第4話 徹夜とかアレ

 今日は出社してみれば、後輩ちゃんを含む数名が既に会社に来ていた。いや、違うな。コイツら、帰っていないだけだ。

 後輩ちゃんを見れば、もう目が虚ろになっている。きっと仮眠もとっていないのだろう。

 後輩ちゃんの隣の席のヤツが俺に気が付いて挨拶してきた。


「おはようございます。いやー、徹夜ですよ。参りましたよ」


 もはや慣例行事と言ってもいい徹夜自慢だ。

 徹夜結構。長時間労働お疲れ様。

 だが、トラブルがあったのならともかく、通常の魔法陣開発業務で徹夜などは無能の証でしかない、と俺は思っている。

 仮に徹夜で十時間分の作業をしたとしよう。五日間、日に二時間残業を増やせば済む話だ。もし、常に上積めないほどの残業をしているのであれば、効率を見直すか、そもそも作業量が合っていないのだから減らすべきだ。

 もし、本当に間に合わないのであれば、無理して品質を削るよりも、スケジュールの調整を行うべきなのだ。


「ふへへ……。先輩、見てくださいよ、私の魔法陣ソースコードがこんなに美し……く……ない……。なんで!? ここも矛盾してる! ここも!」


 俺が一番恐れているのはこれだ。深夜に深夜のテンションのまま書いた魔法陣ソースコードは、書いている時には万能感に満たされるが、冷静になるとありえない理論の展開をしていたり、上手くいっていない場所も上手くいっているという思い込みをしていることがある。

 せっかく徹夜までして仕上げた魔法陣ソースコードがかなり手を入れ直さなければならないと気付いたときの絶望感たるや……。


 俺は混乱する後輩ちゃんの肩に手を置いて言った。

魔法陣ソースコードの美しさよりも、今はとりあえず仮眠をとれ。話はそれからだ」


 後輩ちゃんは一度目を見開くと、うなづき、机に突っ伏すのだった。


 今回の後輩ちゃんはまだマシだが、出社したらもっと多くの人間が机に突っ伏していることがある。ひとはこれを『死体の山』と呼ぶ。

 そして、それが連日続くと、オフィスは『不夜城』と呼ばれ、夜な夜なゾンビ(のようになった魔法使いプログラマ)が徘徊するのだ。


 実に恐ろしい。

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