第2話 千年前から上がってたけど、誰も来なかったっていうのは秘密

「これより大罪人シオン=スクートの処刑を開始する!」


 断頭台の前で町長が高らかに宣言する。おいおい、シオン=スクートさん処刑されるってよ。可哀想に。一体何をやらかしたんだか。こんな恐ろしい断頭台に固定されちまってまあ。


「このシオン=スクートは十名もの尊き命を自身の欲を満たすために殺害した殺人鬼である! この殺人鬼を今ここで処刑する!」


 ワアアアと沸く断頭台の下にいる民衆たち。おいおい、何だその熱気は? アイドルでも来たのか? 止めてくれよ、照れるじゃねえか。オゥ! 石のプレゼントなんて洒落てるねえ。ハッハッ。瓶まで飛んできやがった。


「ちょ! 痛て! 儂に! 儂に当たっとるから!」


 そりゃ俺より前にいたら当たるわな。この石俺狙いが多いけど、町長狙いも少なからずありそうなんていうのは黙っておくか。みんな大好き町長さんだもんな。


「せ、静粛に! 石を投げるな! 儂に当たる! ……えー、こほん。では、改めて処刑を開始する! 大罪人シオン=スクートよ! 最後に言い残すことはないな!」


 え、そこは「最期に言い残すことはないか?」じゃねえの。何勝手に言い残すことはないって決めつけてんだよ。まあ、無えけども。


「大罪人シオン=スクートに裁きの鉄槌を! やれ!」


 町長の指示に従い俺の上で待機していた刃が落とされる。これ裁きの鉄槌なんて言ってたけど、全然鉄槌じゃねえよな。鉄槌って、あ。


「見よ! 大罪人シオン=スクートは死んだ! 町に平和が戻ったのだ!」


 俺の首を掲げ宣言する町長に沸く民衆。俺犯人じゃねえし別に平和が戻った訳じゃねえが、まあいいか。このまま死んだふりして捨てられるのを待つとしよう。捨てられたら復活してどこか違う町に移動すればいいや。さあ、さっさと俺を捨てろ。


「この大罪人の死体はこの後、一週間晒し、その後火をつけ消し炭となる! それ以外に何かいい案があれば聞こうではないか!」


 町長の提案に民衆は「家畜の餌にしてやれ!」や「晒すよりサッカーボールにしようぜ!」などという様々な案を出してきた。おいおい、冗談じゃねえぜ。そっとしておいてやれよ。


「……は?」


 あ? なんだよ、町長。人の迫真の死に顔演技そんなに見んなよ。って言うか、この絵面はやべえな。首だけ掲げられている状態だしな。ちょっとマイルドにしねえと十八禁になるから、よっと。これで大丈夫だろ。今の俺はヒーローの新しい顔よ状態だな。


「うわあ! い、生きてるぅ!!」


 あ、おい、落とすなよ。パワーアップ出来ねえだろうが。それにしても、声出てたか。全く気づかなかったな。おっと、ここで首が胴体と離れてるのに何故声が出せるんだとか言うのはナシだ。俺は不死ご都合主義だからな。


「こ、この化物めえ!」


 町長は驚いて地面に俺を落とす。そして、俺を踏み潰そうとしてくる。おい、やめろ。あんこが飛び出ちゃうだろ。


「この、この! 死ね! 化け物が!!」

「おい、だから、やめろって。パンを踏むと地獄に落ちるって知らないのか? なんなら、歌ってやろうか?」


 パンも踏まれるならこんなおっさんより少女に踏まれたいだろうよ。それにしてもやめろって言ってんのに全然やめねえし。あたり一帯があんこまみれになってるだろうが。やめる気配もねえし復活してやめさせるか。


「はあ。まったく。やめろって言われたすぐやめろよ。いくら俺の頭の踏み心地がいいからって」

「な、一瞬で体が元に戻っただと!?」

「状況説明サンクス、町長。さてと、どうするかなぁ」


 今の俺はちょっと怒ってるぞ。体も元に戻ったわけだし何でもできるわけだが、どうするか。ここでなんで一瞬で体が元に戻ったのかとか野暮なことは聞かないでくれ。わかるだろ、不死ご都合主義だ。断頭台に残ってるはずの体はえーあれだ、スタッフがおいしく頂きましただ。


 とにかく、怒ってるんだ。やってもいねえのに町長が殺人犯のせいで下がっていた自身の人気を保つために、不老としてちょっと知られていた俺を犯人として処刑するなんてことしやがるし、挙句に化け物呼ばわりで踏みつけられる。逆に、これで怒らないやついないだろ。処刑された時点で死ぬから怒れねえってか。一理ある。


「お、おい! だれか! だれかこいつを殺せえ!!」


 町長が叫ぶが誰も俺を殺そうとはしない。それどころかほとんど逃げ出してる。そりゃ、あんなの見たら逃げ出すわな。って、なんか逃げ出さずにむしろこっちに向かってる奴いるな。なんだよ。サインはお断りだぜ?


「すまんな。サインはお断りなんだ。まあ、どうしてもっていうなら握手ぐらいな……あ?」


 近づいてきたやつにしょうがなく、しょうがなくさっと手を差し伸べたら、その手がどこかへ飛んで行った。あれ? 俺の手どこ行ったと思ってる間にその近づいてきた男に押し倒される。俺は押し倒され、押し倒した男は俺の上へ。


「はは、ハヒャヒャヒャハ! 死ね死ね。死ね、死ね、死ね!!」


 マウントポジションをとった男は俺を持っていたナイフでめった刺しにする。おいおい、本物の殺人犯きちゃたよ。

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