歌人・岡本真帆さんにインタビュー! 「短歌の読み方」編【カクヨム「短歌の秋」特別企画②】

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短歌初心者の方必見!岡本真帆さんインタビュー「短歌の読み方」編

残暑も和らぎ秋を感じる今日この頃、現在カクヨムでは「短歌の秋」と題して、投稿企画を実施中です。
本イベントは、募集期間内にカクヨムで発表された短歌作品から、ゲストが気になった歌を選んで生配信で評(コメント)していくというものです。
9月に開催した第1回はゲストに歌人・岡本真帆さんをお招きして、テーマ「赤」で短歌を募集しました。岡本さんの講評が聞ける歌会生配信は、9月30日(月)に実施予定。

気になる歌会の前に、特別企画として岡本真帆さんに「短歌の読み方」についてインタビューをしてみました。
短歌をはじめたばかりの方、これから短歌をはじめてみようかな、という短歌初心者の方必見!
様々な切り口で岡本さんから多くのすてきな歌人をご紹介いただいています。

【ゲスト】岡本 真帆(おかもと・まほ)さん

歌人。1989年生まれ。高知県、四万十川のほとりで育つ。
2022年に第一歌集『水上バス浅草行き』、2024年に第二歌集『あかるい花束』をいずれもナナロク社から刊行。

▼インタビューの前半(「短歌の作り方」編)はこちら!
kakuyomu.jp

▼投稿企画はこちら! 応募受付は9月16日(月・祝)まで
kakuyomu.jp


さまざまなタイプの短歌たち

──「カクヨム」のメイン層は小説を書いたり読んだりする人なので、短歌に関してはまったく初心者という方も多いと思います。この機に短歌に興味を持っていただけるような、おすすめの短歌や歌人を教えていただきたく、タイプやシチュエーション別にお伺いできれば幸いです。たとえば、「恋愛もの」が好きな方だったら、どんな歌人がおすすめでしょうか。

岡本:恋愛の歌がすてきな歌人として、真っ先に思いついたのは初谷むいさんです。〈イルカがとぶイルカがおちる何も言ってないのにきみが「ん?」と振り向く〉という一首があるのですが、わたしは初めて見たときからこの歌が大好きで。水族館のイルカショーを見ている二人の一瞬を切り取った歌として読んでいるのですが、一瞬の光景がスローモーションに感じられるというか、短歌の形になることで永遠が見えるような感じがして、ぐっとくるんですよね。

イルカがとぶイルカがおちる何も言ってないのにきみが「ん?」と振り向く
カーテンがふくらむ二次性徴みたい あ 願えば春は永遠なのか
どこででも生きてはゆける地域のゴミ袋を買えば愛してるスペシャル

──では、「落ち込んでいるときに読みたい」短歌だとどうでしょうか。

岡本:わたしの場合は堂園昌彦さんの『やがて秋茄子へと到る』でしょうか。自分の気持ちがプラスでもマイナスでも、堂園さんの歌集には静かに向き合えます。難しいことを考える必要はなくて、本当に美しいものを純粋に受け取れる、美しいものを美しいと思える気持ちを取り戻せる1冊です。すっと背筋を伸ばしたくなります。

秋茄子を両手に乗せて光らせてどうして死ぬんだろう僕たちは
美しさのことを言えって冬の日の輝く針を差し出している
ゆっくりと両手で裂いていく紙のそこに書かれている春の歌

──これは難しいかもしれませんが、カクヨムにも読者の多い「異世界ファンタジー」ジャンルが好きな方へおすすめするなら、どんな作品がよいでしょうか。

岡本:難しいですね(笑)! うーん、カクヨムでいう「異世界ファンタジー」とはすこし違うかもしれませんが、「異世界」でわたしが真っ先に思い浮かべたのは我妻俊樹さんです。「SF」や「ハードコア・ファンタジー」と言えるかもしれません。分厚いハードカバーで出ているような。ずっと歌集が出ることを待ち望んでいた方で、歌集が刊行されたときは本当に嬉しかったです。

夏の井戸(それから彼と彼女にはしあわせな日はあまりなかった)
渦巻きは一つ一つが薔薇なのに吸い込まれるのはいちどだけ
橋が川にあらわれるリズム 友達のしている恋の中の喫茶店

──ありがとうございます。たしかにライトノベル文脈の「異世界ファンタジー」とはすこし異なるかもしれませんが、非日常を感じたい読者にはうってつけかもしれませんね。

アンソロジー、SNS、WEB記事……気に入る短歌の探し方

──そのほか、特に初心者の方に向けておすすめの歌集はありますか?

