第16話 心太の懊悩



 一方その頃心太。

 涼風に言われたことを考えながら、自分の席へと戻った心太は、隣に座る弥津斗に話しかけた。


「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ」

「なんだ?」

「あの……俺ってどう?」

「……なんだよ、急に」


 心太の発言に、気味悪そうに弥津斗は聞き返した。


「なんていうか、その……さっき、涼風さんに言われたんだけどさ」


 そういって心太は、さきほどの内容をかいつまんで話した。


「なるほどな」

「やっぱり、俺みたい妖怪大好き! って態度は困ったりするの?」

「そりゃあ困るヤツもいるさ」

「そ、そっか……」


 なにを当然のことを、と返されて心太は落ち込む。


「なぁ心太。おまえはこれまで誰とでもうまくやってこれたのか?」

「そんなことないよ。どうしたってソリが合わないヤツはいるし……」

「だろ? そういうもんだよ」

「そういうもんって……」

「だから、仲良くしようと思ったって、どうやっても合わないヤツはいる。けど、それはどっちが悪いってわけでもない。それだけだ」

「それは……ちょっと冷たくない?」


 弥津斗のドライないい方に心太は反発を覚える。


「かもな……けど、じゃあ、おまえのその態度が困るヤツがいるから、って態度を変えるか? おまえの今の態度を好きで仲良くしてくれるヤツはどうする?」

「…………」


 心太はなにも言い返せずに黙り込んだ。


「まぁ、今のは俺はそう思うって話……それより涼風の言いたかったのは、福家さんのことだろ」

「乃恵は……うーん。イマイチわからないんだよね」

「わからないって」


 眉根を寄せる弥津斗に、だってさ、と心太は言った。


「乃恵が貧乏神ってのはわかってるつもりだけど……普段一緒に居ると普通の人間となにも変わらないというか……」

「普通の人間のように見える、って時点で妖怪としては格が違うってわかってるか?」

「人に化けられる妖怪の方がレベルが高いとか、そういう話?」

「そうだよ。妖怪はどう頑張っても妖怪だ。俺もそうだけど、人間に似せようとしても、どうしたって違う部分が出る」


 自身の耳や、手を示して弥津斗は言った。


「それが、まったく人と変わりないってのは、それだけ優れてるってことだ」

「でも、乃恵は落ちこぼれだって……」

「そうだ。妖怪や神としての力はほとんどもっちゃいない。でもな、人と変わりないってのは、それとは別で強い力の証なんだよ」

「うん」


 歯切れの悪い心太の返事に、まぁ人間に理解するのは難しいかもな、と弥津斗はもどかしそうにする。

 そういえば、と心太は気づいた。


「乃恵はどこにいったんだろう?」


 思えば、昼休みに入ってから見ていない。お昼は行きがけにコンビニで買ってきたはずだけど、学食で食べてでもいるんだろうか?


「……校舎裏にいたわよ」

「え?」


 後ろからそう言われて心太が振り向くと、仏頂面をした透子が立っていた。


「古家さん、乃恵と一緒に?」

「……偶然よ。でも、あの子、放っておくとよくないわよ。さっさといけば?」

「わかった」


 ふん、とそっぽを向きく透子に、ありがとう、とお礼をいって心太は校舎裏へと急ぐ。

 

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