第3話 仏の顔も三度?仏の顔も三度まで?
「死ね死ね死ね死ね死ねえ!! ヒャヒャヒャヒャヤ!」
突然現れた男にめった刺しにされる俺。なんか今日ツイてねえなぁ。首ちょんぱされるわ、踏みつぶされそうになるわ、めった刺しにされるわで。
「死ね! 死なない! 死ね! 死なない! 死ね! 死なないぃ!!」
なんだよ、花占いでもしてんのかよ。花占いの結果運命の出会いができましたってか。快楽殺人者と不死者の運命の出会いです、てか。真っ赤な血の糸で結ばれてます、てか。うるせえよ。
「こいつ、死なない! 楽しいぃ!!」
おいおい、いったい何が楽しいんだか。俺は一応痛覚あるからな。ずいぶん薄れたけどあるからな。首ちょんぱされた時も、めった刺しにされてる今もちょっと痛いからな。紙で指ちょっと切ったみたいな痛みがあるから。気づかなかったらまったく痛くない紙で指切った痛みがあるから。ほぼ無いに近いが。
「楽しいい! きもちいい! ヒャヒャヒャッ!」
おいおい、いつまでやるつもりだよ。あ、ラノベの主人公ってこういう時、「やれやれ」を使うやつ多いよな。俺「おいおい」を使ってたけどこういう時は「やれやれ」を使うべきか。いや、でも、「やれやれ」ってなんか余裕をもって使うもんじゃないのか? 「やれやれ、しょうがないな」みたいな感じで。今の俺の状況ならどっちだ? 普通に見たら、まったく余裕なんてないが、俺不死だしまあ、死なないって点では余裕だけども、なんかこう感じが違うような。いや、だが……
「ヒャヒャヒャ!」
「うるせえ」
「ヒャ、ぎゃああああ!」
そもそも「やれやれ」と「おいおい」は同じ意味なのか? おんなじだと思ってて実際は違ってたら恥ずかしいぞ。くそ、こんなとき偉大なるあのグルグル様がいたら。「ル」だ。「ー」ではない。
「ぎゃあああ! 痛あああ!!」
「だから、うるせえよ。足折れただけだろうが。足折れるより、箪笥の角に小指ぶつけるほうがいてえんだから少しぐらい我慢しろよ」
俺が「やれやれ」と「おいおい」の使い方を考えてんのに、俺の上でぎゃははぎゃははうるせえから、こいつの足をつかんで俺の頭のほうへ折ってやった。で、なんだっけ。おいおいがなんだ、おいおいがあれか、どれだ? あいあいが、アイアイ? アイアイは猿だな。で、猿がやれやれか? あ? ……もういいか。
「痛てええ! 痛てええええ!!」
「おいおい、まだ痛がってんのかよ。あ、ここは『やれやれ』を使うべきだったのか? ああ、もういいや。考えないようにしよう」
おいおいやれやれは考えないようにするか。あ、どっちも一緒に使えばいいんじゃねえ?
「おいおいやれやれ、うるせえもんだ。……なしだな。それはそうと、俺が処刑される羽目になった連続殺人事件の犯人はお前か? お前だな。よし、お前だ」
そうだ、犯人はこいつだ。これは別に決めつけたわけじゃない。じゃあ、なんでわかったかって? こいつが自白したからだ。よくサスペンスドラマとかであるだろ。断崖絶壁をバックに犯人が自白するシーン。あれがあったわけだ。でも、つまんなかったからカットされた。まあ、この犯人が大物俳優でも人気若手女優でもないしな。ドラマなら一般人Cぐらいだししょうがない。
「そういうわけだ町長。連続殺人事件の真犯人はこいつだ。俺は犯人ではない。誰かさんに処刑され、頭踏みつけられたが、俺は犯人ではないわけだ」
さて、真犯人が現れ、俺の冤罪がばれてしまったわけだが、賢明な町長様はいったいどんな判断をするのかね? 町民はみんな逃げたし、ここにいるのは町長と真犯人と町長の護衛かなんかの兵士だけだし、耳に手を当てて記憶にないふりをするか?
「……いくらだ?」
「ハッハッ! 真っ先に金で解決しようとするその姿勢エクセレント! でも、あんたそんな金持ってねえだろ?」
「安心しろ。金ならある。儂は町長だぞ? この町の金は全部儂の物だ」
「はあん。なぁるほどぉ。町民が必死に働いて収めた血税を好き勝手使っちゃうと」
「ふん。何が悪い。儂は町長だぞ?」
「……俺も金で解決しようかなぁなんてさっきまで思ってたけど、……気が変わった」
まずはひざまずき俺へ謝罪をし、その後無様な命乞いからの金で解決、なんてシナリオを描いてたがなしだな。「うわ、こいつ性格悪っ……」ってか。いやいや、拷問したり、命を奪ったりするわけじゃないんだから、むしろいい性格してるほうだろ。まるで仏のようだな。
そして、仏の顔も三度っていうだろ。一度目は俺をギロチンで処刑したこと。二度目はやめろっていうのを聞かずに俺を踏み続けたこと。三度目は今。俺にさんざんなことしときながら、なんの謝罪もなく反省の意思が見えずに横領した金で解決しようとしたこと。仏さまも顔を三度撫でられれば怒りだすんだ。仏のような俺も怒っちゃうぜ。
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