第3話 盗賊

昔から正義感が強く、物怖じしないウェルがこの事態を見逃すとは思っていなかったが、今までとはわけが違う。

カイは一応ウェルに確認をする。


「お前な、あの数が見えないのか?ざっと30人はいるぞ。対してこっちは二人に武器もない」


「あぁそうだ、このボウズの言う通りだ。やめときな」


店主は裏口に案内しようとするが、ウェルはついていこうとはしなかった。


「俺一人で行くよ」


そして頑固者、カイはこれもよく知っていた。


「わかったよ、言い出したら聞かないもんなお前は」


「・・・本当にやるのか?」


「俺らが気を引いてる間に逃げてください」


立ち上がろうとするウェルを、店主が掴んだ。


「だったらできるだけ長い事時間を稼いでほしいからな、ついてきな」


すると裏口ではない別の扉の前まで二人を案内した。


「なんだっていうんだよ」


「丸腰じゃ出て行ってもすぐ捕まるのがオチだろうからな。ほら、これ持っていけ」


そういうと店主は二人に短剣を差し出す。


「こんな時のためだったんだが」


本当は自分がその短剣を握り、盗賊に立ち向かっていくべきだということはわかっていた。


「気にするなオッサン、俺らは勇士〝見習い″だ。あんな連中すぐ追い払ってやるからよ」


「ありがとうございます、お借りします」


二人は腰にそれを携え、盗賊の元へと向かう。


ウェルのカウントダウンで二人は一斉に斬りかかった。

日々の鍛錬がこの日、はじめてその力を発揮する。


「さすがに実戦は思うようにいかないな」


「油断するなよ、カイ」


二人、三人と盗賊を倒していく。

しかしここで騒ぎを聞きつけた盗賊達がぞろぞろと集まりだし、二人はあっという間に囲まれてしまった。


「おいおい、こいつはまた元気なガキ共がいたもんだなぁ」


一人の男が前に出る。

その様は他の盗賊とは明らかに違っており、リーダーと考えるのが妥当であった。


「決めた、お前らもいただいていくとしよう」


男はゆっくりと剣を抜きながら、まるで買い物でもしてるかのようにそう言い放つ。


「カイ、来るぞ」


「先手必勝だ」


ウェルとカイはほぼ同時に斬りかかった。

が、男はそれをするりと避けるとウェルの足に一太刀いれた。


「ウェル!」


太ももからは血が流れだす。


「大丈夫だ!集中しろ!」


ニヤリと笑うと、男は剣を肩に置いた。


「そうだぞ、集中しろ。お前らの生死がかかってるんだ」


次に狙ったのはカイだった。

不意を突かれたが寸前のところでこれを剣で受けた。

しかし威力は凄まじく、後頭部を強打して意識を失ったカイ。


「あーあ、所詮はガキか」


すると盗賊の一人が男に駆け寄り、耳元で何かをささやいた。


「チッ、はえーな。おい、傷物のガキは捨てとけ。そっちのガキを馬車に積めろ」


カイは手足を縛られ、盗賊に担がれた。

ウェルはこの瞬間も襲い掛かるが、それも虚しくカイは馬車の中へと消えて行った。


「待て!」


追おうとするが、足のケガで思うように走れない。

盗賊達はすぐに見えなくなり、散らかった町の中に置き去りとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る