第8話 依頼書

「なぁ、リコってポジションは何をやっているんだ?」


この日、ウェルとリコはホームの掃除当番だった。


「私はリカバリー。大抵の治癒魔法なら使えるようになったんだよ?」


どうだと言わんばかりにウェルの顔を窺う。


「デザートイーグルに入ってからはどれくらい経つんだ?」


「三年くらいかな」


「俺だってそれくらい時間があれば立派なトップになれてるはずだ」


「あら、そう。頑張ってね、新人さん」


ウェルの負けん気がというよりは、少し可愛く見えたことがリコにとって可笑しかった。

ちょうど掃除を終えた頃、団員達が集まり何やら騒がしい。


「しまった!今日だった!」


リコは慌てて掃除用具を片付け、一階へ降りて行った。

この言葉の意味が理解できていなかったウェルも、後を追うように降りていった。


「今日何かあるのか?」


「個人、王国からの依頼は勇士協会に集められるの。それが月に一度、各勇士団へ依頼書として配布されるのよ。請けたいのがあればその依頼書を持って勇士協会に行くって流れなの」


それはつまり〝早い者勝ち″ということだった。


レイナがボードに依頼書を貼りだすと、団員達は一斉にそこへ群がる。

ウェルははじめて見る依頼書を、ただぼーっと眺めていた。


「手頃な依頼があるぞ、ウェル」


ロックは一枚の依頼書を差し出した。


―――オーク討伐依頼書


オークとは下級の魔物。

一匹に対し、一般兵士一人分の戦力だと言われている。

勇士となったウェルに、この依頼は不満だった。


「ロックさん、俺はもう勇士なんです。もう少しマトモな依頼をやらせてくださいよ」


「まぁまぁ、よく見てみろ。討伐目標はオークだが、その数は8体。報酬金は20金だぞ?一人ではキツいだろうが、二人で行けばそこそこおいしい仕事だ」


確かによく読んでみるとおいしい仕事ではあった。

しかしまだ依頼をこなしたことのないウェルにとって、肝心な組む相手がいなかった。


「まぁこの依頼ならリコがちょうどいいかな。一緒に行ってやってくれ」


リコは二つ返事でこれを承諾。


「ウェル、ちょっと外出るか」


ロックの唐突な言葉に、ウェルは外へ連れ出された。

ホームを出ると、ロックは何も言わず歩き出す。


「ど、どこ行くんですかロックさん」


「ついてくりゃわかる」


着いた先は人気のない路地裏にたたずむ一件の店だった。

〝ドレスアップ″とだけかかれた看板が掲げてある。


ロックは店に入ると、ウェルも後から恐る恐る続いた。

店内は静まり返っており、客は一人としていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る