第14話 取って作ってまた取って

「不正解の罰は、ジャジャーン! 俺特製勇者殺しレプリカー!」


 あら不思議! さっきまであんなにペラペラだった影が姿形寸分違わぬ勇者殺しレプリカに! 見た目が全身真っ黒で体は大人頭脳は大人の推理物に出てくる犯人みたいなのはご愛嬌! 


「俺の影で俺を作っただと!?」

「いえーす。『影取り』で影取って、『影作り』で取った影を材料に作りました。アメージング!」


 影魔法の一種、「影取り」は触れた影を取っちゃうというオチャメな魔法。影取るだけしか出来ないし、影取られたからって死んだりしないからご安心を! 安心安全の影魔法です! その取った影は「影作り」という魔法により使われます。影を形を自由に変え、質量を持った物として作り変えます。作り終わった後にも、また作り変えられたり、他の影を加えてもっと大きな物にしたりと色々出来ちゃう魔法です!


「影は第二の魂とも言われます。そんな影を材料にしたんだから、このレプリカはオリジナルと全く変わりません! 身長体重、産毛の数まで完璧に同じです。黒くて見えないですけどね!」

「俺の人形なんか作りがやって気持ち悪いんだよ! ぶっ壊してやる」

「一番のぶっ壊すでファイナルアンサー?」

「ぶっ壊れやがれ! 絶対切断!!」


 勇者殺しは剣でレプリカへと斬りかかる。絶対切断。全てを斬り裂く奴が勇者から奪った祝福。絶対切断によりレプリカは切断。ファイナルアンサー? ざんねえ〜ん! 


「なにい!? 俺様の剣が折れただと!?」

「残念、それも不正解! 正解は折れたではなく、斬られたです!」


 勇者殺しがレプリカに剣で斬りかかり、レプリカもまた勇者殺しと同じ剣で応戦した。結果、二つの剣はぶつかり合った後どちらも折れた。正しくは斬られた。


「このレプリカは見た目だけでなく中身も全て影の持ち主同じなのです! 使える魔法も体力も、祝福までも」


 どちらも絶対切断の祝福を持ち、その祝福同士がぶつかった結果どちらも斬ったという結果で終わったわけです。これが矛と矛で良かった! どちらかが盾だと矛盾になり、解決方法も分からずここで打ち切りになるところでした!


「さてさて、剣を斬られた勇者殺しさん。これから一体どうするのでしょうか? おっと? レプリカの方にはシオンさんから剣のプレゼントです! シオンさんが瓦礫の影を使って作った剣のプレゼントです!」


 さてさて、レプリカには武器ありで、オリジナルには武器なしのこの状況。オリジナルは一体どのような行動に出るのか!? 期待が高まります!


「舐めんな、このクソがあ!! 祝福は武器に宿ってんじゃねえんだよ! 俺様に宿ってんだよ!!」


 おっと? オリジナルは手の指を揃えてピンとしていますねえ? これはもしや、手刀でしょうか! 手っ刀! ぶっは! そんな手ピンとさせてファイティングポーズ取るとか三分しか戦えない光の戦士かよ! その手クロスさせて、必殺光線とか出さねえでくれよ? とあるプロダクションに怒られちまうからな!


「何笑ってやがる! てめえから先に斬り刻んでやろうか!?」

「ははは、はー……。いやー、すまんすまん。お前にギャグセンスがあるなんて知らなかったもんだからよ。ついな。でも、不意打ちは酷いじゃねえか」

「何がだこのクソボケ!!」


 俺のエンターテイメントを超えてくるとはな。超えられたからにはエンターテイナー廃業だな。キャラブレもここまでだ。


「レプリカさんありがとうございましたー。それでは、そろそろ本番へと参りましょう! さあ、やろうじゃねえか。斬り刻んでくれるんだろ?」


 レプリカを元の影へと戻し、オリジナルへと還す。人形遊びもエンターテイメントも終わりだ。そろそろ、真面目にやり合おうか? え? 急にノリが変わってるって? 人間の気分なんてすぐ変わるもんだろ?


「言われなくても斬り刻んでやるよ!! 死ねえ、クソ雑魚があ!!」


 勇者殺しは手刀で俺に斬りかかる。右の手刀、左の手刀。おっ、足もか。だが、それは一つも俺に当たらない。


「チョロチョロ避けるだけかよ! 腰抜けがあ!!」

「あっそ。じゃ、ほれ」

「うごほお!?」


 全く避ける様子もなくボディへの一撃を受ける勇者殺し。なんだよ、全く避ける様子無かったから何か防御してんのかなと思ったけど、なんもしてねえのかよ。一撃貰った後の立て直しも全然出来てねえし、なんだこいつ。ほら、避けないならどんどん行くぞ。


「がっ! うぐあ! ぐほはぁ!!」


 避けずに全て喰らうのは立派だが、攻撃が止まっているぞ? さっきみたいに単調で簡単に予測できる攻撃してこいよ。


「ぐっ、グフッ! こ、このクソが……!」

「はいはい。くそくそ。俺はクソ。お前はクソ雑魚。これでチェックメイトだしな」


 おいおい、もう立てねえのかよ。まだ数発殴っただけだろ。人に散々雑魚やらクソ雑魚やら言ってた割に弱っちいな。攻撃も単調だし、防御もおざなりだ。まさにクソ雑魚。今ならもういつでも終わられようと思えば終わらせられる。あっけな。


「よくそんなんで勇者に勝てたな。どんな勇者だったかは知らねえが、ミイナが師匠と呼ぶんだから結構強かったんじゃねえのか?」


 こいつは今は絶対切断とかいう祝福があるが、勇者を殺す前までは、何も持ってなかっただろうによく勝てたな。お前クソ雑魚なのに。


「は、ははっ! あんなクソ雑魚勇者、ガキ共で脅せば楽勝だったぜ! 何が『私のことは好きにしろ。だが、子供達には手を出さないでくれ』だ! おめでたい頭しやがって! てめえ殺した後にガキ共も全員殺してやったっての!!」


 ……ああ、なるほど。子供人質に取って勝ったのか。普通に戦っても勝ち目なさそうだもんな。


「このっ……!」

「落ち着けミイナ。どうせもう終わる」


 自分の影で剣を作る。この剣でこいつを貫けば終わりだ。勇者殺しはもう死ぬ。俺が殺す。だから、落ち着け。こいつに奪われた子供達の未来や、師を殺されたミイナの悲しみや憤りは全て俺が背負ってやるから。


「じゃあな。お前は転生なんてすんなよ」

「クソがあああぁ!!」


 影で作った刃で勇者殺しを貫く。その刃は喉を貫き、首を地へと落とす。……はずだった。


「……今のは転移魔法……」


 影の刃で貫く直前、勇者殺しの下に魔法陣が展開されるのが見えた。そして、その直後勇者殺しは消え、刃は空を斬った。


「黒き衣に黒き瞳。そして、影。四百年前と何ら変わらんな」


 勇者殺しが消えると同時に、俺を影が包み、頭上から声が聞こえた。


「久しいな。黒の人間よ」

「……なんでお前がここにいる」


 俺を包んだ影。その影を作り出していた原因は空に居た。太陽を背に、空中に浮遊する四つの影。


「魔王フランシス」


 見上げた先、そこには居るはずのない魔王の姿があった。

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