句会潜入レポート〜俳句初心者カクヨムスタッフ、「麒麟俳句会」に参加してみた〜

今回は、「句会潜入レポ」です。俳句の部・西村麒麟さんの主催する結社、「麒麟俳句会」に、カクヨムスタッフ(俳句ド初心者)が実際に作った俳句を携えて潜入して参りました!その様子をお届けします。また、コンテスト応募作にレビュー投稿で50名に図書カードネットギフト500円分が当たるキャンペーンも実施中ですので、詳細をご確認ください。

突然ですが、まずは句会で取り上げられた「俳句の穴埋めクイズ」を紹介します。

Q.「〇〇」に入る部分を予想してみてください。(句はどちらも、俳人・深見けん二の作品です)

〇〇受けつつたつぷりと初湯かな

 
〇〇をタップで確認▼
  
  • 「介護」

  • 西村さんコメント
    「介護を受けている」という、見栄えや体面を気にしてしまうとなかなか前向きには捉えられない部分を、淡々と開示して俳句にしています。自分のありのままで詠んでいる、そんな強さを感じる句ですね。


    もう一問紹介します。

    人生の輝いてゐる〇〇〇

    参加者からは、「ハンモック」「さるすべり」「昼寝覚め」「かしわもち」などなどの予想が。

     
    〇〇〇をタップで確認▼
      
  • 「夏帽子」

  • 西村さんコメント
    自分の句が評価されない、誰にも選んでもらえない、といったことで、どうしても心が闇に呑まれてしまう方も多いのですが、ダークサイドに落ちてしまうと、良き句作仲間にも巡り会えずに、俳句から離れてしまう場合も……。そんな、「心の濁り」を感じた時、僕が浄化のために読む句ですね。

    俳句のエッセンスが詰まっているようなお話だったので、真っ先にご紹介してみました。意外な言葉選びだったのではないでしょうか。

    スタッフが句会を通して感じた「もっと俳句をよくするためのポイント」
    • 多くの人が体験している題材を詠みつつ、ちょっと視点や切り取り方がズレていると面白い。
    • そのために詠む対象のことをじっくりと見て、ありがちな発想から離れる。
    • 「ありがちな発想」を知るためにも、今までに詠まれた俳句のインプットも重要。
    • 仰々しい表現で飾り立てると失敗しがち。字面を美しくすることに気をとらわれず、その言葉選びに必然性があるのかどうか、きちんと考える。
    • 自己顕示欲からは脱却すべし。
    • 状況の説明だけで終わっている俳句にならないよう、注意!

      上記6つのポイントをいかに体得したか、1日を振り返ってみましょう。

      会場となるのは、江東区の「芭蕉記念館」

    句会の流れ

    ①清記
    持参した五句を、五枚の短冊(細い紙)に書いて受付の方に渡します。
    →ここで全員分の俳句が清書されます。これを「清記」と言い、筆跡や順序で特定できないように工夫がされています。
    ②選句
    清記のコピーが次々と配られました。それぞれの俳句に番号が振られています。今回の句会では全部で190句(!)。この中から、自分の良いと思う句を3句選びます。(一つは「特選」。一番よかったものも選んでおきます)
    ③選の共有
    一人一人、全体に向かって、自分の選んだ句を読み上げます。自分の作った句が選ばれたら、作者は名乗りをあげます。
    ④主宰(西村さん)による選と、全体からの句評
    西村さんの選にあった作品に選を付けた人が指名方式で意見を仰がれ、句評をしていきます。

    さて、清記したプリントが配られると、早速②の選句に移ります。40分ほど時間が取られて、参加者全員、静かに作業を進めていました。


    スタッフの選はこの三句。
    「前輪が薫風を巻き込んでゆく 大和田美信」(主宰特選句)
    「夏鴨の人に心を許さぬ目 西村麒麟」(スタッフ特選)
    「父だけがずつと見てゐる鯉幟 清水縞午」(主宰特選句)


