第9回カクヨムWeb小説コンテスト 大賞受賞者インタビュー|榮織タスク【エンタメ総合部門】

カクヨムコンテスト10への応募者の皆さまと同様に、かつてコンテストに作品を応募し、見事大賞に輝いた受賞者にインタビューを行いました。
大賞受賞者が語る創作のルーツや、作品を書き上げるうえでの創意工夫などをヒントに、小説執筆や書籍化への理解を深めていただけますと幸いです。

今回は、第9回カクヨムWeb小説コンテストでエンタメ総合部門大賞を受賞し、2024年12月10日に電撃文庫より書籍版が発売される銀河放浪ふたり旅~宇宙監獄に収監されている間に地上が滅亡してましたの著者、榮織タスクさんにお話を伺います。

第9回カクヨムWeb小説コンテスト エンタメ総合部門大賞
銀河放浪ふたり旅~宇宙監獄に収監されている間に地上が滅亡してました(榮織タスク)

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──小説を書き始めた時期、きっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。

 最初に書き始めたのは高校生の時です。高校受験に失敗して、滑り止めの高校に進んだことで勉強そのものへの意欲がはっきりと失われていた時期でした。最初はノートにつらつらとキャラクター同士のかけあいを書くだけの稚拙なものでした。
 その時は単なる授業についていけないことへの逃避だったんですが、大学生でゲーム・アニメの二次創作にがっつりと嵌まりまして。色々な二次創作サイトを回って読み漁り、自分も書いてみたいなと思い始めたのがきっかけです。
 何本か短編の二次創作をサイトで公開した後、オリジナル作品もやってみたいと思って大学四年の時にファンタジア大賞に応募したのが一次創作の最初の作品ですね(結果は一次選考落ちでしたが)。そこから就職して執筆活動を再開するまで10年の空白がありました。空白の理由は単純に仕事が忙しかったからです。
 影響を受けた作品については(今回に限ると)幼少期に見た「宇宙船サジタリウス」かなあ。SF小説は実はほとんど読んでこなかったんです。

──今回受賞した作品の最大の特徴・オリジナリティについてお聞かせください。また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどんな点だと思いますか?

 SFで受賞した身でこれを言うのはどうかと思うのですが、先程も申し上げた通り、SF系の作品は私には難しくて、長編・短編問わずほとんど読んできておりません。
 知識がない身で変に小理屈をこねても良いものは出来ないなと思いましたので、「すごいものは何となくすごい」「不思議なものは何となく不思議」と説明しないSFにしようと割り切ることにしました。
 作風に関しては、私の世代や私以上の世代の方にクスっと笑っていただけるような要素を各話のタイトルなどにちょいちょいと入れたりもしました(僕は別にピテカントロプスじゃない、など)。分かってくださる方がいてくださって、結構嬉しかったです。
 作品のコンセプトは『「そうそう、こういうのでいいんだよ」って思ってもらえるSF』ですので、支持をいただいたのはそこであって欲しいなとは思っています。

──作中の登場人物やストーリー展開について、一番気に入っているポイントを教えてください。

 作中の登場人物で一番気に入っているのは、テラポラパネシオです。当初は「宇宙空間でふわふわ浮かんでいても違和感がないやつ……うん、クラゲにしよう」で作成されたキャラでしたが、思った以上に自由奔放な生物になってくれました。
 地球人の当たり前が通用しない社会、という観点においては作中最も作者の意を体現してくれたキャラクターだと思っております。

 黒井ススム先生にデザインしていただいたキャラクターは、それはもう全部素晴らしいんですけれども、その中で選べと言われると表紙の中央に位置している機械ボディのエモーション(個人的には小エモと呼んでいます)か、リティミエレさんか、やっぱりテラポラパネシオか……選べませんねやっぱり。

 ▼『銀河放浪ふたり旅 ep.1』カバーイラスト



▼キャラクターデザイン
左からカイト(連邦加入前、後)、エモーション(人型、球型)、リティミエレ、テラポラパネシオ https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/k/kadokawa-toko/20241203/20241203172713.png

 好きなことやこだわりを反映したところ……と言われるとすぐには思いつきませんが、カクヨム連載版の方では趣味の燻製づくりをちょっと描写の一環として入れています(だいぶ後ですけど)。

──受賞作の書籍化作業で印象に残っていること(例:大変だったこと、面白かったこと、編集者との印象的なやり取り など)を教えてください。

 オンラインでの打ち合わせをこれまでに二回行っていますが、もっとも白熱したのは作品のタイトル決めでした。元のタイトルは『銀河放浪ふたり旅』だけど最初は別に放浪してなくない……? という鋭いツッコミを受けて、担当さんお二人とそこそこ長い時間をかけてタイトル・サブタイトル決めの話し合いをしたのが凄く印象に残っています。
 最終的には無事『銀河放浪ふたり旅』を死守出来ましたので、とても満足しております。

