第8話 知り合い=友達ではない

「え、シオン? 教皇様の知り合い……?」


 教皇。この世界にある教会と呼ばれる組織の最高権力者。それと同時に世界の支配者。この世界では教会が絶対なる支配力を持ってるからそこのトップなら、必然的に世界の支配者となるわけだ。


「ああ、そうだ。ミイナ勇者なんだろ? 勇者なら教皇の知り合いに暴力はまずいんじゃねえかな〜?」


 勇者は教会の守護下にある。と言うより、勇者と認めてもらうためには教会の守護下に入らないといけない。祝福を貰っても、教会の守護下に入らなければ一般人扱いだ。


 守護下に入れば勇者と認定され、祝福を狙ってくる奴らから教会が守ってくれたり、金銭面での保護なども受けられる。教会に服従という条件付きだが。


「うっ……。……どうすれば許してくれますか?」


 あれ? なんか俺が脅してるみたいな感じになってるな。別に脅すつもりはなかったが、どうすれば許すねえ? こんなこと言われちゃ、あれしかないよな?


「どうすればねえ? そうだなぁ。俺バラバラにされたあげく、魔法ぶっぱされてそれ全部受け止めて誰かさんが大量殺人犯になるの防がされたわけだしなあ。いやー、中々散々なことされてるしなあ…?」

「…………」

「そうだな。お友達から始めようか?」

「…………え?」


 なんだ? え? まさか俺がよくある下衆い要求をするとでも思ってた? お友達なんかじゃなくて奴隷にするなんて思ってた? チッチッチ。甘い甘い。甘い物のように甘い。ミイナは勇者だぞ? その勇者を奴隷にしたり、下衆いことをしたりすれば即刻世界最大最強組織を敵に回すことになるんだぜ? リターンの割にリスクがでかすぎんだろ。奴隷なんて買えばいいし、ここで勇者に少しでも恩を売っとく方がうまい。


「いやー、ここ三百年ぐらいずっと一人旅で、そろそろ寂しくなってきたわけよ。そろそろ人肌が、いやいや旅のパートナーが欲しいと思って。それでお友達から始めようと。ミイナも旅してるんだろ?」


 一人旅と言っても、町には何年か留まったりしてたし、人との交流は結構あったが、やっぱり一人で新境地に向かうのって心細いしな。二人で行けば心細くもなく、楽しいはずだし、パートナーが欲しいと思ってたところだ。


「まあ、一応旅?してますけど」


 ミイナは恐らく一人で勇者殺しとやらを追って旅しているんだろう。だから、別に問題ないはず。


「嫌か? あっ、もしかしてひどいことされるのをお望みで?」

「ち、違います! ただ、その、意外でしたので……」


 意外? まさか俺がひどいことをするとでも? 馬鹿な。なんたって俺は紳士なのだぞ。紳士たる者女性にひどいことはしないもんだ。ハッハッハ。もう紳士キャラブレブレだしここらで終わりにしようではないか。


「まあ、嫌って言ってもついて行くけどな。俺もその勇者殺しに興味があるしな」


 ミイナが嫌と言おうが俺はついて行く。俺はミイナのストーカーになる! 絶対にミイナから離れない! 俺はミイナに付きまとう! 自分で言っててなんだが、今の俺すげえキモい!


 ミイナのストーカーになる理由は二つ。一つは単純にミイナが可愛いから。見た目も良いし、多分中身もいいはず。俺をバラバラにしちゃうぐらい元気あるし、俺を勇者殺しだと確認する前に殺しちゃう行動力、言葉遣いも「滅する」なんて言っちゃったりするけど基本丁寧だし、なんか元気な後輩キャラみたいで可愛い。前の世界でこんな後輩いたら速攻で転校するけど。


 二つ目の理由は勇者殺しだ。こいつが気に入らねえ。勇者殺しだと? 勇者を殺して祝福を奪うだと? ……うらやま、ふざけんな! そう、ふざけんな! 俺だってチート欲しいからやろうかななんて思ったこともあったが、それはさすがに主人公として人としてまずいだろと思ったから止めたとかじゃなくて、私利私欲のために人の命を奪うなんてふざけんな! 悪役だったら堂々とやってもいいとかうらふざけんな! もうあれだ! とりあえず、ふざけんな! 


