第21話 子が子なら親も親

「……少しだけと言ったつもりだったがのお」


 ふう。美味かった。何日かぶりのまともな飯、ご馳走様です。俺もミイナも大満足です。お会計はよろしく頼むな、じいさん。


「まあ、いいとするか。若いもんはこれぐらい食わんとの」


 そーそー。若いもんはこれぐらい、天に届くかのように積み上げられた皿ぐらい食わないとな。食っても食い足りない年だもんな。


「ご馳走様でした! とっても美味しかったです!」

「そりゃ良かった。さて、儂は行くとするかの」

「え、もう行くんですか?」


 じいさんは自分は何も食べず俺達が食べ終われば、そそくさと席を立とうとする。まてまて。勘定がまだだぞ、じいさん。


「まあ、待てよ。じいさん。少し話しでもしていこうじゃねえか。ほら、こんな若くて可愛い娘もいるんだ。ちょっとぐらいいいだろ?」


 それにどうせ、じいさん暇だろ。ジジババは暇って言うのはどの世界でも同じだ。いつの時代でもどこの国でもそうだったしな。


「ふむ。それもそうじゃのう。あっさり去ってしまってはお嬢さんに失礼じゃな」

「そうそう。ゆっくり大人の話をしようじゃねえか」


 大人をアダルトって言うとなんかエロくなるよな。アダルトなトークをしようぜ。こう言うと駄目なやつだな。


「冒険者ギルド創始者、ゴルバトフ=オーガストさんよ」


 じいさん、もとい冒険者以下略。アダルティな話をしよう。エロじゃなくてグロな話をな。



「……儂を知っておるのか」

「そりゃもちろん。有名人だろ?」

「ほっほ。もう現役を引退した今じゃ、若いもんは儂のことなど知らんよ」


 引退したって言ってもまだ十年程度だろうに。俺からすれば十年なんて十秒と同じ、言い過ぎたな。一年と同じくらいだ。大した時の流れじゃないが、世間は違うか。


「何の話か知らんが、儂では何も力にはなれんよ」

「そんなことはねえ。あんたなら出来るって。ちょっと口きいてくれるだけでいいんだ。教会と共に戦おうとか」

「……戦争はギルドも参加するじゃろう。しかし、さっきも言った通り、儂はもう引退しておる。何の地位にも居ないし、権力も無い。儂はただの老いぼれじゃよ。儂の言葉など若いもんには響かん」


 人間と魔王の戦争。人間側の戦力は教会の騎士団、各国の軍、そして、冒険者ギルド。これらは現在個別に動いている。それを教会のもとに一つにまとめる必要があり、冒険者ギルドは俺の仕事。俺の仕事だけど、俺より適任がいるならその人にやってもらう方がいいよな。と言うわけで頼む、じいさん。


「そんなことねえだろ。あんたが作った組織だ。あんたの子供だ。子供が親のこと聞かねえ訳ねえだろ?」

「ほっほ。子は子でも反抗期の子じゃよ」


 反抗期の子なんて可愛いもんだろ? 一発ぶん殴ってやればいい。あっ、この時力加減間違えんなよ? 弱すぎたら舐められるからな。反抗する気が起きないほど強烈に殴れ。親の威厳(物理)を示すんだ。頑張れ、全国のお父さんお母さん。


 そして、あんたならそれが出来る。なんたってギルド創始者様だ。引退したとは言え、あんたの意見を無視するなんてことは出来ねえよ。無視すれば首折れるほどのストレート飛んできそうだからな。


「儂の言葉、と言うより他人の言葉は彼らには響かんよ。冒険者は自身の好奇心によって動く。儂のような知らぬ人物からの言葉など無意味じゃ」


 頭の中に夢詰み過ぎて親の事も理解出来ない馬鹿だって言ってやるなよ。そんな自分の子供を馬鹿にしなくても。多分それよりちょっとぐらいは賢いぜ?


「冒険者達が三年後の戦争に教会と共に戦いたいと思えば、共に戦うじゃろう。しかし、現状ではどうじゃろうな」


「何も儂らは戦争に参加せんとは言っておらん。戦争が始まれば多くの者は参加するじゃろう。しかし、自分の好奇心に従い、結束の欠片もなく動くじゃろうな。個で劣る人間がそれで良いのか悪いのかは、言わなくてもいいじゃろう」


 バラバラで戦ってもまあ勝てないだろうな。だから、こうして頼んでるんだよ。ギルドに教会の支配下に入るように口きいてくださいー。


「儂の言葉より、お主の方が冒険者の心を動かせるじゃろう。お主の力を示せばいい。お主についていきたいと思わせるほどの力を。それが出来ればみなお主の言うことを聞く。最短の近道は冒険者ランクを上げることじゃ。ランクを上げれば、自然と従う者も出てくるじゃろう」

「はあ。結局それかよ」


 結局、クエストこなせと。それが面倒から頼んでんのに。金稼ぎつつ、魔物減らしつつ、名声まで稼げるのはクエストだけだよー。お買い得だよー! 誰か買ってくんねえかな。


「ほっほ。まあ、頑張ってくだされ。影の英雄殿」


 ほっほほっほ言いながらじいさんは去っていってた。なんだよ、じいさん俺のこと知ってんのかよ。じいさんのご先祖様に俺会ってのかな。


「はあ。しょうがねえか。面倒だが、クエストでもこなすとするか」

「頑張りましょうね!」

「ああ、頑張ないとな。……お前の飯代の為にも」


 しょうがねえ、とっととやりに行くか。面倒臭いことは先に片付ける方が楽だしな。さ、行くぞ。ミイナ。もう頼むなよ。ご馳走様の時間だ。はい、ご馳走様ー。メニューのデザート欄を見るの止めろ。


 現在冒険者ランクF。こなしたクエスト、薬草採取のみ。でも、多分一週間後にはBランクぐらいにはなってるから。じゃ、Bランクになった俺とまた会おう。

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