第14話 鞍馬天狗の心配
昼休み。
昼食に誘った古家さんにガン無視され、乃恵と食べようかなと思っていた心太は、彼女がすでに教室にいないことに気がついた。
——どこにいったんだろう?
「ねぇ柳田くん。乃恵さんとなにかあった?」
そう考えている心太に涼風が話しかけた。
「え?」
「彼女の様子がおかしいみたいだけど……」
あぁ、と心太はうなずく。
「今朝、乃恵が珍しく寝坊して、俺が代わりに朝ご飯とか作ったんだけど、それをすごい気にしてるみたいで……」
「そう」
「全然気にしなくていい、っていってるんだけど、なかなか……ね」
「そうね、彼女には難しいかも知れないわね」
本当に、全然気にしなくて良いんだけどなぁ、とぼやく心太に、涼風は不安になった。
「ねぇ柳田くん。あなたは、乃恵さんが貧乏神だってことをきちんと理解しているかしら?」
「それはもちろん、してるよ」
頬を膨らませる心太に、本当かしら? と涼風は重ねる。
「彼女は、貧乏神なの。どれほど弱くても『神』なのよ」
「うーん? それは、つまり神だから、妖怪よりも力が強いとか?」
「そうじゃないわ」
涼風は首を振った。
「今の彼女の力は、たいした影響を与えられるようなものじゃない。けど、それでも『神』だから。なにかふとした拍子にその力が大きくなることだってある」
その言葉に心太は目を見開いた。
乃恵の力が強くなることがあるなんて、心太は考えてもみなかった。
「彼女の力は、特に精神の影響を強く受けるものだから。ここ数日の彼女を見ていると、とても不安なの……柳田くんは、妖怪が好きなのよね?」
「うん、好きだよ」
即答する心太を好ましく思うと同時に、涼風は複雑な気持ちになる。
「それって、私は嬉しいけど、妖怪全般にとってはとても困ることだ、ってわかってる?」
「困るの……?」
やっぱりわかってなかったんだ、と涼風は嘆息する。
「私たち妖怪は人間と共存する生き方を探そうってことで今こうしているわけだけど、本質は変えられないわ」
いいかしら、と彼女は告げた。
「妖怪は人間に恐れられるべき存在。そう思っている妖怪もいっぱいいるし、恐れられなければ存在できない妖怪もいる……そして、周囲に害を与えるのが存在理由の妖怪もいる。貧乏神というのは、その最たるものよ」
心太は、ショックを受けていた。
妖怪が好きで、妖怪について調べてもきたけれど、そんな風に妖怪サイドは思っているなんて、思ってもいなかった。
「さっきもいったけど、彼女の力は、彼女の精神に影響を受けるわ。彼女が落ち込まないように支えてあげて」
「わ、わかった」
そう答える心太はひとつ気になったことを、ねぇ、と涼風に尋ねた。
「なにかしら?」
「……鞍馬さんは乃恵と仲良くしてくれてるけど、あれって俺がお願いしてたからで、無理してたりするの?」
「あら、失礼ね、私は仮にも『鞍馬天狗』の一族代表よ。力はそれなりにあるの」
「あ、やっぱり鞍馬天狗なんだ」
ややテンションの上がった心太を、それは今は置いときなさい、と涼風はぴしゃりと叱る。
「私は、彼女のことが好きよ。だから仲良くしてる。もっと仲良くなりたいと思ってる。だからこそ、心配なのよ」
涼風は心太の目をじっと見据えていった。
「乃恵さんのこと、ちゃんと見ててあげてね」
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