第7話 コミュニケーションの大事さ

「はああああぁぁ!!」


 ミイナと名乗った少女が剣で俺を斬り刻む。すげえな。剣速早えし、攻撃後の隙がねえ。ちゃんと鍛錬してんだろうな。何もすることなく斬られてる俺と違って。


「トドメ!」


 手や足などを斬り刻んだ後、きっちり心臓を貫いてトドメまでを刺してくる。剣の太刀筋に全く迷いがないな。殺すことしか考えてない感じだ。よっぽど憎いんだろうな。その勇者殺しとやらが。こんなバラバラ殺人起こしちゃうんだもの。おっふ。心臓から剣が抜かれた。血が飛び散っちゃたな。ちょっと雑巾持ってきてー。


「……やった。私師匠の仇を……」

「ああ、あの? 感慨にふけってるとこ申し訳ないが、ちょっとは落ち着いたか?」

「え? ……ええ!? な、なんで生きてるんですか!? なんで元に戻ってるんですか!?」

「なんでって、俺不死だし、それより話し聞い……」

「そ、それなら、チリも残らないように滅するまでです!」


 おお、俺の話を全く聞く気ないな。ここまで無視されると清々しい気持ちになってくる。ミイナは剣では意味がないと気づいたのか、剣ではなく魔法による攻撃に切り替える。魔法も意味がねえんだけどな。って、ちょっと待て。それはダメだろ。その魔力量で魔法ぶっ放したらこの町自体危ないから。


「おい、そんな魔法使えば町が……」

「消えてください!」


 聞いちゃいねえ。ミイナは俺の話など聞かずに魔法をぶっ放す。路地の中、ミイナが放った極太レーザーのような魔法が俺に迫る。避けちゃおうかな? 避けちゃって後ろの町壊滅させてやろうかな? ……あー、はいはい。受けますよ。受ければいいんでしょ。ぐへぇ。


「……今度こそ」

「こういう土煙モクモクっていう場合は大抵やられてない。これ常識な」

「なっ……」


 土煙モクモクからの「やったか!?」は生存フラグな。もちろん、俺もピンピンしてますとも。さすがは不死。ただ単に突っ立てるだけであんな魔法を受けきれるんだから。


 よし、良い機会だ。あっ、ちょっと止めてて。回想シーン扱いでもいいや。ここで俺の不死ご都合主義の説明を少ししておこう。俺の不死には大きく分けて二種類ある。一つは最初のバラバラ事件からの不死。再生系の不死だ。肉体が損傷しても超高速で再生する不死で、大体この不死が基本。再生する時に「グチッ、ミチャェチッ」ってよくグロい音がする不死だ。俺はしないが。


 もう一つは今のような不死。ある時間から時が止まり不変のものとしての不死。不変で変わることがないから死ぬこともないし傷一つつくこともない。さっきはこの不変の不死で魔法を受け止め、魔法が消滅するのを待ってただけだ。魔法なんて基本すぐ消滅するしな。よくある炎魔法とかも対象を燃やしたら自然消火されてるだろ? 


 二種類の不死がある訳だが、俺が自由にどちらかを選んで使うことは出来ない。勝手に発動する。そして、大概前者の不死が発動する。まあ、後者の不死なら面白くないしな。二話で首ちょんぱされるはずなのに、ギロチンの刃が通らないなんてことになったらその後どうするんだ。町長は元気でハッピーエンドか? 開幕五分でエンディングか? そういう訳だから、俺の不死は場面によっていいほうが選ばれる。これぞ、ザ・ご都合主義だ。これにて俺の不死講義終わり。では、再スタートだ。


「……、くっ、もっと魔力を込めたら……」

「あー、待て待て。本当に待て。俺に今度は避けるからな。俺が避けたら俺の後ろの町どうなるかぐらい分かるよな?」


 俺が避けてればお前は勇者殺し(勘違い)を殺そうとして大量殺人を行ったただの殺人犯になってたんだからな。感謝して、……これを材料に脅せばこの娘に言うこと聞かせられるんじゃ。いやいや、今の俺は紳士キャラだから。紳士たる者、良い人じゃねえと。そうだ。この娘は憎い相手(勘違い)を目の前にして冷静さを失ってるだけだ。紳士ならば落ち着かせてやるものだろう。


「あっ……。……ま、魔法が使えずともあなたを」

「分かった分かった。勇者殺しを殺したいのはよーく分かった。だが、俺は勇者殺しじゃない。まずはそこを理解するところから始めよう」


 やっぱりコミュニケーションって大事。ちゃんとコミュニケーション取らないと一方的に殺されたりするんだから、やっぱり大事。


「ほら、よく見てくれ。無いだろ? 祝福の象徴の星のあざが」


 俺はミイナに手の甲を見せる。両手の手の甲がよく見えるように「手術を始める状態」で。


「あっ。……確かにありません」

「だろ? これで俺が勇者殺しじゃないって理解してくれたか?」


 祝福を得た者は、どちらかの手の甲に星型のあざが出来る。そのあざが祝福の象徴であり、勇者である証であるわけだが、この祝福、なんと奪い取ることが可能である。祝福の所有者を殺せば殺した本人の物となるといういかした質の持ち主である。従って、俺が勇者殺しなら手の甲にあざがあるわけだが、俺の手の甲にはあざどころか傷一つない綺麗な手。キスしたくなっちゃうぐらい綺麗。


「理解したな? じゃあ、その剣とりあえずしまってくれるか? 人間らしく話し合って相互理解を深めていこうじゃねえか」


 落ち着かせることには成功したか? なんかまだ警戒されてるけどな。でも、それが正解だ。バラバラにされてもすぐ復活する奴を警戒しないほうがおかしい。


 ……しょうがない、あいつに頼るみたいでくそもどかしいが、今ミイナから少しでも信頼を得るにはこの手しかない。


「……あー、まだ警戒しているようだから軽く自己紹介しとこうか。俺はシオン=スクート。不死の力の持ち主で、クソ野ろ……、いや、教皇様の知り合いだ」


 知り合いって言ってればなんか仲良さそうに聞こえる不思議。

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