第10話 よくあることは良くあること
「ご苦労さん。ちょっと足りないが、もういいよ。次は財布の中身確認して来てくれよ」
ありがとうございましたー。と営業挨拶を背に俺たちは店を出る。
「……やっと終わった」
長かった。まさか金足りなくて四日間もタダ働きさせられるとは。これも全てミイナのせいだ。ミイナがアホみたいに何にも考えず馬鹿みたいに頼むからこんなことになったんだ。
「これからどうしましょうか……?」
でも、俺はミイナを怒らない。何故なら、腹が減ってそんな気力ないからだ。と言うよりもう怒った。タダ働きすることになった一日目にミイナを怒った。喧嘩になった。二日目あたりまでギスギスしてたが、もうそんな気力二人共なく今に至る。
「とりあえず、もう夜だから貰ったパン食って寝よう」
この四日間一応食事は出た。パン二個とかだけど、金足らなくて償いをしてる人間に食事を出してもらえることだけで有り難い。全然あのレストランはブラックじゃないぞ。
「野宿も今日で終わりですよね……」
「ああ。明日からはもっとマシなところで眠れる。冒険者ギルドの床でな」
明日は冒険者ギルドに行く。そこで冒険者登録してクエストこなして金稼ぐ。寝床はギルドに冒険者用の仮眠室があるらしいからそこを使う。今日でこんな路地の隙間で建物を背にして寝るのは終わりだ。冒険者になって一攫千金だ。ということで、おやすみ。
「はい。これにて冒険者登録は終了です。では、良き冒険者ライフを!」
これで俺も晴れて冒険者か。よし、目指せ一攫千金。
「登録すんなり終わりましたね。もっと面倒なのかと思いました」
「ああ、省いたからな」
お前らいつ冒険者ギルド来たんだよ、いつ登録したんだよ、とかは聞くな。もう別に説明要らねえだろ。よくある武骨な感じのギルドでよくある受付の綺麗なお姉さんに対応してもらってよくある手続きして終わりだ。過程は要らねえ。結果があればいい。俺たちは冒険者登録した。以上だ。
「クエストはクエストボードにあるんでしたっけ?」
「そうだ。よくあるあれだ。紙が板に貼ってあるわけだ。別にこの世界は紙が貴重じゃないから破ってそれを受付持っていく。手続き終わればクエストゴーだ」
すべてがよくあるギルドだ。もう説明の欠片も必要の無いオリジナリティの無さ。ちょっとは凝れ。
「一番高いのは……、これですね」
Sランク板に貼ってあったクエストを確認する。ランクわけもよくあるあれだ。でも、よくないのは制限がないことだ。クエストと冒険者はランク分けされているが、そのランクによってクエスト制限があったりしない。今日登録したような出来たてホカホカ工場出荷前のような俺たちでも最高ランクのクエストを受けられる。魔法の言葉、自己責任のお陰だな。
「なになに、ドラゴン討伐。遥か彼方の山にドラゴンが生息しているそうです。討伐してください。いや、そっとしておいてやれよ」
思わずツッコんじゃうようなクエスト内容だな。何もしてねえドラゴン殺せって。しかも、居るかも分からん奴を。これがエゴか。人間様のエゴですか。
「お金いっぱいもらえますけど、この遥か彼方の山ってここからどれだけかかるんですかね?」
「馬車で二ヶ月って書いてあるな。そんな金ねえし歩くなら、半年か?」
半年かー。半年後にはドラゴン倒して、戻ってくるのにまた半年かかって、一年後には大金かー。……意味ねえ。
「今日食べるお金がほしいのに半年、一年後ですか……」
「これは却下だな……。他の近場で何なら日帰りで大金の奴は……」
今日すぐにでも金が欲しいんだよ。そんな半年とか一年後じゃない。他にいいクエストは……、無いだと!?
「どれもこれもこの町から離れたところですね……」
「……ここ商業都市だしな。人が多くいる分警備もしっかりして魔物近くにいねえもんな」
前にいた町なら町の近くに魔物がうろちょろしてたんだが、ここは全然いない。多くの商人がこの町に商売に来るわけだが、その道中襲われたとき用に護衛を付けてたり、町が商人のために道を整備し、付近を警戒したりして魔物をほとんど寄ってこさせない。よって、いいクエストもこの町付近のものがない。
「この町付近であるクエストって、この薬草採取しかないですよ……」
「……薬草採取。薬草を採取し、ギルドで換金。一キロ百円……」
薬草一キロで百円。草で一キロって採取するのにどれぐらいかかるんだ? 意外と刈りとるだけだし稼げるかも?
「よし、これにしよう。今正午だし、暗くなるまで六時間ぐらいやればかなり集められるかもな」
「そうですね。パパッとやって百キロぐらい持ち帰ってきましょう!」
「よっしゃ! 刈りの時間だ!」
こうして刈りに出た俺達。結果は前話の冒頭の通りだ。一日目、一キロ。二日目、三キロ。そして、前話に至る。はい、回想終わり。
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