第16話 練習でも完成させろ
我々の業界、
直接戦闘系の魔法使いであれば、自信を持っていた魔法が、知らないうちに
我々のように魔法陣作成を
すなわち、我々が勉強するということは、命を守るためにも必要なのだ。
「先輩、聞いてください!」
「なんだ、無能」
「ちょっ! いきなり酷くないですか!?」
「ヒトが集中している時に、相手の様子も見ずに声をかけて集中を乱すやつを無能以外に何と呼ぶ? ゴミ虫か? 汚物か?」
こちらが明らかに集中しているのに、何も考えず声をかけてくるやつがかなりいる。人は個人差はあれど、ある程度の助走時間を経てから集中状態へと入る。声をかけられて集中を解くと、また助走時間からやり直しとなってしまうのだ。効率が悪くなることこの上ない。それが雑談だった場合には殺意すら覚える。
でも、まあ、今は……。
「先輩、さっき『ヤル気が出なーい!』って叫んだっきり、本当にぼんやり外を眺めてるじゃないですか!」
そんな時もある。
「それで、なんだ?」
「私、『ウィンター』っていう
『
魔方陣を作成する際にそれを採用することで、記述の統一や魔方陣作成時間の短縮を可能にする。もちろん、その『
後輩ちゃんが言う『ウィンター』の他にも何種類も存在しており、『コマイヌ』や『ストラック』などというものもある。
「それで、お前は何を作った? 見せてみろ」
「あ、いえ、魔道書を読んで少し使ってみた程度で、お見せできるようなものは……」
「ああ、まだそうなのか。あれは勉強する価値のあるものだ。頑張れ」
「……」
「なんだ? まだ何かあるのか?」
「いえ、いつもならアドバイスをくれるか、けなされるか、罵られるか、あると思いまして……」
「……もしかして、そんなはずはないと思うが、魔道書を読んで、少し書いてみて、それで勉強したつもりになっているのか? その状態で何か俺に助言や意見がもらえるとでも? まさかそんなはずはないよな。すまんすまん。お前がまさかそこまでの低脳なはずないもんな。さすがにそうだったら救えないもんな」
後輩ちゃんはびくっと肩を震わせて
俺は深くため息をついた。
「あのな、もう二度は言わんぞ。『勉強した』と言いたいなら、本当に成長したいのなら、目に見えて動く魔法を何か完成させろ。
俺はそこで話を終わりにして、自らの作業に戻った。
少しして顔を上げると、そこにはまだ後輩ちゃんが
「うん? まだ何かあるのか?」
「あ、いえ、内容は痛烈ですが先輩の口調が優しいので、続きがあるのかと不安に思いまして……」
「冒頭からかなり罵って少しスッキリしたからな。ああ、追加で言うなら、今の自分を憶えておいて、俺に見せられる何かを作り上げた後の自分と比較すればいい。そうすれば分かる」
「罵ってスッキリ!?」
考えは甘いが、俺は『勉強する』という姿勢が正しいことだと思っているし、好きだ。少しくらいは甘くもなる。
後日、後輩ちゃんが持ってきたものは、稚拙で酷いものだったが、試行錯誤の後が見えた。
本人も稚拙だとは思っていたらしいが、ちゃんと俺に持ってきて罵られようとする覚悟は素晴らしい。後輩ちゃんから硬派ちゃんに格上げしてやってもいい。しないけど。
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