第17話 魔法は書いた通りに発現する

「なんか、発現する魔法がおかしい。もっと、こう、ばーっと派手になるはずなのに……」


 などと言ってくる魔法使い《プログラマ》がいる。

 先に答えを言っておこう。魔法プログラムは、お前の思った通りには発現しない。お前の書いたように発現する。つまり、おかしいのはお前だ。

 これは魔法使いプログラマの格言として存在しているのだが、このようなことを言い出すヤツは後を絶たない。

 もちろん、後輩ちゃんもご多分に漏れない。



 便利な時代になったもので、誰しもが遠隔会話用の通信魔道具を所持しており、いつでも通話することができる。

 しかし、魔法使いプログラマにとっては悪魔の道具だと言っても良い。

 深夜、休日問わず着信音が鳴り、そして、その通話内容は良くないことであり、深刻であることが多いからだ。


 ピロロロー!ピロロロー!

 けたたましい着信音で起こされた。とても不愉快だ。時計の魔道具を確認すると、三時だった。夜中と言っていいのか、早朝と言うべきなのか。


 不愉快ではあるが、出なくてはならない。


「はい、もしもし」

「あー! 先輩! やっと出てくれた!」

「お前か。初回の着信で取ったつもりだが?」

「上司さんとか他の人が全く出てくれなくて、もうどうしようかと……」


 夜中の着信なんて不吉でしかないからな、誰も出たくはない。ひどい人になると通信魔道具から動力の魔石を外していたりもする。

 だからと言って俺にお鉢が回ってくるのが腹立たしい。腹立たしいのだが、自分で判断できないから頼ってきたのだろう。話は聞く。


「それで、何があった?」

「エチゴヤ商会の出納簿の魔道具あったじゃないですか? あれの古いデータを、誰も魔道具を使っていない時間に遠隔で削除するように言われていたんですが、削除魔法がおかしくて……なぜか全データが消えてしまい……」

「おかしいのは魔法じゃなくてお前だ。魔法陣をよく見てみろ。削除条件はどうなってる? もしくは削除行為と削除条件を何かで区切ってしまってないか?」

「えっと、少々お待ちください。…………え!? 条件の前に終了記号が! これじゃあ、削除行為だけ走って削除条件は無視されちゃう! 先輩、なんで分かったんですか!?」


 状況的にそれしかありえないからだよ。そして、後輩ちゃんには言わないが俺も昔やったことがある。これもまた魔法使いプログラマあるあるでもある。


「その魔道具の詳細は知らんが、バックアップ用の魔石があるはずだ。探せるか?」

「はい。…………あ! ありました!」

「バックアップ方式は?」

「日に一度、夜間に全データのコピーを作成しているみたいです。今夜の分は私の作業前に既に取られていたみたいです」


 助かった。

 それから通信しながら復旧手順を説明し、動作確認まで終わったのは5時。2時間もかかってしまったが、最悪の事態はまぬがれた。

 俺は結局それから寝ることもできず、早めに出社するのだった。


 この話には冒頭の格言の他に2つの教訓がある。

 データの取り扱いには充分以上に慎重になること。

 そして、『通信魔道具など破壊してしまえ!』ということだ。

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