第六章 不在

第16話 召集

「箱が空だった?」


ロックの顔は一気に険しくなる。


「あの遺跡は昔、一人の賢者がある物を保管するためだけに作ったものだ」


その昔、ウェスタリアとの戦争で一人の賢者がその猛威を奮った。

本来魔法とは、一冊の本からそのすべてを学び自らの力にするもの。

火、水、風、地、すべてはこの四つに分類される。

しかしその賢者は、どれにも属さない魔法を使った。

そして死ぬ間際、その魔法を杖に変えこの世を去った。


「それがあの遺跡に保管してあった杖だ。知っての通りガーゴイルがあの強さ、盗み出すのは至難の業だ」


このことは勇士協会でも問題となっていた。

盗み出した者がいるということは、かの賢者がそうだったように協力な魔法を得た者がいるということになる。

協会は杖を盗み出した者に懸賞金をかけ、情報収集に力を注いだ。

賢者の杖の話が王都中に広がるのは、そう時間はかからなかった。


しかし協会の努力も虚しく、それらしき情報が入ることも盗み出した者が捕まることもなかった。


時を同じくしてウェスタリアとの戦争は激化する一方、ロックは王国に招集されていた。


「私はこの国の軍務大臣を任されているイングだ。今日はよく来てくれた」


招集されたのはゴールドランクばかりの勇士団長。

この顔ぶれが集まることはそうはないことだった。


「今回集まってもらったのは、今もなお続いているウェスタリアとの戦争の件だ」


この場にいる全員が招集された時点でわかっていた。


イングの話とは、報酬金をはずむから戦争に参加してくれという簡単なものだった。

しかしウェスタリアに渡り戦争に参加するとなれば、それはいつ帰還できるのかさえわからず、いくら金を積まれても決して請けたくはない依頼だった。

だがもしここで断れば、王国からの依頼は途切れ、勇士団の存続すら危うい事は明白であった。


結果は満場一致で参加。

しかしロックはここで挙手をする。


「君は・・・おお、デザートイーグル勇士団長ロック・ブリス君か。何かな?」


「戦争へ参加はする。・・・だが条件がある」


「聞こう」


「一部の団員のみを連れて行くことを許可してもらいたい」


「それはつまり、団員すべては無理だと?」


「そうだ。この条件をのんでもらわなければデザートイーグルは参加しない」


「・・・いいでしょう、他の勇士団もそれで構わない。だが部隊の編成はこちらで行う、それで構わないかな?」


「・・・ああ」


ロックはホームへ戻ると、このことを団員すべてに話した。


「と、今言ったとおりだ。当然無理にとは言わない、ついてきてくれる奴はいるか」


その団員すべてが手を上げた。

当然ウェルもその一人だった。


「ロックさんが行くなら、俺も行きます」


「気持ちはうれしいが、それはダメだ」


「行かせてください!」


「ダメだ、お前は残れ」


ウェルが手をあげることはわかっていた。

しかしまだ経験の浅いウェルやリコが行ったところで死ぬことは目に見えている。

ロックはデザートイーグルの古いメンバー30名ほどを選び、傭兵として参加する書類にサインするよう渡した。


次の日の朝。


「レイナ、後のことは頼んだぞ」


「わかってるわよ。・・・気を付けてね」


「ああ、行ってくる」


ロック率いる団員達は、王国の船に乗りウェスタリアへと旅立った。

こうしてデザートイーグルは半数以上が戦争へと向かい、団長は不在となる。

取り残されたウェルは、ロックが帰ってきた際には見間違うほどの立派な勇士になっていようと請ける依頼を増やした。

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