「え! 勇者殺しに興味って、何か知ってるんですか!?」

「いや? でも、そいつが最低な奴だってことは知っている」


 そうだ! そいつは最低だ! この俺ですら踏みとどまったのにそいつは軽々と超えていきやがった! 俺だって超えたい、こ、超えるわけない一線を超えがった! そいつはもう人ではない。魔物だ! 


 そんな魔物は勇者を狙ってるんだからミイナのとこにもやって来るはず。やって来たら俺が退治する。退治すれば、俺にも念願のチートが! いや、別にチートが欲しくてやるわけじゃねえから。ミイナを守ってやるだけだから。別に勇者なら問題になるけど、こいつなら問題にならずチートゲット出来るなんて考えてねえから。


「そうですか……。で、でも、これから二人で探せば見つかりますよね! 頑張りましょうね!」

「おう! ……おう? いいのか? 俺と一緒で?」

「? シオンさんが一緒に旅しようと言ってくれたんじゃないですか」

「いや、まあ、そうだけど」


 女の子がこんな得体の知れない男に誘われて、簡単に承諾していいのだろうか。この娘の危機管理能力は中々やばそうだなんて思ったけど、そもそも俺はこんなに自分を下卑する必要あるのだろうか。あるか。ストーカーになるとか言ってたし十分必要あるな。俺はやばいやつだ。そんなやばいやつと旅するのを簡単に承諾するのは不味いだろう。えっ、もしかしてミイナはちょろイン?


「シオンさんってあのシオンさんなんですよね?」

「あの? あのシオン?」

「教皇様とお友達の」

「はあ!?」


 はあ!? 教皇、あのクソ野郎とお友達!? あっ! 自己紹介の時あいつの知り合いとか言ったからか! それで知り合いを友達だと勘違いしたのか。これは駄目だ。ミイナが指すシオンであることは間違いないが、あいつと友達であるということは間違いであると訂正しなければ。


「ミイナ。確かに俺はあいつと知り合いだが、お友達ではない。むしろ、敵だ」

「そうなんですか? でも、教皇様がシオンさんのことをおっしゃっていた時そんな感じしなかったですけど」

「あ? あいつが俺のことを?」


 え! あ、あいつが俺のことを!? ふ、ふん! どうせ悪口言ってたんでしょ! あいつはいつも俺の悪口言うんだから! 俺だってあいつのこと、別に、な、なんとも思ってねえしっ!


「教皇様は黒髪黒目で全身黒い服を着た黒ずくめのシオンという胡散臭い奴に出会ったら、即殺すか逃げるかしないさいと」


 おい! マジで悪口じゃねえか! なんだよ俺ちょっと良いこと言われるのかと思って、そんな感じの対応してみたのに! 教会を敵に回すわけにはいかないとか言っときながら、もう既に敵に回されてんのかよ! 


「でも、教皇様はお人好しで頼めば意外となんでもやってくれるので馬車馬のように働かすのも手ですよともおっしゃっていました」

「それフォローのつもりか!?」


 全くフォローになってないどころか更なる追い打ちかけてきてるだろ! 俺への対処方法酷すぎんだろ! 殺すか逃げるか酷使するかの三択って! しかもそれをめちゃくちゃ強い勇者である人間に言うって! 本気じゃねえか!

 


「おっしゃってることは酷いですけど、すごく楽しそうでしたよ」

「それは単にあいつがSなだけだ……」


 あの人を馬鹿にしたり人を見下す根っからのクズ根性の持ち主なんだから、そりゅ楽しそうだろうよ。因みに俺はMではない。むしろSである。


「よし、もうあいつのことは置いておこう。とにかく、これからよろしく。ってことでいいんだよな?」

「はい! よろしくお願いします! 頑張りましょうね!」


 まあ、ともかくこれからはミイナと共に行動か。やっと、ヒロイン様の登場だな。一話目で俺の処刑なんてせずにすぐ出せば良かったものを。やっとヒロイン出てきたと思ったら、そんな可愛くないなんて思われたらどうするんだ。あー、あれだぞ。ミイナは可愛いぞ? 今もすんごい可愛い笑顔を向けてくれてるし。これからこんな可愛い娘と旅するんだぞ。勇者殺しを殺すっていう物騒な旅だけどな。

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