第6話 第一歩
「ここで少し休もう」
ロックのその言葉で団員達は腰を下ろし、長旅で疲れた体を休ませる。
ウェルはロックの元へ行き、一つ頼み事をしていた。
「稽古をつけてくれませんか、ロックさん」
魔物を討伐した際に見たロックの腕を、ウェルは体感したくなっていた。
周りからは贅沢だと野次を飛ばされたが、それでも頼むことをやめなかった。
「お願いします」
「稽古ねぇ・・・どうせなら勝負にしないか?」
「勝負?」
「ああ、そうだ。負けたほうは何でも言うことを聞くってことでどうだ?」
団員達からは歓声があがり、場は盛り上がりをみせる。
「わかりました、それでいいです」
ウェルは剣を借りると、万が一でも勝てた時のことを考えていた。
二人は少し離れた位置で向かい合い、団員の一人が始めの合図をする。
だがロックは剣を抜こうとはしない。
「ロックさん、ふざけているんですか」
「俺はゴールドランクの勇士団長だぜ?これくらいのハンデは当然だ」
この事態を想像していたなかったウェルは心に火が付いた。
勝てはしなくても、剣くらいは抜かせてやろう。
深く息を吐き、剣を振り上げロックに向かっていく。
だが振り下ろすその剣は空を切り、腕を掴まれ投げ飛ばされる。
転がった剣をロックが拾い上げ、笑みを浮かべた。
「俺の勝ちだな」
ウェルは一瞬の出来事に頭が追いついていなかった。
地面に大の字で寝転んだまま、ただ呆然としていた。
「今日からお前はイーグルの一員だ。雑用からだが、勇士として励めよ」
ロックが敗者のウェルに与えた罰は、そこまで罰にならなかった。
なぜなら、ウェルが勝てた時はイーグルの一員にしてくれと頼もうと考えていたからだ。
団員達も新しい仲間ができたことに喜んだ。
しかしウェルには、嬉しさとは別に少し複雑な部分もあった。
カイのことが気掛かりであったからだ。
「王都に着いたら、まず勇士としての登録を済ませなきゃならない。もしかしたら、その友達がお前の名前を見つけて会いに来てくれるかもしれないな」
ロックはそこまで考えていた。
それを聞いたウェルはどこか心が晴れたのか、全身から力が抜けていくのがわかった。
「これからよろしくお願いします。ロックさん、皆さん」
ウェルは念願の勇士となり、夢への第一歩を踏み出した。
「王都にはまだ俺らの仲間がいる、着いたら紹介するさ」
約束の勇士団設立はすぐにはならなかったが、ウェルは大切なことをここで学んでいくこととなる。
すでに王都までは目と鼻の先まで来ていた。
「見えたぞ、あれが王都だ」
ウェルは言葉を無くした。
それは城壁に覆われ、中には高い城がいくつも建っていたのが離れた位置からでもわかった。
「どうしたウェル?」
村にいたら一生見ることがなかったであろうその景色に、ウェルは感極まっていた。
「ロックさん、早く行きましょう!」
「そう急かすな、まだ少し距離はあるぞ」
王都は大陸の北部に位置し、海に面している。
貿易や漁業も盛んで、海賊からの護衛として勇士団に依頼する者も少なくない。
城壁の門をくぐり抜け、まずは中心部にある王国勇士協会へと向かった。
「先に登録だけ済ませておけ。早いに越したことはないからな」
ウェルは言われるがままそこで降り、中へと入って行った。
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