第17話 昔話
この日、早めに依頼を終えたウェルはレイナの手伝いをしていた。
「悪いわね、ウェル君。休みたいでしょうに」
「ああ、いえ。それより前から聞こうと思ってたことがあるんですけど、いいですか?」
「あら、怖いわねぇ」
「いつ頃ロックさんと知り合ったんですか?」
「なぁんだ、そんなこと。そうねぇ・・・あの人も私も、まだ勇士として駆け出しの頃ね」
そういうと、レイナは思い出し笑いをして続けた。
「この勇士団ってね、私の父が創ったの。あの頃、近所で悪さばかりしていたロックを父が引き取ったのよ。それからはよく三人で組んで仕事をしてたわ。私も今みたいに料理番ばかりしていたわけじゃなかったから」
「三人・・・?」
「もう一人いたのよ、あの人と良く似たおバカさんが」
あの強くて頼りがいのある男が、どんな人生を歩んできたのかウェルは興味津々だった。
「ルーカスっていうんだけどね、顔を合わせればロックとケンカばかりしてたわ。仲が良いのか悪いのかよくわからないほど。でも今思うと、きっと良かったのね」
「その人は今どこにいるんですか?」
スープをかき混ぜていたレイナの手が一瞬止まった。
「・・・死んじゃったの」
ウェルは一瞬驚き、すぐに謝罪した。
「すみません、悪い事聞いちゃって・・・」
「いいのよ、もうずいぶんと昔の話。私も彼も、ルーカスを助けられなかったことは当時相当悔やんだわ」
三人は討伐依頼に向かい、対象の魔物との戦闘の末崖から落ちたジルは命を落としたという。
「その頃はね、ロックはアタッカーだったのよ」
「ロックさんがアタッカー?」
「トップだったルーカスを失った代わりに、彼が躍起になって練習したの。もう誰も失わないように、俺がトップとなってみんなを守る!とか言っちゃってね。笑っちゃうでしょ?」
ロックにそんな過去があったことを知ったウェルは、どこか苦しくなった。
死んでいないとはいえ、カイと離ればなれになってしまった自分に優しくしてくれたのも納得ができた。
「そろそろみんな帰ってくる頃合いよ、急いで作っちゃいましょ」
慌ただしく用意を済ませ、団員達の帰りを待つ。
半数以上が戦争に向かい、広々としたホームでの食事は何度食べてもあまり味がしなかった。
この光景を見ていると、いつまでこれが続くのか不安になり急いでスープを胃に収めるとウェルは自室に戻っていった。
勇士になってからもうすぐ半年が経とうとしていたが、そのほとんどを魔物の討伐依頼で生計を立てていたため、戦争とは未だ無縁であった。
不安に押しつぶされそうになる苦しみから、ベッドに潜りこむとそのまま眠りについた。
しかしこの不安は、次の日取り除かれることとなる。
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