    スタッフメモ

    選ぶ中でも、馴染みのない季語に出会います。知っている植物でも、「杜鵑草ほととぎす」など、漢字表記でもサッと読めないものがちらほら。「蛙の目借り時」など、独特の季語表現がとても新鮮でした。自分の語彙がゴリゴリ広がっていく感じで心地よかったです。こうして他の人の俳句を読んで、歳時記で調べていけば、自然と季語のボキャブラリーも追加されていきそうです。


    「そろそろ選、行きますか〜」
     との西村さんの声がけで、③選の共有がスタート。
    「自分の句、誰かに選ばれるかな?」とドキドキ。
     他の参加者を全く知らない状態でも、選を聞いていくと、「この人の句、たくさん選ばれているな」ということが、だんだん分かってきます。ここで読み返して、素敵だな、と思い直す句も。
     自分の選んだものが人気だったり、西村さんの句だったりすると、「ちょっと審美眼イケてるんじゃない?」と嬉しくなったり、逆に誰にも選ばれてない句を取っていると、「わたしだけがこの句の良さを見つけたんだ……!」と思えたり、どっちに転んでも選を聞いていくのが楽しく、西村さんが句会を「ゲーム」と言っていたのにも納得です。ちなみに、スタッフの句は誰にも選ばれませんでした。


    最後に、④西村さんご自身による選が読み上げられます。今回は「特選」八句と「入選」三十句ほどが選ばれました。
    スタッフメモ
    ここでついに自分の句が入選。しかし、上記の通り、「先生に選ばれたから上位40位に入った!」などという考え方は禁物。人と比べるような考え方をしていると、やはり「闇に呑まれ」てしまうとのこと。実際、次に続く句評を聞いているうちに、「凝った工夫で目に物見せてやろう」と息巻いて俳句を作っていたことが自覚されて、反省しました。


    ✅ここで、今回の句会で「特選」をもらっていた句と、その句評の一部を紹介します。

    柏餅かじるや鼻に葉のふれて 田中木江

    参加者コメント味覚のみならず、鼻先に触れた葉の匂いまで感じられる句だと感じました。
    西村さんコメント
    お餅にも「柏餅」「桜餅」「草餅」といろいろありますが、入れ替えて成り立ってしまうと句としてはよろしくないわけです。この句は、包んだ葉に「モノ」感があるのがいいですね。「柏餅」であることに正当性がある。たとえば「桜餅」にしてしまうと、葉っぱも食べる部分なので、ちょっと鼻には触れたくないわけですから。

    緑陰や菓子の軽さが缶の中 田中木江

    参加者コメント「か」が重なってかろやかな印象が、「緑陰」の心地よさと重なって、句姿の良い作品だと思いました。
    西村さんコメント
    評が苦手だな、という人は、他の人の評の表現を参考にして覚えていくと良いです。「句姿の良い」なんて言えるとかっこいいですよね。この句は、直接「涼しい」ということには触れていないのに、涼しさのイメージがひしひしと伝わってくるのが良いですね。

    スタッフメモ
    他の方の評を聞いていくうちに、俳句の味わい方、また句評の表現方法も少しずつ学んでいける、というのも句会の面白さですね!

    足楽し実梅実梅と避け歩き 田中木江

    参加者コメント「〇〇楽し」で、岸本尚毅さんの、
    夏楽し蟻の頭を蟻が踏み 句集「小」
    を思い出しました。その分、詠むにはハードルもある上五の「楽し」ですが、「足楽し」は斬新で、「実梅」が重なることで、ごろごろと転がっている様子も伝わってきますし、リズムも良く、思わずまた足楽し……と戻って何度も読み返したくなります。
    西村さんコメント
    この句では「実梅」が重なっていることで、「実梅A」から「実梅B」へと目線が移ろっていくのを辿れるんですね。また、先ほどの「夏楽し」然り、「楽し」界には名句がありますが、この句はその仲間入りに成功していますね。

    スタッフメモ
    実際には、「夏楽し」という引用だけで話が進み、やはりみなさん俳句を覚えているのだな、と実感。今までに詠まれた俳句のインプットも重要!

