第26話 獅子、蛇、山羊

「緊急依頼なんてラッキーね」


今回のような緊急の依頼はそのほとんどが協会からであり、すぐに動ける勇士団も少ないため報酬金は高く支払われる。


「気を抜くなよ?もしパンサークローが全滅していたら、俺らに危険が降りかかるかもしれないんだからな」


「入団して早速仕事ができるだなんて、なんだかツいてる気がしますよ」


エドはご機嫌な様子だったが、ジーナは初の依頼が様子見という内容に少々不満そうにしていた。


「ところで、エドはどこで支援魔法を覚えたんだ?」


「僕の師は村長です。昔は勇士として王都にいたみたいなのですが、引退してからは故郷の村に戻ったみたいで」


支援魔法はジーナのような属性魔法とは違い、聖樹と呼ばれる木から作られる楽器で、特定の音を奏でることによってその効果が発揮される。

ガブルの弦楽器や、エドのような笛でその効果には若干の違いがある。


「興味深いな。エド、得意とする支援魔法はなんだ?」


「基本的には戦闘の方がメインですね。本当に少しだけでしたら、相手の動きを止めることもできますよ」


「それはすごいな、是非今度私にかけてくれないか」


すると、先頭を進んでいたウェルは足を止めた。


「着いたみたいだ」


四人の目の前には大きな洞窟の入り口があり、周りの風は誘われているかのように吸い込まれていく。

慎重に進んでいくと、一人の勇士が横たわっていた。

リコが駆け寄り安否を確かめると、辛うじて意識はあったが致命傷を負っていたため、助かる見込みはすでになかった。

倒れていた勇士はこちらに気付くと、消えそうな声で忠告をした。


「お前ら勇士だな・・・この先はやめておけ・・・四人でどうにかなる相手じゃねぇ・・・」


「おい、一体何があった?・・・おい!」


それだけ言い残し、彼は意識を失った。

先に進むにつれ倒れている勇士は増えていく。


「よいのか?これ以上は否が応でも戦闘になるかもしれんぞ」


ジーナが助言をするが、ウェルは歩みを止めなかった。


「もし生存者がいたら見捨てるわけにもいかないからな、危険だと思ったらすぐに出口に向かって走ってくれ」


その時、呻き声が聞こえた。

そう遠くない、むしろ暗闇で見えないがすぐ近くだと四人は感じた。

全員戦闘態勢に入り、少しづつ進んでいく。


何かがいる。

ゆっくり灯りを当てるとそれは立ち上がり、こちらに向かって大きく吠えた。

その声は叫びにも近く、言いようのない恐怖が四人を襲う。

しかしこれは何度も見たことがあるような感覚。

魔物を追い詰めた時によく見せる、最後の威嚇の瞬間によく似ていた。

死を覚悟した魔物はその命を投げ出してでも、相手を殺そうとする最も危険な状態。

目の前の魔物は今まさにそれだった。


「こんな魔物・・・見たことない・・・」


リコはイースタリアに生息する魔物なら何冊もの本から把握していた。

しかし今、どの本にも記されていなかった魔物が四人の前に立ちはだかる。

その姿は頭は獅子、尾には蛇、胴は山羊という奇妙なもの。

ウェルはその場に倒れている多くの勇士に目をやったが、生きている者は皆無と判断した。


「ゆっくり下がろう・・・。背を向けず、ゆっくりと・・・」


じりじりと後ずさるが、すでに四人を敵とみなしたのか魔物は前足を大きく浮かせた。


「来るぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る