第3章 秋葉原に行ったら竜破斬並みの衝撃をうけました。

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 俺、鹿島妹子は津田沼の北口にある歩道橋の上で芦名美馬がくるのを待っていた。


 津田沼という土地について名前は知っているけど、どういう町が知らない人もいる……いや、知らない方が多いかもしれない。


 津田沼は千葉県に存在する町である。

 JRと私鉄の新京成がある交通の要所といっていい。大きい町ではないが、多くの人が行きかう場所なので、激しいデパート戦争がくりひろげられている街でもある。

 千葉の片田舎の町だと言ってしまえばそれまでだが、この辺りは相撲部屋がけっこう多いのだ。だから、たまにお相撲さんの姿を見かけることがあるのだ。『あ、お相撲さんだ』と思って見てみると、スマートフォンにイヤホンをつけて音楽を聴いて歩いているなんてこともある。


 いまは午前8時。

 約束の時間より1時間も早く来ている。

 それにしても昨日は大変だった。地獄に叩き落されたような気分だった。


 家に帰った俺は机に座って、一目散に自己紹介文に取り組んだ。

 ろくに文章を書いたことのない人間にとって、原稿用紙のマス目を埋める作業がどれほどの重労働か……。読書感想文を書くのだって俺みたいな人間にとっては重労働だ。


 いや、その辛さは読書感想文の比ではない。

 最近はネットを漁ると読書感想文に雛形があるHPが存在する。それを書き写せば読書感想文の宿題などすぐに終わる。

 しかし、男の娘の自己感想文の文章の雛形などどこを探してもない。あるはずがない。


 誰か書き方を教えて欲しい。

 でも、誰に聞いても答えてくれないだろう。そりゃそうだ。そんな馬鹿なことを想定したHPなど存在しないはずだ。 


 女性用の漫画雑誌片手に俺の部屋を通り過ぎた妹は、俺が真剣に机に向かっているのを見て愕然として、『お母さんたいへんっっ!! 昼間から兄貴が勉強しているっっ!!』と叫んだほどだ。

 そりゃあ普段はゲームとネットしかしない低レベルな高校生だけどな。


「1時間も早く来るなんて立派だね」


 俺はぎょっとして振り返った。

 芦名美馬だった。

 相変わらずの凛々しい姿である。

 でも、サッカー系コスプレ少女で、しかも超絶純度百%のドS女なのだ。

 今日はサッカーボールを持っていなかった。


「サッカーボールは……?」

「今日はいいんだ。秋葉原に行くときはサッカーボールは置いていくんだ」

「へえ……」

「でも、いいんだ」

「どうして?」

「ボールがないかわりに、妹子が一緒にいてくれるから」


 歯の浮くような台詞を平然という。

 天真爛漫のような、そうでないような。

 子供じみていて、それでいて悪魔的なところもある。


「自己紹介文書いてきた?」

「う、うん……。まあ……」

「いま、持ってる」

「持っているよ。ほら、このバッグの中に」


 俺は原稿用紙を取り出して美馬に渡そうとした。

 が、美馬は受け取らなかった。


「あとで見るよ。それよりも一刻もはやく服を見たいよ」


 美馬はじつに嬉しそうな顔をしていた。

 お目当てのコスプレの服と対面するのが待ち遠しくって仕方がないらしい。


「そうそう、一つ言い忘れていたことがあった」


 美馬は突然思い出したようにポンと手を叩いた。


「深見さんに平日の午後も来てって言われたでしょ?」

「えっ!? う、うん……」

「平日の午後に仕事するのはいいんだけどさ、僕と会いたくないからってバイトの日をずらすのは寂しいから止めて」


 ドキリ、とした。

 こ、こいつ、俺が考えていたことを……。


「言ったじゃないか。僕たちは運命共同体だって」


 くすくすと笑いながら、美馬の黒い瞳が俺をじっと見据える。


「くれぐれも僕から逃げようなんて考えは捨ててくれよ」


「それにしても、ずいぶんと来るのが早い……」


「いやぁ、妹子がいつやって来るのか知りたくて早く来たんだけど、まさか僕が来たのとほとんど同時にやってくるとは思わなかったよ。妹子は本当に僕のことが好きなんだね」



 違うんだよ。怖いんだよ。

 自分の買ったエッチな本のリストをクラスメートにバラされる可能性を想像したら、家でのんびりとしている余裕なんかない。一時間も早く来るっつうの……。



「さて。秋葉原へお宝さがしにいざ出陣」

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