用ですかぁ?」


 薙刀を持った女性が辺りに散らばるリザードマンの屍の中心に立っていた。


 ……俺の金が。ご都合主義はどこ行った。

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