岡本:歌集もいいですが、まずはアンソロジーから入るのがおすすめです。一人の作者の作品が収録されている歌集と違って、アンソロジーでは多くの歌人の作品が一冊で読めるので、自分の好みに合う作者を見つけやすいんじゃないかなと。たとえば左右社から出ている『海のうた』は、「海」がテーマの短歌100首が集まった、100人の歌人のアンソロジーです。同じテーマでもこれほどまでに幅があるんだ、と短歌の面白さが味わえるいい本です。同シリーズの『月のうた』も最近発売されました。どちらも、それぞれのテーマにおける名歌がたくさん入っているので、短歌に詳しくない人はまずこれを読んで、どの作品にピンと来るかを試してみていただきたいです。

──ひとつのテーマに対して、ここまで多様なアプローチができるんだな、というのは今回の投稿企画の参考にもなりそうですね。今日では紙の本だけでなくSNSでも短歌に触れることができますが、SNSでも作品は探しやすいのでしょうか。

岡本:SNSで「#tanka」で調べると、今では非常に多くの方が作品を投稿しています。わたしも、気になるものがあったらその作者さんをフォローしたり、自分が好きな歌人のタイムラインを見て名前が挙がっていた人を確認したりします。ただ、あまりに数が多いので、最初に探す場所としてはちょっと大変かもしれない。取っ掛かりとしては、やはり先ほど言ったようなアンソロジーが適しているかもしれません。そこで好きな歌人を見つけたら、その人をSNSでフォローして、そこを起点に歌を探していくとか。あとはいろいろな短歌の記事も参考になります。たとえば、歌人のなべとびすこさんが運営している短歌のWEBマガジン『TANKANESS』に「本ッ当に好きな短歌の本 教えてください」というコーナーがあります。よく短歌を読んでいる人たちの本当に愛している歌集が集まっているコーナーなので、そこを覗いてみるのもいいかもしれませんね。

tankaness.com

短歌を読みたいと感じるとき

──ふだん、どんなときに「短歌を読みたい」と感じますか?

岡本:わたし自身は、歌人となった今では趣味として読んでいるというより日常のなかで当たり前に摂取している感覚に近いので、「読みたいと思って読む」というのとはすこし違うかもしれません。特に最近は嬉しいことに、新しい歌集がどんどん出ているのですが、気になる歌集はなるべくすぐ買うようにしています。

──たしかに、昨今の短歌ブームの勢いなのか、おもしろそうな歌集がつぎつぎと出ていますね。

岡本:東京と高知で二拠点生活をしているのですが、都内には詩歌の本の取り扱いが潤沢な書店が多くて。新しい歌集や珍しい歌集を見つけると「この歌集、読みたい!」「これも読まなきゃ!」とどんどん手に取ってしまい、気づけば大量の歌集を抱えてレジに向かっている……ということがよくあります(笑)。なので常に鞄の中や机の周辺に何かしらの歌集があって、「短歌を読みたい」と感じてから読み始めるというよりは、仕事の合間に何気なく手に取って開いたり、「この時間はこの歌集を読むぞ」と決めて意識的に読んだりしている方です。買いっぱなしにしないように気をつける感じになっているかも。ただ、「思うように短歌が作れない……」というときには原点回帰的に好きな歌集を読むことがあります。

──そういうときに手に取るのは、どんな歌集なのでしょうか。

岡本:たとえば、笹井宏之さんの歌集です。『えーえんとくちから』はわたしが短歌をつくり始める前に出会った歌集で、読み返すたびに新鮮な感動が湧き上がる、自分にとってある意味原点のような歌集です。笹井さんの作品は、読んだときの自分の反応を確かめることで短歌に対する感覚をチューニングできる気がしていて。笹井さんの歌は平易な言葉が用いられているのに、容易に超えられない、確立された世界観・作風があります。揺るがない、確固たる存在として、安心して読めるところがありますね。

ふわふわを、つかんだことのかなしみの あれはおそらくしあわせでした
白砂をひかりのような舟がゆき なんてしずかな私だろうか
えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい

読者から受け取った言葉

──岡本さんがファンの方からかけられた言葉で、うれしかったものや印象に残っているものはありますか?

岡本:よく覚えているのは、歌集を出してすぐのときにいただいたハガキの言葉です。「友達を励ましたくなって、この歌集を手に取りました。ぴったりな言葉を探してたけど、最後まで読んで、やっぱり自分の言葉で励まそうと思いました。だから、ありがとう」と書いてあったんです。すごく嬉しかった。ほかにも、わたし自身の失恋や別れをテーマにした連作を出したときに、「自分も何年も付き合ってた人と破局したところで、すごく勇気が出ました」という言葉をもらったり、わたしの〈ここにいるあたたかい犬 もういない犬 いないけどいつづける犬〉という歌に、ペットを亡くした方から「すごく辛かったときに、この短歌を読んで気持ちが癒された、思い出をもっと大事にしたいと思った」ということをお聞きしたり……。わたしの歌集や短歌を読むことで、その人が誰かに伝えたい言葉とか自分の気持ちを整理できたのかなと思うと、すごくジーンときて、今でもよく思い出します。

──読者の方から感想をいただいたり、特にうれしい言葉をもらったときのことは、本当に一生忘れないくらい覚えているものですよね。それは、カクヨムで小説を書いている作家さんにも共通する気持ちかもしれません。

岡本:作り手は、もちろん自信を持って発表すると思うんですけど、それでも自信がないところもあると思うので、それがちゃんと本当に人に伝わったんだな、と気づかせてもらえると、幸せだなと思いますよね。

──ありがとうございました。今度の歌会でもすてきな歌、すてきな感想が聞けることを楽しみにしています。


岡本さんの評が聞ける「短歌の秋」第1回歌会生配信は、9月30日(月)19:00から実施します。
「短歌の秋」第2回は10月開催予定。どちらもお楽しみに。

▼岡本さんの歌集はこちら