第18話 師が残したもの

「レイナ・ブリス様はおられますでしょうか」


朝食を作っていたレイナはエプロンを外し、扉を開けるとそこには一人の兵士が立っていた。


「私ですが」


「おい」


兵士は部下に声をかけると、ホームになにやら運び出した。

レイナ同様、ウェルを含む他の団員もすぐにそれが何かわかった。

運ばれてきたのは団員達の死体だった。

その中にはロックの死体も含まれていた。


レイナはその場で膝から崩れ落ち、両手で口をおさえ目を強く瞑った。

ウェルも頭が真っ白になり、立ち尽くす。


「ロック・ブリスを含むデザートイーグル勇士団、計30名。・・・ここに戦死を告げます」


兵士はそれだけ言い残し、冷たくなったロックや団員達を残し去って行った。

中には死体すら回収してもらえなかった仲間もいた。


レイナはその後一人塞ぎこむわけでもなく、ましてや大声をあげ泣きわめくこともせず、ただ淡々とロックたちの埋葬の準備を進めた。

その夜、ウェルは自室でひとしきり声を殺して泣き一階へと降りる。

そこには一人ロックの酒を呑むレイナがいた。


「ウェル君、よかったら一緒にどう?」


泣き終わった後の腫らした目を見られたくはなかったが、断る気にもなれず椅子を引いて座った。

レイナはグラスをもう一つ持ってくると、ウェルの前に置き酒を注いだ。

一口飲んだ途端、またも涙が込み上げてくる。


「勇士をやってるとね、仲間の死は珍しくないわ。でもね、決して慣れないし、慣れてはいけないものなの」


ウェルは言葉が見つからず、沈黙を続けた。


「だからね、ウェル君。泣いたっていいのよ」


堪えきれなかったウェルの目からは涙があふれた。


「ロックがよく言ってたの。ウェルは俺を超える勇士になる、それを見届けていきたいって」


黙って頷くことしかできず、ただただ静かに泣いていた。


次の日、団員全員で冷たくなった仲間たちを埋葬し墓を建てた。


―――二代目デザートイーグル勇士団長ロック・ブリス ここに眠る


勇敢に戦った団員達の名前も墓石に彫った。

花を添え黙祷し、別れを告げる。

ロックの死を知ったキャメルも花を手向けに訪れた。


「キャメル・・・来てくれたのね」


「レイナを置いて先に逝くなんて、あいつは本当に大馬鹿野郎よ・・・」


ロックの墓を訪れたのはキャメルだけではなかった。

ゆかりのあった者が列をなし、黙祷を捧げた。


名目上レイナがデザートイーグルの団長となったが、レイナ自身が依頼を請けることは今まで通りなく料理番に徹していた。

リコもロックの死を知った時は深く悲しみ、しばらくは自室に閉じこもっていたが徐々にレイナの慰めで心の傷を癒していった。


ウェルは食事もおろか、ほとんどのことが手につかずただ墓石を眺める日々が続いた。

しらばくすると、今度は憑りつかれたかのように依頼に没頭し始める。

無茶な依頼へ一人で行き、八つ当たりをするかのように剣を振り回しては疲れ果てた体で毎日ホームへと戻った。


「ウェル君、たまには休んだら?」


レイナが心配そうな顔で声をかける。


「いえ、これくらい平気です。もっと強くならないと」


その姿に、レイナはルーカスを失った時のロックが重なって見えていた。


「あんまり無理はしないでね・・・」


ちょうどあの頃も同じ言葉をロックに投げかけていたことを思い出す。


数日が過ぎ、この日もまたボロボロの体でホームへと戻ると、レイナが駆け寄ってきた。


「ウェル君、いいこともあるものね」


ロックを失ってから、レイナははじめてここで涙を流す。

涙の理由はロックとの子どもを授かっていたからだった。

残された団員達はこのことを喜び、久しぶりにホームに笑い声が響く。

人一倍落ち込んでいたリコは、この話を聞いて人一倍喜んだ。


さっそく名前を決めることになると揉めに揉めた。

数時間話し合った結果、

男ならアキレア、女ならアイリスとなった。


この夜、団員達はロックの好きだった酒で乾杯をした。

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