第6話 贈り物は気持ちより物の質
チンピラ二人に誘われ暗い路地へと入っていってしまった少女。そして、反応する俺のセンサー。少女の身に危険が迫っている! 助けなくてば!と意気揚々と路地へと入っていくと、そこには予想と大幅に違った光景が広がっていた。
「いい人だと思っていたのに、危ない所でした」
予想した光景。チンピラに少女が襲われている光景。現実の光景。少女に襲いかかったが、返り討ちに会いチンピラがのびている光景。おい、少女よ。まさかお前が俺の筋書きをぶち壊すとはな。俺は一体どうしたらいいんだ。
「あ。あっ、あなたは何ですか!? さっき待たせたとかなんとか聞こえましたけど、もしかしてあなたが言ったんですか!? あなたこの人たちの仲間ですか!?」
やばい。気づかれたしひどい勘違いをされている。ここは何とか上手く収めなければ。そうじゃないと、何もしてないのに十年ぐらい牢屋で過ごすことになる。
「待て、少女よ。防犯ブザーは鳴らすなよ。ねえだろうけど。俺はあれだ。通りすがりの……し、紳士だ」
なんだよ通りすがりの紳士って。言わなくても見ればその振る舞いや仕草からわかるって? ハッハッ。お嬢さん、およしなさいな。そんな怪しいものを見る目はおよしなさいな。
「……紳士が一体なんのようですか?」
やばい。めちゃくちゃ警戒されてる。おい、このチンピラ共には警戒しなくて、紳士に警戒するってどういうことだ。俺は別に変態紳士じゃねえぞ。
「いや、その、そこにいる男二人とこんな路地に入っていくのを見てしまって、危ないことになるんじゃないかと思ってだな……」
嘘はついてないぞ。危ないことになって俺が助ける展開になるはずだったというのは黙っておくが。って言うか、紳士の話し方ってどんなのだ? これでいいのか?
「……危ないことになって自分も加わろうと思ってきたんですか?」
「ち、違う! 君を助けようと思ってきたんだ!」
君を助けてその後あわよくば……、なんてことはない! って言うかなんでこんなに疑われるんだ!? 俺のちょっといい人みたいな雰囲気出してるのがキモいってか!? 紳士って言ったから無理して低い声だしてるのもダメってか! 似合わねえんだよ!ってことか? それとも、少しキメ顔で「待たせ……」まで言ってしまったことか!? その台詞言いたきゃもっと主人公らしくなれってか!?
「……そうですか。それはありがとうございます。でも、大丈夫ですので」
少女は全く心のこもってないお礼を言い、立ち去ろうとする。まずい。このまま立ち去られては何のためにここに来たのか分からん。どうにかして引き止めるなり、お近づきにならねえと。
「で、では、私が送っていこう。この辺りは危ないからね」
「あ、結構です。私こう見えても強いんで」
シット! なんで俺は紳士なんて言った! 俺のキャラ今ブレブレじゃねえか! おい! 今からでも遅くない。一話からやり直して俺を完璧紳士路線で行こう! 「さすがです! シエル様」って言われる完璧紳士で行こう! 「やれやれ、そんなことないさ」って完璧なやれやれ使いになってみせるから!
「じゃあ、紳士さんも気をつけて」
「あ、えー、あ。こ、こいつらはどうする? もしかして死んでるんじゃ……」
「死んでません。気を失っているだけです。その内起きるでしょう」
「あ、そう。気を失っているだけね。うん。……い、いやー。それにしても大の男二人を瞬殺とは本当に強いねえ」
「殺してません。生きてます」
「あ、うん。そうだったね」
駄目だ。何言ってもこの娘聞く耳を持たない。もう今すぐにでもここを離れて俺から離れたいって感じだ。どうにか、あ? なんでこんな頑張るのかって? 女なんて星の数程いるんだから次いけよって? 馬鹿が! この世界には星の数程の女が居ようとも、登場できるのは一握りだけなんだよ! 舞台に上がれる役者は限られてるんだよ! あと一体いくつヒロインの枠があると思ってるんだ。
今でさえ俺のキャラブレブレなんだぞ。主人公のキャラがブレブレなのに、ヒロインが大量に出てくる訳ねえだろ! ヒロインが大量に出てきて全員キャラブレまくりで訳分からんくなるのを防ぐために枠少ねえんだよ! 本当に使えねえだろ!?
「じゃあ、」
「待て待て! ああ、あれだ。あの、……連絡先教えて?」
もうこうなりゃ直球だ。ど真ん中ストレート。球速130キロだ。絶好球だが、見逃してくれ。場外ホームランは打たないでくれ。コールドゲームになる。さあ、メアドでもライーんでもいい。
「は? 連絡先って宿を教えろってことですか?」
おおう? いきなり宿だと? この娘やっぱり積極的じゃねえか。予想外過ぎてちょっと俺の心の準備が……。
「嫌です」
「……ですよねー」
ですよねー。宿っていうのはメールもライーんも無いからですよねー。スマホ自体無いからですよねー。あっ、スマホ無いなんて言ったけど明日には開発されてるかもしれない。人類の技術の進歩はすごいもんだ。
「あなた、さっきから何なんですか? どうして、私に突っかかってくるんですか?」
「いや、それはえーと、君に、興味があってだな……」
「興味? はっ! あなた私を殺しに来たんですね!?」
「何故に!?」
「
「あ? ギフト?」
ギフト? ギフトってあれか日本語で言えば贈り物か? リンゴカードか? この世界で言えば、あれか?
「勇者殺し……。ここで会ったが百年目! 私の師匠の仇を討たせてもらいます!」
「いや、あの、百年前どこかでお会いしましたか?」
「勇者ミイナ=ロジャーズ参ります!」
「え、勇者?」
状況が全く分けわかんねえが、これだけは言わせてもらおう。
おい、少女。お前勇者なら先に言え。
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