第3話 魔法化(コンパイル)をしろ

「先輩、魔法化コンパイルが上手くいきません。理由が分かりません」

「それはな、お前の魔法陣ソースコードが間違えているからだ」

「間違えているのは分かってるんですけど! もう、どこが悪いのか、何度見ても分からないんです!」


 なぜに俺が怒られているのだろうか。「ならば最初から作り直せ!」と反論しそうになるも、美人な後輩ちゃんの荒れた肌と目の下のクマを見て、口を閉じた。全く、こんな職場においても美人は得だ。セクハラになるから口には出さないが。


 魔法化コンパイルとは、魔法陣ソースコード作成魔道具で作成した魔法陣を、実際に魔石や魔道具で使用するために、それらが読み取れるようにする作業だ。もちろん魔法化コンパイルにも専用の魔道具を使う。

 基本的には魔法化コンパイルの魔道具に魔法陣ソースコードを流し込むだけであとは勝手に魔道具がやってくれる。しかし、魔法陣になんらかの欠陥があった場合にはエラーが発生し処理できない。

 動きがおかしいものを直すデバッグもそうだが、魔法化するためのデバッグも、魔法使いプログラマの腕の見せどころなわけだ。


「エラーメッセージにはなんて出ている?」

「よく分からない文字がだーっと……」

「お前、今まで魔法化コンパイルエラーを読まずにきたのか?」

「今までは、なんとなくダメな箇所が分かったので……」

「……エラーメッセージを十分間睨んでこい。それでも分からなかったら罵られる覚悟を持って、聞きにこい」


 ここで俺がそのエラー内容と魔法陣ソースコードを読めばすぐに解決できるかも知れない。しかし、あえてそれはしない。少しずつでも理解するための努力をさせていかないと、いつまでたっても本人の力にならないからだ。


 十五分後、申し訳なさそうな顔で後輩ちゃんが現れた。ダメだったか。


「それで、少しは進展があったのか?」

「はい。あー、いえ」

「どっちなんだ」

「文章記述部分の『堕ちた天使が踊り歌う』のたありがダメっぽいんですけど、それでもよく分からず……」

「前後も含めてその記述を読んでみろ」

「『神の祝福、この地に舞い堕ちた天使が踊り歌う、その踊りを、その歌を、喜びを持って受け入れろ』です」

「……『舞い』じゃなくて、『舞い』じゃないか?」


 後輩ちゃんは、はっとした表情を浮かべて、自席に走って行った。

 数分後、「やったー!」という後輩ちゃんの声が聞こえたから、成功したのだろう。

 今回のように、読み流すと意味が通っているように見えたり、一文字違いなどがよくあるパターンだ。よくあるが、思い込むと抜け出せないものなのだ。


 我々の格言に次のようなものがある。

『大抵の魔法化コンパイルエラーの原因は、魔法化魔道具がエラーメッセージとして教えてくれる。それでもダメなら思い込みのない他人に見てもらえ』


 後輩ちゃんは、図らずもこの道を辿ったことになる。結果オーライ。

 何でもかんでも俺に聞くようになったら手酷く罵ってやろう。今回の罵しりタイムは短めで。

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