第15話 火を消せ6/6
会議のあった日、結局はその日の午後からの一週間、プロジェクトは完全停止することとなった。地獄の餓鬼やゾンビのようになっていた
美しい魔法陣は、美しい開発プロセスから生まれるものだ。プロセスを無視した魔法開発では、その時点で美しい魔法陣を作ることを放棄したも同然だ。そんなことを見過ごすことはできない。
翌週、俺は発注元のビルの屋上に来ていた。そこには、発注元の会社のカバに似た人間と、元請け会社の魚顔の人間。共に六十歳手前だと記憶している。
俺がバー『プゲラ』で連絡したのはこの二人だ。
そしてなぜかミタライもそこにいた。それを見た瞬間、俺から舌打ちが漏れる。
「なぜ貴様がここにいる! 今回も貴様のせいでロクなことになっていないではないか!」
「ハルぅ、そう邪険にぃするなよぉ」
元凶はコイツだ。俺は苛立ち任せに吐き捨てた。
「お待ちください、ハルさん。ミタライは私達が呼んだのです」
魚顔が俺の言葉を止めた。
「今回の案件は、膨大なコスト削減が期待でき、失敗するわけにはいかなかったのです。しかし、またハルさんに助けて頂くのも申し訳なく、ミタライに相談したところ、ハルさんにしか解決できないと言う話になり、ミタライを通じてお願いしたわけです。申し訳ありません。ありがとうございました」
カバが恐縮しながらも補足し、魚顔と共に頭を下げてきた。
「ならばミタライを通さずとも――」
「そいつぁ、二人が遠慮してっからよぉ、俺が勝手に話ぃ持って行ったのよ」
俺が言い終わる前にミタライが割り込んできた。
やはり悪者はミタライではないか。まあ良い。終わったことだ。俺は二人の謝罪を受け入れた。
「しっかしよぉ、こんなにサクッと解決しちまうとはよぉ、さすが【
「まだ正常なプロセスに戻しただけで、本当の仕事はここからだ。それに、その名で呼ぶな」
俺が睨むと、ミタライは「へいへい、すまんこったぁなぁ」とヘラヘラ笑った。
しかし、そんな裏があったとは。俺はカバと魚顔の二人を頼ったつもりでいたが、結果として、二人から調査と正常化の依頼を受けて、調査結果と今後の進め方を報告したに過ぎないということか。
まあ、貸し借りが発生しないならそれに越したことはないが。
今は礼をしようと思って呼び出したのだが、逆に礼を言われてしまったわけだ。
いずれにしても用件は済んだ。俺はその場を去り、同ビル内の作業場所に行った。
作業場所も改善され、今はダンジョンの中ではなく、地上階となっている。そこは広々とした作りで、間に合わせの長机からも解放され、縮こまるる必要もない。
下手をすると我が社のオフィスよりも快適だ。
席に着くと、後輩ちゃんから声をかけられた。
「先輩、作業環境も作業内容も劇的に良くなったんですが、絶対に先輩のおかげですよね? いったい、何をやったんですか?」
俺は自席の魔法陣作成魔道具から目を上げずに答える。
「秘密。ちょっとした魔法だ。なにせ俺は『魔法使い』だからな」
「……先輩、今絶対に『上手いこと言った』と思ってますよね?」
「うるさい!」
『火を消せ』完
※次話より数話、読み切りのプログラマあるあるを書く予定です。予定ですが。
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