──書籍版の見どころや、Web版との違いについて教えてください。

 WEB版では12月1日の公開日から、取り敢えず期間終了まで毎日3000字を更新しよう、という目標を立てて取り組みましたので、全話最低限3000字以上になっています。
 ですがそれを書籍に直すと、章立てで描く上では余分になってしまうところもあるわけです。削ったり、足したりする必要が出てきます。今回の書籍化部分で言いますと、ギルベルト・ジェインの過去話に関してはかなり削りました。
 あとは個人的な手癖になってしまっている部分なのですが、「最初にストーリーの途中をプロローグ的に持ってきて、そうなった経緯を説明する」という展開を最初に書きがちです。今回はその順番を整えて、新たにプロローグを書き下ろしておりますのでWEBからの読者の皆さまも、少しばかり新鮮な気持ちでお読みいただけるのではないかと思います。
 見どころはカイトが外宇宙文明と出会うシーンですね。WEB版と違い、カイトが自分の命や生きる事に向き合う形に変えております。お楽しみに。

▼『銀河放浪ふたり旅 ep.1』口絵イラスト
地球軌道を離れ宇宙の果へ旅立つカイトとエモーション https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/k/kadokawa-toko/20241203/20241203173520.png

──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんな中で、ご自身の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?

 特に工夫や努力をしたことはありません。Xで更新のたびに「更新しました」とポストすることはありましたが……。作品については徹頭徹尾「書きたいものを書きたいように書いている」だけで、工夫や努力と呼べることはしていませんし。
 今回の作品で特別に挙げることがあるとするなら、先程も書いた通り『毎日更新したこと』です。12月1日から1月末まで、取り敢えず毎日3000字書いて上げようと。年末年始も変わらず、例外を作らず、毎日。本当にそれだけしかしていなくて、工夫や努力と呼べそうなものは他には何もありません。

──これからカクヨムコンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。

 カクヨムコンは第一回から参加しています(皆勤ではないのです)が、読者選考はある程度通過してきた経験はあります。ジャンルも一定せずにあれこれ書いてきて分かったこととして、まず私の場合「書きたいことを書かないとどこかで行き詰まりがち」という残念な欠点があります。「〇〇が流行しているから書いてみよう」と書き始めて、上手くいったためしがないんです、実は。
 自分が好きなものを、注げるだけの情熱を注ぎ込んで書き上げる。Webで創作活動をこれから始めたい方は、まずそれだけ考えて始めてみてはどうでしょうか。

 そこから一歩先に進んでコンテストに挑戦するとなると、このインタビューにもありました通り「支持される」必要が出てきます。好きなものを好きなように書きつつ、「そうそう、こういうのを読みたかったんだよ」と思ってもらえるポイントを用意しないといけない。ですので「好きなものを好きなように書く」よりもちょっぴり難しくなりますね。
 「こういうのを読みたかった」と思ってもらえるポイントをどこに置くか、というのがきっと重要なところで、ジャンル・ギミック・キャラクター……と選択の余地はすごく多いわけです。「まったくオリジナルの作品を生み出すのは難しい」なんて言説を聞くことが時々ありますが、そんな中でも新しさを感じられるギミックやジャンルの組み合わせを見つけ出すこと。それを楽しみながら探してみるのが良いのではないでしょうか。
 今回受賞した「銀河放浪ふたり旅」の着想の原点は、「追放モノは好きだけど、あまりざまぁはさせたくないな」「追放モノとSFを組み合わせてみたらどうだろう」「(頭の中を唐突に流れる昔なつかし「さよなら人類」)」の三つでした。

 読者選考を通過出来た後は、本当に皆さんの作品と編集部さんの意向がマッチングするかという問題だと思いますので、そういう意味で「運があるかどうか」だと思います(拙作はカクヨムコンの期間中、ジャンル別ランキングで最後まで1位にはなれませんでしたし)。
 つらつらと書いてきましたが、最終的には皆さんの頭の中にある「魅力的な主人公」「魅力的なキャラクター」を作中で大いに遊ばせるだけだと思います。
 楽しんで行きましょう!

──ありがとうございました。




第9回カクヨムWeb小説コンテスト エンタメ総合部門大賞『銀河放浪ふたり旅~宇宙監獄に収監されている間に地上が滅亡してました』は2024年12月10日に発売されます!

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