    父だけがずつと見てゐる鯉幟 清水縞午

    西村さんコメント
    この句は、鯉幟と言えば子どもに焦点が行ってしまいがちなところを、あえてずらしています。これがもし「少年がずつと見てゐる鯉幟」だったら取れない。
    この「父」も、子どもだった時には見なかったかもしれない。鯉幟にまつわる懐かしさが立ち上る句ですね。
    ぼくは詠む対象をよく知るために、写真をうつしとって描いてみるんですよ。鯉のぼりは、実際によく見てみると意外にお腹は真っ白で、鱗は金で縁取られているのがわかります。泳いでいる鯉のぼりを眺め仰ぐだけだと気付けないこともあるので、一度、自分で作って立ててみる、というのもおすすめです。


    手描きの鯉のぼりを見せる西村さん
    スタッフメモ
    イメージに頼っていて、実物のことはきちんと認識していないことって確かにありますよね。小さい頃、イルカといえば鮮やかな水色をしていると思い込み、水族館で見てみて「案外地味な色だな……」とがっかりした覚えが。
    改めて、わかっている気になっているものでも、描きとってみたり、近くで触れてみるのが大切。


    ちなみに、選ばれなかった句についても、簡単に選外の由が共有されていきます。スタッフの句、
    かしわもち母は買えども子は食わず
    には、「ちょっと当たり前すぎるので、買ってないけど食べた、のように一般的な常識から外す句とする方法もあります」とのコメントをもらいました。

    あっというまの4時間。
    麒麟俳句会は100人以上いる大所帯の結社なんだそうで、今回、東京では結社「麒麟」創刊から2回目の句会とのこと。出来立てほやほやの「麒麟」創刊号を頂きました。気になる結社誌の中身もほんの少しご紹介。

     結社誌では、会員(結社のメンバー)が各号の締め切りまでに「投句」を行い、その中から主宰の西村さんが選を行って、「天」「地」「人」「一席」「二席」……と、順に掲載された上で、投句された全員の作品が掲載される仕組みになっているようです。

     そのほか、「麒麟の本棚」として、インタビュー「俳句のススメ」でも紹介されていた『近現代詩歌』の紹介記事も載っていました。それぞれの記事については、結社の会員が執筆しており、記事を書くことでも、読むことでも、俳句への理解が深まりそうです。

     ちなみに、結社の番外編的な活動として、メンバーで吟行に出かけたりもするとのこと。たしかに休日の趣味としても、人との繋がりに広がりができて生活が楽しくなりそう! と思いました。


    この句会のあと、美味しいピーマンを食べた時に、「旬は?」「いつの季語?」と検索してしまいました。これが「季語脳」……! その場で作品を集めて、参加者全員が各々の作品を読むことができる、というのは小説では絶対不可能な体験で、とても新鮮でした。

    というわけで初心者でも俳句は存分に楽しめるので、みなさんお気軽に第1回カクヨム短歌・俳句コンテストへご応募くださいね!


    【7/10まで】レビューでつながる短歌・俳句キャンペーン

    <参加方法>
    キャンペーン期間内に「第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト」の応募作品に対して文字付きレビューを投稿してください。


    kakuyomu.jp

    <対象期間>
    2023年6月28日(水)~2023年7月10日(月)23:59投稿分まで


    <賞品>
    参加された方の中から、抽選で50名さまに図書カードネットギフト500円分をプレゼント


    <結果発表>
    カクヨムにご登録のメールアドレスへの賞品の送付をもって、当選発表に代えさせていただきます。送付は2023年7月頃を予定しています。

    初めて★を付ける、文字ありレビューを投稿する方へ

    ★の付け方、文字ありレビュー投稿の方法については、ヘルプセンターの「小説を評価する」をご参照ください。

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